巨匠のムチャブリ - 清水宏 恐るべき子供〝天使と悪魔〟 <その1>

 本日から「巨匠のムチャブリ」シリーズ第4弾としまして、松竹黎明期から戦中・戦後を通じて活躍した 清水宏 監督を採り上げます。
 清水監督については、今年 〔 2013 〕 、東京・京橋の国立フィルムセンターで「生誕110年 映画監督 清水宏」と題して特集上映(6月5日~8月7日)がありましたから、それを観に行かれて、このクソデブ監督・・・いや、小太りのトノサマガエル・・・いやいや、抒情(旅情)派のナチュラリストとも言うべき作風に親しまれたファンも多いか、と思います。
 今、期せずして口走ってしまった「クソデブ」「トノサマ」「抒情(旅情)派」は、すべて清水監督の偽らざる特徴でございまして、特に前者の2項目(!)にご注目下さい。
 (おそらく)来年2014年まで続くこのコラムでは、この前者の2項目について<重点的>に扱っていく所存でおります。

 ではまた駄文をば、しばしご甘受下さいませ・・・。

                      *****

◆ 人間ってあんなにエバれるもんかなあ

 野村芳亭島津保次郎と続いた 〝松竹の3悪人〟 も最後の一人と相成りましたが、このたび採り上げる、清水宏は、往年の映画監督にまつわる一般的な悪いイメージ--

〝傲慢で癇癪持ちで色悪〟

 --をもっともストレートに体現した典型的な監督だといえます。
 前述の芳亭将軍も島津オヤジもド外れて尊大で暴力的な人物だったが、清水宏の場合は尊大、暴力とも前記の二人に勝るとも劣らないばかりか、陰湿さの点において野村、島津を数倍するものすごさ。

 戦前、松竹大船撮影所で清水組に助監督として参加した大庭秀雄によれば、

 おっかない監督でねえ、あんな監督はホントにいないね。まさに映画監督を絵に描いたみたいな。人間ってあんなにエバれるもんかなあと思うぐらいだった(笑)。
 あんまりエバってたんで追放食っちゃったんだ。
(大庭秀雄 『人は大切なことも忘れてしまうから - 松竹大船撮影所物語』 山田太一・斎藤正夫・田中康義・宮川昭司・吉田剛・渡辺浩〔ゆたか〕、マガジンハウス)


ということになる。態度があまりに横暴で目に余ったがゆえに大船撮影所から追い出されてしまった、という大庭監督のコメントは真実で、そのことは詳述するが、そもそも清水の横暴というのは、子供じみた〝無邪気な凶暴さ〟であって、いわば悪ガキの、いやガキ大将の腕白な悪ふざけであったが、いったん怒ると手がつけられなかったそうです。   〔続く〕


< 『祇園の姉妹』や『浪華悲歌』で日本映画にリアリズムを打ち立て、
  『西鶴一代女』『雨月物語』などの名作を放った溝口健二の人生を、
  伊藤大輔・小津安二郎・黒澤明などのライバル監督&スタッフとの
  確執とともに描いた、
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巨匠のムチャブリ - 清水宏 恐るべき子供〝天使と悪魔〟 <その2>

