新作プレビュー  『 大脱出 』  <前篇>

  2014年、明けました。
           おめでとうございます。
                 当ブログ、本年も昨年同様のお引き立て、
                        よろしくお願い申し上げます。
     

 と、新年のご挨拶も早々に、元旦から注目の新作映画(正月第2弾)計2本をご紹介。よって昨年から掲載しております【巨匠のムチャブリ - 清水宏 恐るべき子供〝天使と悪魔〟】はしばしお休みでございます。

                ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

◆ こいつァは春から〝演技〟 がい~い! 今度の スタ vs シュワ はマジ凄い!

 今、名前を出しても「ナニ、ソレ?」って言われちゃう「プラネット・ハリウッド 〔 Planet Hollywood 〕」 。
 コレはかつて、当時飛ぶ鳥を落とす勢いだった ブルース・ウィリス シルヴェスター・スタローン 、そして アーノルド・シュワツェネッガー の3人が1990年代に共同出資・経営していたカジュアルなレストラン・チェーン(デミ・ムーアなども出資していたよう)で、ジャズ野郎は取材でロスアンゼルスに行った時(1997年)、話のネタにしようと入店した事があります。確か、飲み物とフライドポテトみたいなツマミを所望したと思うのですが、味の方は大して美味くもなく、インテリアも雑で安っぽかった。

 実は、そこへ向かうタクシーの中で、ドライバーさんに、

「エッ? アンタラ、あんなトコに行くってか?! やめときな、不味い って評判だゼ」

てなことを言われていたのですが、まさにその通りだったわけ。

 この「プラネット・ハリウッド」、その後ほどなく閉店して、今はありません(NY発祥のこのレストラン・チェーンは、現在もラスベガスに1店舗あるそうな)。

 で、今に至るも定期的にヒット作を出すブルース・ウィリスはいいとして、この「プラネット・ハリウッド」の閉鎖はなにやらスタローン、シュワちゃん両雄のその後の運気に比例している気がしていて、ご両人ともスクリーンではパッとしなくなる。

 で、そこで「夢をもう一度」とばかりの 『エクスペンダブルズ』 (2010)での3大スター結集、コレが冗談みたいなヒット、そして続編製作へと繋がり、
スタローンは 『バレット』13年5月31日付 で紹介〕、
シュワちゃんは 『ラストスタンド』13年4月26日付 で紹介〕
 と、おのおの単独主演作を出して、気を吐いたのは記憶に新しいところ。

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DIVEのキャップ
▲「プラネット・ハリウッド」のキャップは買わなかったが、「DIVE」のキャップは購入し、今も手元に。
「DIVE」は当時(1997年)、スピルバーグ監督が経営にかんでいたカフェ・レストランで、店の前まで行きましたが、入店はせず。潜水艦を模した外観(特にエントランス部分)だったが、今はどうなっているのかなぁ?

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 前置きが少々長くなりました・・・そこへもってきて、この 『 大脱出 』 でございます。
 スティーブ・マックィーン(映画のスターの方。今、同姓同名の監督さんがいるからややっこしい)、チャールズ・ブロンソン、ジェームズ・コバーン、ジェームズ・ガーナー、ドナルド・プレザンスら当時のスターを総動員した、ジョン・スタージェス監督の大作 『THE GREAT ESCAPE』 (1963年・米)の邦題〝大脱走〟
(ジャズ野郎がハリウッドのメジャー〔映画会社〕で一番好きだったユナイテッド・アーティスツ作品ッ!)
 を臆面もなくパクッた感丸出しの、仰々しいタイトルを冠した『大脱出』は、久々に観ていて燃えましたな。


『大脱出』メイン
▲ドヤ顔の両雄、並び立つ!
(C)2013 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.


