すくり~んエッセイ  名画座という名のタイムマシン

◆ 受難に次ぐ受難の映画人生を生きた男 < 後篇 >

 今井正監督の作風は、後輩の大島渚らが標榜したような急進的な社会告発や革命性ではなく、下から目線で庶民と社会を描く穏健なものだったから、時に 「情緒過多である」 とか 「アナクロだ」 とか 「手ぬるい」 「甘い」 などと批判された。

 このず~~~っと後ではあるが、ジャズ野郎も今井監督が 『戦争と青春』 (平成3=1991年)というヤワなタイトルの遺作をもって亡くなった時、

 どーして日本の大監督、巨匠って人達は、最後の最期に繰り言のように反戦映画を撮ろうとするのだ? 
 バカの一つ覚えのように、反戦を叫ぼうとするんだろう?

 と思い、半ばバカにして、この遺作を観るのを敬遠した。

 しかし、さきの今井本に書かれていた『戦争と青春』が製作・公開される迄の〝闘い〟--ほとんど片目が見えず、心臓がマヒして、身体のアチコチに致命的な欠陥を抱えながら、死ぬ覚悟でこの映画の製作に当たった今井監督の決意と行動--
を知って、今はこの映画を敬遠したことを深く恥じている(とはいえ、この映画、後でテレビで観たのだけれど、あまり関心した出来栄えじゃなかった)。

 神代辰巳前田陽一 も、そしてルキノ・ビスコンティ も亡くなる間際には車椅子に座った状態で「ヨーイ、スタート!」をかけたと言われるぐらいに、映画監督はとてもメガホンをとれる体調ではないにもかかわらず、重篤な病身を押して現場に出て指揮を執ったりする。その執念たるや、凄まじい。幽鬼のごとくである。
 
 『戦争と青春』を撮った時の今井正にも、まさにこの執念、いや戦争に対する怨念があったようである。
 封切時、この映画は全国系のメジャーな上映ルートには乗らず、地方の公民館とか市民ホールのような場所での公開だったので、今井監督は集客のために挨拶回りの地方行脚に出たのだが、その草加市でのキャンペーン中に倒れて、息を引き取った。


          享年79歳・・・まさに満身創痍の人生だった。


 今、国会で集団的自衛権を認める安保法案 (安全保障関連法案) が審議されている。
 もし今井監督が健在だったら、国会議事堂を取り巻く反対派のデモの人々の中に車椅子に乗ったその姿を拝めたかもしれない。                              〔続く〕 


            今井正
              今井 正   〔 1912 - 1991 〕


< 『祇園の姉妹』や『浪華悲歌』で日本映画にリアリズムを打ち立て、
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仰る通りです。。。

久しぶりに『キネマの時代』をひもとき、72~77頁を読んでみました。suzuさんの仰る通りですね。「勝手な想像だと、原稿を書くときに『えーと、「妻よバラのように」「噂の娘」あとなんだっけ?そうそう有名な「浮雲」それからあのフテた原節子の・・えーと、そうそう「米」」というような感じで吉村監督は書いたように、私も思いました。
 『米』っていうと、今井正の名作ですから、ココに出てくるのは勘違いとしても違和感たっぷりですけれども。因み、今井監督についてああ書きましたが、『米』は僕も苦手です。あの映画の暗いオチ・・・落ちこみますもん。

こんばんは。いま手元の書籍を確認したところ、「キネマの時代 監督修業物語」(吉村公三郎・共同通信社・1985年6月17日第1刷)の72頁~77頁の「成瀬巳喜男のどん底時代」の最後のほう76頁に、

『この短編をきっかけに成瀬氏は正式の監督になり、数篇を蒲田に残して東宝へ移り、「妻よバラのように」「噂の娘」「浮雲」「米」「めし」「夫婦」「妻」などを作った。ついこのあいだの新聞に、彼がヨーロッパで第三の巨匠(黒沢、溝口、小津に次ぐ)として再評価されているという記事が載っていた』