◆ 一見すれば善人、付き合えば悪童

 悪ガキが大人になった、という形容がピッタリするのが清水宏である。

 見かけはまさに肥満体で丸顔の童顔であり、悪ガキどころか、一見すると邪気のない善い人のように見える。しかし、この外見こそがクセモノ(食わせモノ)である。

 かつて 三島雅夫 という映画にもよく顔を出した新劇の名脇役がいたが、彼を見ると清水宏を思い出す。三島雅夫は築地小劇場出(左翼)で、当時、演劇をやっていた人たち同様、戦時中には当局の厳しい取り締まりを受けてブタ箱に入るなどの辛酸を嘗めている。
 これは余談だが--戦後、小津安二郎監督が新東宝で 『 宗方姉妹 』 (昭和25=1950年)を撮った際、小津監督が三島を起用したいと言ったら、当時の新東宝社長(佐生正二郎)は「ウチは赤を嫌って出来た会社だから…」といって三島の起用に難色を示したといわれる。
 当時は東宝大争議の余韻さめやらぬ時期であり、新東宝は過激な組合(東宝の第一組合)を嫌って分派してできた東宝系の会社だっただけに、左翼臭の強い演劇人の出演は敬遠された。
 とはいえ、三島雅夫はスクリーン上で別に赤旗を振ったりするような人ではなく、今井正ら左翼系監督の作品や独立プロの作品にもよく出たが、政治的なメッセージを全面に出して云々というような事はなかった。
 これはほかの新劇俳優たちもそうである。三島雅夫の代表作としては、今村昌平監督の 『豚と軍艦』 (昭和36=1961年)の暗黒街を仕切るボスや、川島雄三監督の 『雁の寺』 (昭和37=1962年)などの好色で打算的な和尚役が有名だが、久松静児監督の 『警察日記』 (昭和30=1955年)の田舎交番の温厚なお巡りさんのような、童顔のイメージを生かした善人役も多い。

 清水宏は、<外見的には> そんな三島雅夫に似ているのだが、<内面的> には似ても似つかぬ男であり、清水は三島とは正反対な人物 -ガキ大将、悪童、暴君- なのである。

 その陰惨極まるスタジオ内外での〝悪童ぶり〟をつらつら書き連ねていくとしましょう。  〔続く〕


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巨匠のムチャブリ - 清水宏 恐るべき子供〝天使と悪魔〟 <その3>

◆ 銅像--働かない助監督 <デブ>  〔前編〕  

 清水宏は明治36年(1903)生まれ、あの小津安二郎と同い年である。
 清水が松竹の蒲田撮影所に入ったのは松竹が映画製作に乗り出してから2年後の大正11年(1922年)、彼が19歳の時。小津と年齢は同じだが、入社は小津安二郎よりも1年早い(小津が蒲田に入社したのは関東大震災が起きる直前の大正12年6月)。映画界も他の芸界同様、その世界に入った時期が早く年季の長い者ほど重用され、先輩にはかしづかなければならない。清水宏にとって小津は後輩になるわけだから、さぞ天下の小津安二郎も助監督時代にはイジメられたであろうと考えてしまうが、実際はまったく逆で二人は死ぬまで 大の仲良し であった。

 悪童の清水と人徳者の小津とがなぜ気が合ったのか。
 もっと言えば、ここに京都の 山中貞雄溝口健二 も加わって東京~京都を行き来する一大仲良しサークル(友好関係)が築かれていったのだが、それはどうしてか? その詳細は後に述べるとしよう。

 知人のツテを頼って蒲田に入社した清水は、池田義信監督の組に就いた。池田組には先輩の助監督に 成瀬巳喜男(*1) がいたが、しばらくすると清水は成瀬に向かって--

             「アンタは働きすぎる」

 と苦言を呈した。先輩の助監督にそんな不遜な口をきくところを見ると、清水のヤンチャ心はすでに蠢動していたようである。

 一方、成瀬に〝働きすぎる〟とのたまったご当人はというと、現場でまったく働かなかった。当時、助監督は撮影所内を歩くことはなく、常に走っていたといわれるほど業務に追われていたもので、池田義信監督は人気の栗島すみ子作品を手掛けて常に撮入状態だったと思われるから、その助監督達は毎日、汗水流してかけずり回っていたと思われるが、清水はちっとも働かない。働かないどころか、その巨体をステージにデンと構えて動こうとしなかった。
 あまりにも動かないので、ついに 〝銅像〟 という有り難くない渾名で呼ばれるようになる。それでも本人はどこ吹く風であった。     〔続く〕

*1「成瀬巳喜男の蒲田入社」  成瀬の蒲田撮影所入社は大正9年(1920)というから、松竹が映画製作を初めた年であり、最初は小道具係に廻された。清水が蒲田に入社した大正11年(1922)に助監督になり、その清水とともに池田義信監督に就く。清水と成瀬は助監督歴としてはほぼ同期といっていいが、蒲田撮影所への入社では成瀬が先であるから、清水にとって成瀬は先輩に当たる。