 言っときますけど、『エクスペンダブルズ』の〝顔出しゲスト〟、みたいなヤワな〝顔見せ〟じゃありませんゾ! スタローン、シュワちゃんがガップリ四つの大競演、しかも肉弾相打つ〝体技〟で張り合うだけじゃない。その芝居を一度も褒められたことがない、この2頭の無骨な〝ゴーレム(西洋の大魔神)〟が演技でも〝丁々発止〟でございますから、それはもう大騒ぎのコンコンチキ。
 かつてジャズ野郎は『バレット』も『ラストスタンド』も、このように半分ジョーダンみたいな感じで書き飛ばしてきましたが、今回の『大脱出』に関しては、 〝 嘘も言えない (ラジオの名DJ・土居まさる さんの名調子)〟大マジの演技合戦! 
 血湧き肉躍る、二人の演技対決は、そりゃ、もう、アンタ、事件 ですがな。      〔続く〕

        ■ 新春1月10日より全国ロードショー 配給:GAGA ■


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  『西鶴一代女』『雨月物語』などの名作を放った溝口健二の人生を、
  伊藤大輔・小津安二郎・黒澤明などのライバル監督&スタッフとの
  確執とともに描いた、
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新作プレビュー  『 大脱出 』  <後篇>

◆ 難攻不落の要塞監獄の中を、どう逃げる? どこに逃げる?

 どうですか、『大脱出』、観たくなりましたか? ア、まだなってない、では粗筋を紹介しときましょ。

大脱出メイン3
▲ 逃げ道を探すスタローン  (C)2013 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.

〔 スタローン演じるレイは、脱獄専門のセキュリティ・コンサルタント。囚人となって刑務所に入り込み、看守の目を盗んでまんまと脱獄。脱走してから、その刑務所の警備システムの不備を指摘する、というのが仕事で、このたびCIAからデッカい仕事が舞い込んだ。上手すぎるその話に、仲間達は慎重になるが、レイは参加を決める。するとレイはいきなり街角で拉致され、黒塗りのバンの中で麻酔をうたれて、どこにあるのかも分からない謎の刑務所に護送される。目覚めた先は、窓もなく、外光が差し込まない、最新のセキュリティ・システム完備の〝とんでもない刑務所〟。
 しかも所長のホブス(ジム・カヴィーゼル)には、レイが警備設備を試すために送り込まれた〝ニセ囚人〟だって事が伝わっていない。
 「話が違うヨ!」と思う間もなく、ダースベーダーまがいの制服をきた暴力看守たちにボッコボコに!
 「ああ、俺はハメられた、どうしたらイイ?!」と意気消沈のレイ。そんな彼に、極悪囚人グループの大ボス・ロットマイヤー(アーノルド・シュワルツェネッガー)が、声を掛けてくる・・・ 〕


 この、何処にあるのかも分からない要塞監獄ですが・・・これは予告編などで映像が出てますから書いちゃいますが、ドデカいタンカー。洋上を漂い、追尾レーダーでその位置を把握されないよう、常に居場所を変えている。内部は最新のセキュリティでもって、独房は総ガラス張りの部屋で、パイプで床が持ち上げられているから、上下左右、360度、四方八方から丸見え状態。
 そんな厳重な刑務所からスタローンとシュワちゃんは逃げるのですが、ココ一番、頭を使う わけです、このご両人が(?!)。
 その手口の数々が楽しめるのはもちろん、脱獄計画を練る中でスタローンとシュワちゃんの絆が強まっていくあたりが見物。脱獄を企む二人が目と目でサインを送り合ったり、嘘のケンカをしたり、といったあたりには、ただカラダをぶつけ合うだけじゃない、腹芸といいますか、いつにない〝演技〟の応酬 がある。
 アクションの見せ場も派手だけど、そこにいたるまでの〝セット・アップ〟の段階に、ジム・カヴィーゼル(冷酷な刑務所所長)、ヴィンス・ジョーンズ(凶暴な看守長)、そして名優サム・ニール(刑務所の医者)らが二人に絡んできて、展開はいい塩梅に二転三転。ドラマとしても良くできてて、クライマックスがググッと盛り上がる。

                                大脱出メイン4
                           ▲ 機関銃をブッ放すシュワルツェネッガー
                 (C)2013 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.

 監督は『シャンハイ』(2010)や『ザ・ライト エクソシストの真実』(2011)などのミカエル・ハフストロームですが、その前2作では生真面目な、精緻なドラマ作りが好ましかったものの、演出にもうひとつ華がなかった。
 ところが今回はアクションもダイナミックに自由にバリバリやっていて、刑務所内部のドラマも緊張感たっぷりでもって文句なし。
 特に、後半のあるシーンで使ったスローモーションには涙が出ましたな。
 「オー、ここで使うんかい!」って・・・! 

