Coffee Break 〝触らんこっちゃ〟沢蘭子の話  <前篇>

◆ 関東震災後の大ヒット作『籠の鳥』で人気女優に!

 島津保次郎がちょいと惹かれた沢蘭子(さわ・らんこ)は、なかなか奔放な女優だったようである。もともと宝塚歌劇団出身であったが、公演中、

 …(略)…大阪松竹座の楽長・松山四郎との恋愛問題で同年退団、女児をもうける。
                   (『日本映画俳優全集・女優編』キネマ旬報社) 

           
 この公演は大正10年(1921)7月の開催で、ここで松山と関係がデキて妊娠した、となると出産は翌年(大正11=1922年)ということになる。沢は明治36年(1903)7月29日生まれだから、出産した時はまだ18才か19才、要するに未成年である。早熟ということになるが、とにかくもはや宝塚には居られない。
〝♪ スミレの花ぁ~、咲く頃ぉ~♪〟の宝塚を退団し、
 子持ちとなった沢がやってきたのは、
〝♪ 虹の都、光の湊、キネマの天地ぃ~♪〟の蒲田であった--大正12年(1923)3月のことである。
 そう、この人、映画の振り出しは松竹蒲田なのである。当時の芸名は〝沢らん子〟だったが、鳴かず飛ばずで日活向島へ移籍する。しかしここでも芽が出ず、関東大震災後の大正13年(1924)に帝キネ蘆屋(アシヤ)に移ってここで〝沢蘭子〟を名乗る。
 帝キネにきてようやく主演級になってきたところで、出演した 『籠の鳥』 (同13年)の大ヒットである。これで彼女は一躍、スターに躍り出る。
 帝キネきってのモダン・ガールとして、沢はケバいお転婆娘役を得意とし活躍したようだが、その人気にのってか、昭和2年(1927)には日活へ移籍。この日活では巨匠・伊藤大輔監督の名作『忠次旅日記 御用篇』(同2年)などに出て気を吐いたが、

1929年〔昭和4〕11月に美濃部進と恋愛事件をおこして退社。美濃部と事実上の結婚生活に入り、いったん映画界を離れ、ダンスや声楽を習ったりしていたが…(略)…。
                       (前掲書)    ※〔〕内、ジャズ野郎註。


 というわけで、ここでも男で問題を起こしてしまう。沢と恋愛関係にいたった美濃部進とは、この後、沢とともに松竹入りし、そこでスターになった 岡譲二 の事であり、二人の今で言う〝事実婚〟関係は当時のマスコミを騒がせ、岡も沢とともに日活を退社することになる。    〔続く〕


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Coffee Break 〝触らんこっちゃ〟沢蘭子の話  <中篇>

◆ 小林一三に救われる

 沢蘭子はこれによって一旦映画界を離れることになるのだが、先に書いたように〝沢は年増の割に異様にエロティックだった〟ようだし、その色香は島津オヤジをもマイらせた程だったから、格別彼女が情熱的だったというよりも、妖艶な彼女を男の方で放っておかなかった、という事かも知れない。

 そんな男で問題を起こしては干される沢を映画界に復帰させたのは、沢の芸能活動の出発点である宝塚歌劇団のオーナーであり、当時、松竹興行の相談役だった阪急財閥の巨頭・ 小林一三 であった。小林一三といえば阪急=東宝グループの親玉であるが、この時はまだ「東宝(東宝ブロック)」の発足前で、松竹の経営に関与していた。小林はまだ女優としての華があった沢を、美濃部進(岡譲二)とともに松竹キネマに斡旋し、蒲田撮影所でカムバックさせる(*1)

 島津が彼女とスタジオで対面したのは、ちょうどこの時であった。この時(昭和6年の『愛の闘ひ』ロケ現場)のことを吉村(公三郎)助監督はこう書いている。

 沢蘭子はいやな女だった。監督には変にベタベタと甘ったれるのだが、私たち下っ端の助監督にはいたって傲慢なのだ。
 「愛の闘い」のロケーションの時だ。河原で撮影をやって、昼食の時間になった。みんなに弁当が配られた。食事を終わって監督が「さあ、やろうか」と声をかけると、みんな立ち上がった。ところが沢蘭子だけ腰を下ろしたままだ。
「沢さんどうかしたの」
 と監督が聞くと、
「まだお食事をしてないんです」
「どうして……」
「助監督さんがお弁当持ってきてくれないんです」
 手近に弁当が積まれているのだから、ちょっと腰を上げて自分で取ればいいのだ。ところが監督は、「沢さんのところへいちばんはじめに弁当を持っていってあげればいいじゃないか。吉村も気が利かねえな」
 と言う。私はあわてて弁当とお茶を沢蘭子のところへ持っていく。
「間抜けったらありゃしねえ」
 と師匠に怒鳴られて戻ってくると、先輩の助監督やカメラの助手たちが私に同情し、だれかが言う、
「吉村も苦労だなァ。とにかく、沢蘭子(触らん子)には祟りなしだよ」
            (『キネマの時代 監督修業物語』吉村公三郎、共同通信社)