と書かれてました。「米」と「めし」が記述上は隣接してるけど別モノ扱いっぽく、他の一文字の題名との勘違いでもなく(成瀬作品だと一文字の題名は「妻」のみ)、「米」の字面に似た誤植とも考えられないし、なんとなく勝手な想像だと、原稿を書くときに『えーと、「妻よバラのように」「噂の娘」あとなんだっけ?そうそう有名な「浮雲」それからあのフテた原節子の・・えーと、そうそう「米」(と原稿用紙に記した後に)あいや「めし」(と原稿用紙に記す)だったかな?・・・』なーんて想像しちゃいました(笑)

「米」は「めし」かも・・・

「キネマの時代」読了、ご苦労さまでした。吉村監督に限らず、映画人による映画の本には間違いも多いですが、それを訂正しながら読むのも、また面白さのひとつかと。その、『米』と書かれてある前後の文章を記憶していないので、ハッキリとは言えませんが、成瀬監督に『めし』という作品があるので、間違えていたとしたらコッチかも。

ブックリストのご紹介ありがとうございました。参考にさせていただきます。じつは、ジャズ野郎さんの「巨匠のムチャブリ」エントリーに列挙してあった文献リストを参考に、ちまちまと古本を収集してました。映画本に関して右も左もわからない初心者なので、文献リスト大変役に立ってます。(_ _)ぺこり

昨日、吉村監督の「キネマの時代」を読了したのですが、文中、成瀬作品の代表作に「米」が入ってました。もしかしたら田舎系の「鰯雲」と記憶違いしてたのかな・・・笑

ご愛読、感謝!

「ほくほく」さん改め「suzu」さん、いつもありがとうございます。そうですか、吉村監督の『キネマの時代』を読まれているんですね。そこに私が引用した島津オヤジの蛮行ネタがありますが、吉村さんは他にもいくつも本を出しておりまして、その本ごとに島津オヤジに殴られた、可愛がられた話が出て来るのですが、同じ話がちょっとずつ違った形で書かれていたりするので、「一体、ドッチが正しいの?」と思うところもあります。特に違うのは、島津オヤジのセリフ(吉村に言った言葉、口調)ですかね。割りと正確に載っているなあ、と思ったのは『講座日本映画』のどの巻か忘れましたが、島津監督のことについて書いた記事。でも、この本以外にもいくつもあるので、当たってみるのも面白いですよ。因みに、吉村ブック・リストを下記に。
●『映画は枠だ 吉村公三郎 人と作品』発行・同朋舎、発売・角川書店
●『同時代ライブラリー 京の路地裏』吉村公三郎、岩波書店
●『映像の演出』吉村公三郎、岩波新書
●『青春の読書』吉村公三郎、玉川選書
●『あの人この人』吉村公三郎、協同企画出版部

こんにちは。以前「2015/02/27 アメリカン・スナイパー その4」でコメントさせていただいたほくほくと申します(いまの名前はsuzuです)。あの後、数週間かけてブログ全記事を完読しました。監督列伝が面白すぎて・・・貴重なテキストのシェアに感謝しております。

昨日から吉村公三郎著「キネマの時代」を読んでまして、その中で島津監督の無茶ぶりが書かれてて、ジャズ野郎さんのことを思い出しました。型破り(あるいは人格破綻者あるいは暴力野郎)な映画人が集まってた戦前松竹ほんと面白いですよね。作られた映画作品も面白いけど、それを作ってた人たちはもっと面白かったみたいな。(あくまで他人事です笑)

今回の今井正監督の記事も大変面白く拝読させていただきました。今井監督というと、いわゆるアカ系と大雑把にとらえていたのですが、さまざまなご苦労をされてたのですね。しかもお仲間から強烈な妨害を受けていたとは・・・

いま、Wikipediaの「今井正」も読み終えて、とりあえずイデオロギー云々は置いておいて、亡くなる直前まで映画人であり続けた今井監督の満身創痍な生き様にこころが震えました。

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