 70年代、いや60年代のアクション映画のエッセンスが感じられるド派手アクション、お屠蘇ボケの頭に効きまっせェ!

        ■ 新春1月10日より全国ロードショー 配給:GAGA ■


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新作プレビュー  『 キリング ゲーム 』 <前篇>

◆ デ・ニーロとトラボルタが殺し合う〝傷だらけの哀歌〟

 先に紹介した『大脱出』のスタローンvsシュワちゃんの迫力とスケールに勝るとも劣らないマッチアップが見られるのが、この『キリング ゲーム』だ。


キリングゲーム 1
▲ロバート・デ・ニーロとジョン・トラボルタ
(C)2013 PROMISED LAND PRODUCTIONS, INC. All Rights Reserved.


 1970年代に頭角を現し、紆余曲折を経ながら常に第一線で活躍してきた、ともにイタリア系の2大スター--『タクシー・ドライバー』(1976)の ロバート・デ・ニーロ と『サタデー・ナイト・フィーバー』(1977)の ジョン・トラボルタ --が、ガチにぶつかった、ある意味〝記念碑〟的な一作ではあるのだが、外観は『大脱出』と違って至って穏やか、極めて地味。
 しかし、その内容は『大脱出』よりもリアルでシリアス、そしてハードかも。
 これはストーリーを、早めに紹介しておいた方がよろしい。

〔 1992年に始まったボスニア紛争--セルビア人の軍勢が〝民族浄化〟を掲げて反対派のイスラム系市民やクロアチア人らを虐殺しまくった、この内戦はアメリカ軍とNATO軍の介入で制圧され、その後、和平へと進んだ。デ・ニーロ扮する米軍人ベンジャミン・フォード(ロバート・デ・ニーロ)は、この時、現地セルビアのベオグラードを転戦し、貨車に大量に積まれた虐殺遺体の山を見る。そして虐殺を主導したセルビアの〝死の部隊〟と呼ばれる兵士達を拘束し、その数名を処刑する。
 それから18年後、故国アメリカはアパラチア山脈の山中で、家族と離れて一人孤独に暮らすフォードの前に、東欧人のハイカーが姿を現す。その男、エミール・コヴァチ(ジョン・トラボルタ)の腕には、死の部隊の証であるサソリの入れ墨があった・・・〕


 つまりコヴァチは、ボスニア紛争の際、フォードら米兵に拘束され、処刑されたサソリの一人であり、奴は運よく一命を取り留めた。ゆえに、その時の恨みをはらすため、フォードを殺しにやってきたのである。
 旅行者を装って、言葉巧みにフォードの気を引き、彼の山小屋で夕食をよばれるコヴァチ。彼がいつ、どのタイミングで、敵意・殺意を露わにして、フォードをブン殴るなり、ナイフで刺すなり、ピストルで撃つなりしてくるのか・・・そのサスペンスが半端ない。

 フォードの息子が洗礼を迎える孫を連れて山小屋を訪れるが、コヴァチはその幼い孫にすら狙いを定め・・・・と、ここは前半のクライマックスだが、それにしても広大なアパラチアの山林を二人が、逃げる、追いかける、を繰り返すチェイス場面は苛酷で、この〝リアル鬼ごっこ〟のシンドさは痛覚を刺激する。   〔続く〕

■ 1月11日より新宿バルト9、ユナイテッドシネマ札幌ほか全国ロードショー 
              配給:ショウゲート/協力アミューズソフトエンタテインメント ■



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新作プレビュー  『 キリング ゲーム 』 <後篇>

◆ 狩る者と狩られる者・・・遙かなる『ディア・ハンター』へのオマージュ

 『キリング ゲーム』で展開される、山中での追跡や殺し合い、を見ているとジョン・ブアマン監督の 『脱出』 (1972年)なんかが思い出されるのですが、ああいうシャレにならない陰惨なシリアスさというのは、この映画の中に確かにある。
 また、ウィレム・デフォーが孤独な元傭兵を寡黙に演じた佳作 『ハンター』 (2011年、ダニエル・ネットハイム監督)にあった、山暮らしの知恵、自然に同化して生きる、といったエコロジカルな面もある。

