新作プレビュー  『 ゼロ・グラビティ 』

◆凍てついた宙<Space>、地<Earth>への喝仰・・・〝ひと筆書きの傑作〟

宇宙空間を漂うストーン博士(サンドラ・ブロック)
▲ 宇宙空間を漂うストーン博士(サンドラ・ブロック)
(C)2013 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC


 この作品を10月に試写会で観てから、どのようにその良さを伝えようかと、ツラツラおもんみましたが・・・最終的に、<何にも伝えないこと> が一番良い、との結論に達しました。

 今、TVで流れている、<事の次第>を端的にまとめた、あのクリップだけで十分。あれ以上、なんの説明も、ご託もいりません。

 つまり、この映画は観るというより、体感(実体験)する、というタイプだから、〝そのさわりだけでもちょっと解説・・・〟なんて事はウザイのです、シラケるのです。
 簡単なストーリーはもちろん、その細部についても、まったく何の予備知識もなしに観るのが一番よろしい。

 だから、ジャズ野郎は粗筋や内容については、一切、申し上げないことにします。

 でも、それだけじゃ、ちょいと淋しいので、プレスシートに載っていたジェームズ・キャメロン監督の讃辞くらいは載せときましょうか。

  〔 完全にノックアウトされた。
        キュアロンとサンドラは、
                無重力空間で生き延びるために闘う
                      ひとりの女性の姿を、
                             まさに完璧に創り上げた。 〕 

                      
 〝キュアロン〟とはこの映画の監督で、名作 『天国の口、終りの楽園。』 (2001・メキシコ)を手がけたアルフォンソ・キュアロン、〝サンドラ〟は言わずと知れたサンドラ・ブロック、出演はあとジョージ・クルーニーともう一人(この人物が誰でもよいことは、映画を観れば分かる)、そして地上ヒューストンから声を飛ばしてくるNASAの交信者(この声の主も、オーーーッ! てな人)。

 おそらく、3Dで製作して3Dで観るのに一番適したタイプの作品でしょう。
 今まで作られてきたデジタル・シネマの中でも、その特性を最も生かし、最先端の映像テクで描くのに適した・・・いやいや、この壮絶な臨場感と驚異的なパノラマは最先端のデジタル技術でしか描くことの出来ない代物。〝ひと筆書きの傑作〟と表した意味も実はそこ(デジタル)にあります。

 とにかく劇場に足を運んでご覧下さい!

〝なんの説明も、ご託もいりません〟なんて言っといて、さんざん解説しちゃってますが、最後にひと言。この映画のテーマは、

                -- 〝生きる〟 --


    ■ 12月13日より全国ロードショー 配給:ワーナー・ブラザース映画 ■



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日本映画奇人伝 - 映画界の色事師 <その1-1>

◆ 希代のプレイボーイ 福田蘭童 <前篇>

 昨日の記事で、結城一朗の本『実録蒲田行進曲』から--映画『人生の風車』(昭和6=1931年)の静岡ロケで清水が主演女優の川崎弘子に手を付けた--という内容を引用しましたが、そこに

〝……当時、プレイボーイの代表選手みたいだった尺八の名人福田蘭童氏にくどかれては……〟

 という一節があったことを思い返していただきたい。

 この尺八の名人、福田蘭堂〔ふくだ・らんどう〕なる人物は、この昭和初年以降の映画界を記した本にしばしば出てくる男で、上記にあるように〝プレイボーイの代表選手〟として名だたるスケコマシであった。例えば、マキノ雅弘監督の『マキノ雅広自伝 映画渡世・天の巻』(ちくま文庫)には、

 武田一義〔当時、第一映画の社長・永田雅一の秘書で、後、大映重役〕を通じて、第一映画の音楽監督だった福田蘭童とも知己になり、よく一緒に先斗町に遊びに行ったものである。…(略)…
 福田蘭童の先斗町でのもて方たるや、大変なもので、まったく、あの流麗甘美なメロディーを奏でる尺八一本で何人の芸者さんを泣かせたやら。子守歌、民謡、祇園小唄、鴨川小唄--蘭童が吹く尺八の美しい音にトロリとして、酒が廻る。もう、そうなると、女達は、「蘭童さまァ!」とくずれかかってしまうのである。