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巨匠のムチャブリ - 清水宏 恐るべき子供〝天使と悪魔〟 <その4>

◆ 銅像--働かない助監督 <デブ>  〔後編〕 

 この〝銅像・清水〟が本物の〝銅像〟に逆らった。
 本物の銅像とは生身の人間--この当時(大正11~13年)、蒲田撮影の所長も兼ねていた野村芳亭監督のことである。まだこの時は野村芳亭の銅像は建っていなかったが、死後(昭和9=1934年)に松竹キネマに対する功績を認められて、その胸像が大船撮影所の前庭に建てられている。
 〝銅像・清水〟は、後に本物の銅像が建つほどに偉大であった野村芳亭に反抗的な態度を示した。所内で顔を合わせても 挨拶をしなかった のだ。
 「挨拶が悪い」として芳亭将軍から名指しで怒られた。
 同じ頃、小津安二郎も朝夕の挨拶を芳亭にしなかったので叱責された(3月27日付【野村芳亭、知られざる巨人 <その9>】)。この二人はそんなところで気が合っていたのかもしれない。

 やがて大正12年(1923)9月1日、関東大震災が起こり、被害にあった蒲田撮影所が復興するまでの間、清水は野村芳亭の指揮のもと俳優やスタッフとともに京都の下加茂撮影所に移る。
 そして同年末に蒲田に戻るのだが、その翌年(大正13年)、清水にとって最大の僥倖が訪れる。清水を気に入り、彼の無理や横暴を大目に見てくれるパトロン的存在の〝大いなる庇護者〟城戸四郎が、松竹本社から蒲田撮影所に異動になってきていたのだった。   〔続く〕


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巨匠のムチャブリ - 清水宏 恐るべき子供〝天使と悪魔〟 <その5>

◆ 城戸のいる蒲田から、将軍さんと一緒に京都へ〝都落ち〟

 城戸四郎はアンチ野村派で、野村芳亭の作る新派悲劇的な湿っぽい映画〔お涙頂戴的な内容の作品〕を一掃して、生活感のある庶民的な作品を作ろうと考えており、その方針が 島津保次郎五所平之助 の手で具現化されて〝蒲田調〟を生み出していったことを先に述べましたが (4月6日地付【野村芳亭、知られざる巨人 <その17>】) 、この城戸が清水宏と意気投合してなにくれとなく彼を重用したのだ。

 城戸が蒲田に赴任すると、タイミングのいいことに〝柳さく子スキャンダル〟が起こって芳亭は蒲田を追われて京都へ都落ちさせられる (4月5日付【野村芳亭、知られざる巨人 <その16>】)

 蒲田は城戸の牙城となり、清水にはうるさい〝将軍さん(芳亭)〟がいなくなるわけだから、欣喜雀躍したことは想像に難くない。すでに清水はこの大正13年(1924)に監督デビューを果たしていた。だから、「いよいよ面白くなってきたゾ!」とほくそ笑んだ事だろう。

 ところが先にも書いたように清水は、都落ちする芳亭さんとともに京都の下加茂撮影所に行くことになってしまう。

 清水にとっては、まさに  オー・マイ・ガッ・・・!  であった。

 清水の生い立ちは後述するが、彼は静岡県磐田郡の山の中で生まれており、幼時に東京芝浜町に引っ越してそこで小学時代を過ごしている(中学は浜松)。生粋の江戸っ子ではないが東京の華やかなさが身に染み込んでいる。そんな都会人の清水にとって、古都とはいえ鬱蒼とした竹藪の中にある田舎くさい京都・下加茂撮影所での生活は嫌で嫌でたまらなかった。 〔続く〕


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『 ラストシーンの余韻 』 発売中!
映画ライター・高村英次、初の書き下ろし長編 『 ラストシーンの余韻 酒乱と失態、女難と頑迷、監督・溝口健二の狂おしき人生 』

高村英次

Author:高村英次
電子書籍版はアマゾン Kindleストア 及び 楽天ブックスから、紙の書籍版は製本直送.comより発売。直近の各コラムの末尾にある発売告知から販売サイトに遷移、またはポップアップ画面が出ますので、そこで購入できます。 

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