 しかし、この映画を観ていて、脳裏をかすめてくるのはデ・ニーロ主演のオスカー・ムービー 『ディア・ハンター』 (1979年、マイケル・チミノ監督)だ。事実、この『キリング ゲーム』の中に、逃げてる最中のデ・ニーロが野生の鹿〔 DEER 〕と出くわす、というシーンがあったりする。偶然かもしれないけれど・・・。
 『ディア・ハンター』はヴェトナム戦争への鎮魂歌だったが、『キリング ゲーム』はボスニア紛争の後日談といった趣だから、お話にも共通性がある。
その『ディア・ハンター』で、故郷の山河では鹿を、ベトナムの戦場では敵兵を狩っていたデ・ニーロは、ココでは自分がハンティングされる(狩られる)側になるってわけで、そいつはなんとも皮肉な話だが、それは戦争に関わってしまった者の宿命なのかも知れない。ボスニア紛争は終結しても、戦争の悪弊はこういった形で尾を引いて、関わった人間を生涯苦しめていく。戦争はいけませんな。


キリングゲーム 2
▲ライフルをコヴァチ(J・トラボルタ)に向けるフォード(R・デ・ニーロ)
(C)2013 PROMISED LAND PRODUCTIONS, INC. All Rights Reserved.


 『キリング ゲーム』の監督は、脚本家出身の マーク・スティーブン・ジョンソン (『ラブリー・オールドメン』〔1993〕ほかの脚本を担当し、『サイモン・バーチ』〔1998〕や『ゴーストライダー』〔2007〕のメガホンを執っている)って人で、荒涼とした山渓の映像には『ディア・ハンター』を思わせる自然描写も散見できる。だからこの映画には『ディア・ハンター』へのオマージュがある・・・とジャズ野郎は見ましたが。

 それはそうと、御年70歳のデ・ニーロにとってこの逃げまわる元兵士役はキツかっただろうと思うけれど、追っかけるトラボルタ(60歳)とてキツさは同じ。だからあと20歳ほど二人が若い時に撮れば良かったのに(50歳、40歳)、とは思う。「走る」「川に落ちる」などのアクション・シーンはみなスタントマンが演っているにしても、この山間部での殺陣や芝居は結構タフ。それをよく演じ切った、ご両人とも。
 だがデ・ニーロにしてみると、こんなのはまだ「軽い」ってトコかもしれない。何故ならデ・ニーロは、この後、シルヴェスター・スタローンとのリターン・マッチに臨む老いたボクサーを演じたってんだから( 『リベンジ・マッチ』 4月公開予定)。
 スタローン( 67歳! )はいわずと知れた『ロッキー』 (1977)で、デ・ニーロは名作『レイジング・ブル』 (1980)でボクサーを、それも世界チャンピオンを演じているけど、この齢になってもまだヤルとはねぇ・・・。まったく恐れ入っちゃう。

 オッと、トラボルタも忘れちゃいけない。今回、 トラさん はスキンヘッドに海苔みたいな頭髪をペタッと貼り付けたようなヘアスタイルで登場し、アゴ髭まで生やして、まるでスラブ系な顔付きになっていて驚く。驚くといえば、今回、彼は演技巧者のデ・ニーロに引けを取らない猛演で、その気魄が凄いんだ。ニタつかない、険しい顔のトラボルタを久々見た。それだけでもメッケもんです。

キリングゲーム 3
▲全編、殺気立った表情の〝トラさん〟(ジョン・トラボルタ)
(C)2013 PROMISED LAND PRODUCTIONS, INC. All Rights Reserved.