 とあって、確かに尺八の名手であったことは間違いがなく、トーキーに以降したばかりの映画界に迎えられたわけだ。 『日本映画俳優全集・女優編』(キネマ旬報社)【川崎弘子】 の項に、彼のプロフィールが紹介されている。

 明治の代表的洋画家・青木繁の忘れがたみである福田(本名・福田幸彦)は若くして尺八の名手とうたわれ、作曲家としてもすぐれた才能の持ち主であったが、反面、名にしおうプレイボーイとして悪評高き存在であった。現在ならば〝浮き名も男の勲章〟ですまされるだろうが、昭和一ケタのころはそうはいかない。すでに離婚歴があった。
        ※〝本名・福田幸彦〟とあるが、それは間違いで、石渡幸彦〔いしわたり・さちひこ〕 
          が正しい。


 驚くことに、この男は高名な放浪の絵描き、青木繁〔明治15~44年=1882-1911〕の息子だった。芸術家の天分を受け継いだものか、尺八が巧く、音楽に才能があった。
 だが、絵に詳しい人なら父の青木繁という人が放浪に放浪を重ねて、根無し草のような生活の中で絵を書き、早世した〝無頼派〟だということを知っているはず(享年28歳)。その自分勝手な〝無頼〟な血も当然、福田蘭童にも受け継がれていた。
 ただ蘭童の場合、それは放浪には向かわず、女性に向かった・・・ようであった。       〔続く〕


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日本映画奇人伝 - 映画界の色事師 <その1-2>

◆ 希代のプレイボーイ 福田蘭童 <中篇>

 昭和6年(1931年)、五所平之助監督の『マダムと女房』の公開を機に、日本映画はそれまでのサイレントからトーキーへ本格的に移行していくのだけれども、映画が音を持ったことで、各シーンに音楽をつけなくてはならず、「音楽」の担当者が必要となって、蘭童のような手癖の悪い人物も撮影所に来るようになる。
 撮影所は、綺麗な女優さんばかりだ。スケコマシの虫が疼かないわけがない。
 事実、蘭童はハンサムだったし、その奏でる音色は甘美で芸者衆をトロケさせたほどだったというから、当然、スタジオでもモテる。モテるのをいいことに女漁りにも精を出す。
 やがて松竹の蒲田撮影所に音楽顧問として迎えられるが、そこで蘭童は川崎弘子と出会い、これが世間を騒がす「恋愛事件」に発展する。

 33年、彼はトーキーの編曲に新境地を開拓、松竹の音楽顧問として川崎主演の「忘られぬ花」の音楽を手がけたことから二人は急速に接近。同年10月の「嬉しい頃」に川崎が主演したころは人目もはばからぬ〝嬉しき仲〟となっていた。
 このころは花形女優を別名〝永遠の処女〟などと呼び、結婚はまさしくタブー。しかも川崎が松竹の看板女優だったからおだやかではない。とりわけ福田は松竹時代劇の名花とうたわれた飯塚敏子との仲も噂され、結婚詐欺の疑いで何回か警察の厄介にもなっているとあって、関係者は、いちようにこの恋を押さえようと躍起になった。
 だが、この恋は周囲の思惑とは裏腹に燃え上がり、彼女は持ち前のシンの強さで反対を押し切って初恋をつらぬき、35年11月5日、大森区の松浅本店で結婚披露宴をする。
                         (『日本映画俳優全集・女優編』キネマ旬報社)


 上記の文章を読むと、単なる〝人気女優の音楽家の許されぬ恋〟であり、同じ松竹の別の女優を巻き込んだ三角関係となり、これに〝結婚詐欺〟の疑いをかけられるが、結局は円満に結婚できた--というある種ロマンチックな印象すら持ってしまうだろうが、その実際はドロドロもいいところで、まさに蘭童は「悪の法則」としか思われない行動を取っていたようである。
 クセもの脚本家・小川正の記した『シネマの裏窓 ある活動屋の思い出ばなし』(恒文社)では、この同じ話がこんなふうに書かれている。

 福田蘭堂は戦争前、結婚詐欺の常習犯で捕まり、監獄にぶち込まれた。得意の尺八を吹き、金のありそうな女に近づいては、結婚するといって、金品をかすめ取っていたのだ。
 福田蘭堂の女房は、蒲田の女優川崎弘子だ。川崎弘子も欺された口だが、彼女は蘭堂が監獄から出て来るのを待っていた。