 というわけで、沢蘭子はスタッフから嫌われ、〝アンタチャブル〟な存在になっていく。
 それにしても、沢蘭子という芸名、そのまま「触らん子」と読めてしまうから、皮肉というか、名は体を表すというか。因みに、彼女の本名は「松本静子」といって、至ってフツーである。  〔続く〕






*1「沢蘭子を松竹に移籍させた小林一三」  沢を松竹でカムバックさせたのが阪急グループの総帥である小林一三であることは本文で書いたが、この時の小林はまだ東宝(PCL、JO、東京発声らを合併させた映画・興行会社の東宝株式会社)をスタートさせる前であったが、宝塚歌劇団を展開していた関係から、同じく歌舞伎・演劇・演芸を展開していた松竹に相談役として参加していたもの。沢の蒲田復帰から6年後、小林は東宝株式会社を設立して映画の製作・興行に乗り出し、松竹の味方から仇敵になる。小林は、昭和14年(1939)をピークとする日活(日活株の取得、買収または会社乗っ取り)を巡る争奪戦において、松竹側の大谷竹次郎&城戸四郎としのぎを削る、壮絶な闘争を繰りひろげることになる。


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Coffee Break 〝触らんこっちゃ〟沢蘭子の話  <後篇>

◆ 波瀾万丈の女優人生!

 吉村助監督らスタッフに嫌われた沢蘭子だったが、女優業はまま順調であった。
 しかし、同じ年(昭和6年)、蒲田入りした恋人の美濃部進が 「岡譲二」 と芸名を変えて再デビューするや、俄然、精彩を放ってスター級に躍り出て、脇役に下がりつつあった沢とは差が開いていく。
 沢にはこれが面白くなく、やがて一人松竹を退社し、千恵プロ(片岡千恵蔵のプロダクション)やPCL(後の東宝)に移るが、やはりPCL系の映画会社に入っていた岡と〝合流〟するも、その関係はついに破局を迎える。

 しかし沢蘭子が凄いのは、この後の男遍歴である! 岡と別れた後、再出発すべくアメリカはハリウッドに赴き、そこで公演に来ていた 近衛秀麿 と関係することになる。近衛秀麿とは、戦前に第1~3次と内閣を3度率いた貴族院出身の総理大臣、近衛文麿公爵の弟で、子爵である(今夏7月27日公開の超大作 『終戦のエンペラー』 では、この近衛文麿を中村雅俊が演じている)。
 当時、近衛秀麿は新交響楽団の指揮者で、ハリウッドに演奏公演にきていて、沢と知り合い、二人は同棲する仲になる。沢は子爵夫人として社交界に登場し、やがて近衛の子を連れてドイツに渡り、戦火の混乱の中で近衛と離れ離れになり、終戦直前に帰国後するも、またぞろ満州に渡ってその地で女児を亡くす・・・戦時中の彼女はまさに波瀾万丈であった。

 戦後、昭和22年(1947)に大映京都に入って女優復帰するが数本に出て退社し、舞台に立ったり、歌手になったりした揚げ句、西銀座にバーを開店する、という零落れた女優のお決まりのルートを辿る。

 50年〔1950年=昭和25年〕5月には再会したものの再び別れた近衛〔秀麿〕を相手どり、婚姻予測不履行の訴訟を起こし話題をまく。
           (『日本映画俳優全集・女優編』キネマ旬報社)※〔〕内、ジャズ野郎註。 


 といったように、かつては愛し、戦後は爵位も剥奪された優男(近衛)を裁判に引っ張り出すなど、もはや女としてはなりふり構わぬ<醜態(あがき)>を見せた揚げ句、 『君と行くアメリカ航路』 (新東宝・島耕二監督、昭和25=1950年)や 『夜の緋牡丹』 (同年、千葉泰樹監督)などに顔を見せてスクリーンに復帰するも、西下して京都でバーを開店したり、シャンソンを歌ったり、再度上京して銀座でバーを再開店するといった具合に、お水な性分を地でいく女優人生を生きた。ある意味、自由に、気ままに、自分に正直に生きた、とも言えるだろう。

 この沢蘭子が人気女優となるきっかけとなった『籠の鳥』については、この【島津保次郎】の項が終わった後で、じっくりと特集しますので、それまでお楽しみに。   〔完〕


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映画ライター・高村英次、初の書き下ろし長編 『 ラストシーンの余韻 酒乱と失態、女難と頑迷、監督・溝口健二の狂おしき人生 』

高村英次

Author:高村英次
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