 ■ 1月11日より新宿バルト9、ユナイテッドシネマ札幌ほか全国ロードショー 
             配給:ショウゲート/協力アミューズソフトエンタテインメント ■



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ブログ1周年記念エッセイ <フィルムに埋もれる> その1

◆ 編集機材を借りてはみたけれど

 今日1月16日でちょうど 1周年 と相成った当ブログ。
 昨年の同日にアップした「大島渚もまた死す」がその第1回でしたが、つい先日も淡路恵子さんが亡くなったので本来ならば淡路さんのことを書くべきかもしれません。でもいつも他人の書いた映画本・書籍の引用ばかりしているので、たまには自分のことを綴りましょうか。来週までアニバーサリー・ウィークということで〝10日間〟ほど、回顧談をアップします(清水宏監督の話は、またしてもしばしお休みです)。お付き合い下さい。

                    *****

 ずっと以前に書いたコラムで、ジャズ野郎が大学で松竹や日活で活躍した〝コバケイさん〟こと小林桂三郎監督に教えを請うた事を書きましたが (2013年5月11日付【Coffee Break 監督と助監督 その3 〔松竹編〕 】) 、その学校を卒業するためには1本、映画を撮らなくちゃいけない。この卒業製作、ビデオで作ってもよかったけれど、「映画」を撮りたくてそこに入ったのだから、4年の卒制は当然、16㎜のフィルムで撮りました。
 今、振り返っても〝地獄だった〟としか思えない、約半年にわたる(てんやわんやな)撮影を終え、ようやく編集に入ったのが10月だったか、11月だったか。
 校舎4階の編集ルームに、朝から晩まで居座って、フィルムを切ったり繋げたりする毎日。
 編集は、最初(タイトル、オープニング・カット)からドラマ部分を経て最後(ラストシーン、エンドマーク、クレジット)まで繋いでいくわけですが、その編集には鉄製の支柱がついたリワインダーとかモニター画面のついた編集機(ホントは映写機器だけど、面倒だから編集機で通します)などの一式が必要となる。もしこれらを移送しようとすると、重い上に嵩張るから、車に積まないと運べない。 

 で・・・編集室に入って1ヵ月程すぎても、ジャズ野郎は自作の編集を終えられなかった。たかが30分内外の他愛のない寸劇(もはや映画とは呼べません)にも拘わらず、不器用ゆえに編集作業はちっとも捗らない。
 そして年末。大学は正月休み。その間、学校は閉まり、編集室にも入れなくなるから、編集中であろうが、なんだろうが、我々映画学科の学生の製作はストップということになる。
 だが、「それじゃ、オレの映画は完成しない」と思い、焦ったジャズ野郎は担当講師に頼んだ。

「年末年始の間、編集機材を下宿に持ち帰ってもいいですか!」

 と、こんな感じで言ったかどうか覚えてないけれど、実際、借りてこられたわけだから、そんな事を言って頼んだのでしょう・・・いや、本当を言うと自分から頼んだ記憶もないのです。だから・・・きっと、その担当講師に

「お前は作業の進行がノロいから、フィルムと編集機を家に持ってって、やってこい!」

 とドヤされた。ウン、コッチの方が正しい。なにせ、その講師(現・教授)は高圧的で、年がら年中、上からガミガミ言ってるオッサンでしたから。
 とはいえ、そんなふうにガミガミ言わないと「ヤレない」のも事実でして、だからジャズ野郎はこの講師の事を悪く思ってないし、むしろ、「卒業」させてくれたから恩人だと半ば感謝もしています。
 とはいえ、「家に持ってって、ヤレー!」と怒鳴ったその講師は、こう釘を刺した。

「いいか、この編集機材は高いんだ。だから本来は門外不出、貸し出しちゃいけないことになってる。そこを曲げて、特別に貸すんだ。だから、いいか、正月明けの学校初日、朝イチに機材を持ってきて、返却しろ。もし遅れて来たら・・・」

「遅れたら、何なんですか?」

「ブン殴るからな!」

「 ・・・ 」
                                        〔続く〕


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ブログ1周年記念エッセイ <フィルムに埋もれる> その2

◆ 遅刻に人望の有無が関係あるのか?