 この小川正の文章を信じるなら、川崎弘子は結婚する昭和10年(1935)11月5日までの間、松竹京都の飯塚敏子を欺してム所にぶち込まれた蘭童を(信じて)待っていたことになる。
 ところが、そもそも、この二人の恋愛は発端から〝犯罪〟めいていて、今、それが記されていた本が見つからないので、記憶で書くのだが、ロケに出た時、遊覧船かフェリーかに乗っての移動中、船内で蘭童は川崎弘子を口説いて無理矢理、事に及んだ。これが「レイプした」となって松竹上層部に知れ、激怒した城戸四郎所長は「川崎をキズモノにしやがって、一体、どうしてくれるんだ! 責任をとれ」と蘭童に迫り、ソレを受けて一緒になることにした、というのだ。
 しかも、この時の蘭童にはすでに妻がいた、というから驚く。つまり本妻、川崎弘子、飯塚敏子を〝股に掛けた〟四角関係を演じていたことになり、その上に結婚詐欺も働いていた、というから、そりゃあもう、忙しい(色悪な)ことこの上ない!

 結局、蘭童はその本妻と別れて川崎と一緒になるのだが、コレが本当なら(本当なんだけど)、それこそ彼はスタジオ出入り禁止の女の敵=超危険人物という事になる。

 だが、一緒になった川崎弘子は、別にそれが嫌ではなかったようで、〝周囲の思惑とは裏腹に燃え上がり、彼女は持ち前のシンの強さで反対を押し切って初恋をつらぬき……〟とあったように、蘭童とはゾッコン惚れて結婚したようであり、これをもって蘭童が映画界から干された、ということもなかったようである。     〔続く〕


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日本映画奇人伝 - 映画界の色事師 <その1-3>

◆ 希代のプレイボーイ 福田蘭童 <後篇>

 〝のれんに腕押し〟のように頼りなく、いつもおとなしく控えめで人の言う事を聞き、男の言うままに行動し、時には清水のようにチョッカイを出してくる監督には身を任せたりした川崎弘子ではあったが、彼女は常々、

「わたしは、一生を平凡に暮らしたい」     (『実録蒲田行進曲』結城一朗、KKベストブック)

という心づもりでいたらしく、蘭童と結婚後も映画に出た。
 もちろん、結婚した事で人気は下降したが、実のある仕事をし、戦後も映画に出続けた。
 この一見、〝のれんに腕押し〟ような弘子は、ある意味、蘭童同様、いやそれ以上のタマであったのかもしれない。
 というのは、実は彼女、蘭童と付き合う前にカレシがいた。それはあの小津安二郎監督の助監督であった。

 私〔小川正〕のすぐ下の弟に二郎というのがいた。私と同じく蒲田にいて、小津安二郎の助監督をしていた。この二郎が一時期、川崎弘子と同棲していた。彼女が福田蘭堂に欺される前だ。
 だが二郎は、私が京都にいるとき遊びにきて、高田稔の家で、突然、心臓発作を起こして死んでしまった。
     (『シネマの裏窓 ある活動屋の思い出ばなし』小川正、恒文社) ※〔〕内、ジャズ野郎註。


 弘子はこの時、松竹にいた脚本家・小川正の弟で、当時、小津組の助監督をしていた小川二郎と同棲していた、というのである。
 小川二郎は確かに、小津作品の『学生ロマンス 若き日』(昭和4=1929年)『朗らかに歩め』『落第はしたけれど』(以上、昭和5=1930年)などで助監督に就いていて、弘子が小川と付き合っていたとしたらこの時期(昭和4~5年)であろう。弘子が蘭童と出会ってラブラブになるのは昭和8年(1933)の『忘られぬ花』の時だから、ダブッてはいないわけだが、〝永遠の処女〟てのはウソもいいところだった。芯から清純派だったってわけじゃない。

 一方、夫の福田蘭童は、その川崎との恋愛事件&結婚詐欺で世間を騒がせたが、映画界での命脈は保たれた。戦後、蘭童がやった映画の仕事で有名なのは、あの 中村錦之助〔萬屋錦之介〕東千代之助 の人気を決定づけた〝東映娯楽番〟--新諸国物語シリーズの・・・