 結論から言うと、ジャズめは翌年の年頭、つまり昭和61年(1986)の1月、新年初日に、学科の玄関先で腕組みして待っていた、この講師にまんまと ブン殴られた のです。

 正月だし、仕事始めだし、幹線道路は激混みで、学校が始まる朝の8時半(9時だったか、10時だったかすらも覚えてないけど)にゃ、行かれませんわな。

 でも、このギョーカイ(映画界、特に現場)じゃ、時間厳守は鉄則も鉄則。だからして、

「テメェ~、この野郎! 朝イチにもってこいって言ったろ!」
といきなりガッツーン

 いつもは、ヘラヘラ受け流すジャズ野郎も、この時ばかりは目に涙を溜めて反論しました。

「車を出す○○が遅れて来たんだから、しょうがねぇじゃないか!」

 ○○とはジャズ野郎の撮影班で、録音を担当していた男で、大学の「自動車部」所属。
 だから当然、車は持っていて、ジャズめは彼に朝、下宿まで来てもらい、機材を積んで学校まで運ぶ、ってダンドリになってた(大学は練馬で、下宿は所沢近辺だったから電車を使っても30分はかかる。だから車じゃないと運べない。当然、機材を下宿に持ってくる時も車で運搬した)。

 だから下宿に「早く来てくれよ、頼むよ~」と正月明けから何度も電話して懇願してたんですがね。この男ノンキだから、案の定、下宿に1時間遅れでノコノコ来やがった。
 となれば、当然、大学にゃ朝イチには間に合いませんわな。

 ブン殴られた事(って言っても、どうだったか? 殴られたんじゃなく、ヘッドロックをかまされて、それがこの時はキツく入ってホントに落ちそうになった・・・だったかも)は未だに釈然としませんよ。 何故なら、

「オマエが遅れてきたから、殴られたんじゃねぇか! だからいつもより早く、朝の6時に来い、って言ったろッ!」

 と 〝シャブ(自動車部)〟の録音の男に言ったら、逆ギレされて

「だって仕方ねえだろー、道が混んでんだから!」
 と言い返された。

 正月で、仕事始めで、道が混む、だから通常より1、2時間早く出ないと間に合わない・・・というガキでも出来る逆算を、コイツはできないのか、と思ってマイッた記憶があります。
 まー、こんなヤツばっかなんだ、この学校。映画監督になりたくてココに入ったジャズ野郎が、監督になるのを諦めた、ってのはこういう事に尽きるわけで、要は人間関係の面倒くささです。
 この時も、その事情(言い訳)を講師に言ったら

「でも、そんな男を録音にしたのはオマエだろ! オマエに人望がないからダメなんだ!」

 〝逆算〟も出来ない野郎に人望もクソもねえだろう、とは思いましたが、

 そうか、結局、オレが悪いのか。でも、こんなんじゃ、オレはやれない・・・

 映画(製作)の道を諦めた、のには他にも理由がありますが、この些細な出来事もその一つ。そしてこの時、同時に、

 大学のアマ・レベルですらこんだけ大変なのに、プロの現場はどれだけ大変か・・・
 そこでは自分はもはや〝人間扱い〟されないのではないか・・・
 そんな環境ではオレはできない・・・


 というふうなことを痛感させられた。己の限界を思い知らされた。
 そして、担当講師にドヤされまでして、下宿に編集機材を持ち込んで行った「編集」作業では、毎日、 〝悪夢〟 を見ることになる。 〔続く〕


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ブログ1周年記念エッセイ <フィルムに埋もれる> その3

◆ 編集で思い知る残学非才。そしてフィルムが叛乱を・・・!

 下宿に機材一式と編集用のポジ・フィルムを持ってきたジャズ野郎は、そりゃ嬉しゅうございました。自分の部屋に「映画がある」って喜びは、映画をDVDやビデオとして簡単に手に出来る今の人達には分からない感覚でしょうね。レンタル店から見たかったDVD(映画)を借りて来た、または買ってきた、ってのも嬉しいことではありましょうが、自分で汗水流して撮ったフィルムが自室にある、っていうのは、それは、まぁ、特別な、天にも昇る心地でした。

 で、早速、炬燵のテーブルの上に編集機をのっけて、それにフィルムを通して、編集機のモニターに映る映像(画と音)に一喜一憂・・・といっても、最初は「一喜」だけ。
 そりゃあ、なんてたって、嬉しいんダ。
 大学の殺風景な編集室で観るよりも、同じ殺風景ではあっても我が城(六畳半の下宿ですがね)で観る方がなんとも「自由」で・・・まぁ、同じモン観てんですけどね、何故か嬉しいんですな、「解放感」が違うというか。