 やがて封切られた『笛吹童子』は押すな押すなの大入り満員。
 福田蘭堂の笛のメロディが、またよかった。
♪ヒャラーリ ヒャラリコ、ヒャレーロ ヒャラレーロ- その笛の音は、巷にあふれた。 (前掲書)


 ・・・『笛吹童子』(昭和29=1954年・東映、三部作)がそれである。これはもともとNHKの連続ラジオドラマだったが、それを映画にフィーチャーして大成功。そのラジオ番組の時から、蘭童の軽やかな〝ヒャラーリ ヒャラリーロ~♪〟の笛の音は人気を博し、この一連の錦之助映画も爆発的にヒット。蘭童の懐はさぞ温かくなったろう。






 と、ここまで福田蘭童のことを綴ってきたけれど、この蘭童、当時の映画人がこぞって話のタネにする名物男だったわりには、今はあまり知られても、語られてもいない。
 それは何故か、と自分なりに考えてみたが・・・それはどうも、この希代のプレイボーイが昭和40年代に一世を風靡したクレージーキャッツの一員、石橋エータローの父親だからではないか。

 明治の代表的洋画家・青木繁の忘れがたみである福田(本名・福田幸彦)は若くして尺八の名手とうたわれ、作曲家としてもすぐれた才能の持ち主であったが、反面、名にしおうプレイボーイとして悪評高き存在であった。現在ならば〝浮き名も男の勲章〟ですまされるだろうが、昭和一ケタのころはそうはいかない。すでに離婚歴があった。     ( 『日本映画俳優全集・女優編』(キネマ旬報社)

 再度、引用した蘭童のプロフィールの一番最後、〝すでに離婚歴があった〟--この離婚した前妻というのが石橋エータローの母なのである(石橋は川崎弘子の子ではない)。蘭童は離婚後、前妻や息子とは疎遠にしていたようだから、血の繋がりがあるだけで、父と子には絆はなかったようだが、それでもこのスケコマシが石橋の父親なのは間違いない。
 クレージーがグングン売れ出してくると、この男・蘭童が石橋の〝不肖の父〟ということが憚られてくる。石橋に傷がつくし、売れてるクレージーにも影が差す。
 それで、本来ならスキャンダルとしてさんざん叩かれるべき、一連の蘭童の行状--女優に手を付け、三角関係に発展し、結婚詐欺でム所にも入った--が不問に付され、蘭童についても触れるのが憚られる人物となっていったのではないか。
 いくつかの本には、福田蘭童はクレージーキャッツの石橋エータローの父である、とは書いてあるが、それ以上のことが書かれていないのは、そうした事情があったからではないか、と推測するのだが・・・。

 いずれにしても、福田蘭童〔明治38~昭和51年=1905-1976〕は、大変な男であった。
 でも、こういう男って今(の芸能界に)もいますよね、10年に一人は出てくる・・・〝誠意大将軍〟の羽賀研二とか押尾学とか。いや、今は女か。今年で言えば矢○真里あたりか。
 おそらく、彼ら彼女らにも、蘭童みたいに一目置かれるホンモノの才能〔本業〕があれば、雑誌やインターネットであれほどひどく中傷&攻撃されなかったのではないか? 
 やはり、芸は身を助く、ですかな。         〔完〕

※出典及び参考文献
● 『実録蒲田行進曲』 結城一朗、KKベストブック
● 『日本映画俳優全集・女優編』 (キネマ旬報社)
● 『シネマの裏窓 ある活動屋の思い出ばなし』 小川正、恒文社
● 『マキノ雅広自伝 映画渡世・天の巻』 マキノ雅広、ちくま文庫
● 『人物・松竹映画史 蒲田の時代』『松竹映画の栄光と崩壊 大船の時代』 升本喜年、平凡社


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映画ライター・高村英次、初の書き下ろし長編 『 ラストシーンの余韻 酒乱と失態、女難と頑迷、監督・溝口健二の狂おしき人生 』

高村英次

Author:高村英次
電子書籍版はアマゾン Kindleストア 及び 楽天ブックスから、紙の書籍版は製本直送.comより発売。直近の各コラムの末尾にある発売告知から販売サイトに遷移、またはポップアップ画面が出ますので、そこで購入できます。 

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趣味:サイクリング&ウォーキング&クッキング、デジカメでの写真・動画撮影
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