 ところが・・・です、次第に「一憂」の方が強くなってくる。
 フィルムを繋いでまとめていくに従って、自分が撮った作品の全貌が見えてくる。そうなると、それがいかに自分が思っていたモノと違うか、自分が描きたかった映像(の流れ)にならなかった、が判かってくる。しかも出来上がった作品は不出来なのは当然として、どこか虚しい、そう「風が吹いている」ような虚しい出来栄えなんですな。
 もう、ガーンてなもん。

「あ、ココが足りない、もっと撮り足すべきだった」とか、
「こういうカットの前にあんな画がワン・カット要るんだった」とか、
「何故、撮影の時、オレはそれを考えなかったんだ」などなど、
 そりゃあ、もう、反省慚愧の雨アラレ
 そんな懊悩にのたうちながら、締め切った下宿部屋で苦悶することになる。

 何故、「締め切り」かというと、窓を明けて換気しようにも、フィルムは乾燥した中で扱わないといけないわけで、そうそう窓や戸は開けられない。年末だから寒いし。
 しかも(これが最大の理由ですが)編集機を通って左から右に流れていくフィルムと磁気テープが、収納カゴに収まりきらずに飛び出してしまい、それが部屋中に拡がって、もうトグロを巻いてムクムクと増殖し、うずたかく、そこら中に溢れてきた。そして、みるみるうちに、部屋の中の、自分が座っている以外のスペースが、消化器の泡のように膨れあがったフィルムによって占拠されてしまった!

「アレッ! アレレレ・・・!!!」

 拡散したフィルムほど手に負えないものはない・・・。 〔続く〕


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ブログ1周年記念エッセイ <フィルムに埋もれる> その4

◆ 膨れあがったフィルムに部屋を乗っ取られ・・・

 拡散したフィルムほど手に負えないものはない・・・少々回りくどいですが、バラけたフィルムがどんだけ厄介で、始末に負えない 〝モンスター〟 と化すかを記した文章があるので紹介しときましょう。コレは劇場公開用(35 ㎜)フィルムの話ですが、直木賞作家の 高橋治 は振り出しは映画人(松竹の監督)で、同氏が助監督として松竹の大船撮影所に入所した時、

 …(略)…編集室を案内してくれたのは中平さんだった。フィルムなどいじったこともない八人を連れ、編集室を案内してくれたあとで、中平さんは千フィートのフィルムの真中を抜くと、巻芯ごとポンと部屋に投げ出した。
 フィルムというものは、フィルム自体を廻転させながらほどけば真直にのびて来る。しかし、ただ端を引っぱるようなことをすれば、どうにもならないほどよじれてしまう。
 船出の時に投げるテープを想像してほしい。あれは真直になっていることは珍しく、大抵は長くよじれた筒型になるものだ。
 フィルムの場合は三十五ミリの幅があって、しかも中平さんはそれを内側から投げたのだから、部屋の中に大蛇がトグロを巻いたようなものが出来上がった。
                            (『人間ぱあてぃ』 高橋治、講談社文庫)


 といったように、コア(巻芯、フィルムを巻き付けるプラスチック製の芯)から抜けてほどけたフィルムというものは手の施しようもないほどに拡散し、膨張するわけです。
 しかも上記の〝中平〟がバラまいたのは35㎜フィルムだから、サイズはジャズ野郎が扱った16㎜の2倍以上(!)。だから〝大蛇がトグロを巻いた〟状態というのは、もう想像を絶する・・・わけです。
 これを敢えて喩えるなら、少々オーバーですが、 『 ゴジラ 』 (昭和29=1954年・東宝)を撮った 本多猪四郎 監督の作品にキノコのお化け(マタンゴ)が人間を襲う 『 マタンゴ 』 (昭和38=1963年・東宝)というのがあるけれど、この中でいっぱい現れたマタンゴに人間が襲われてもみくちゃになってる状態・・・ま、膨れあがったフィルムがキノコみたいに群れ群れになって犇めくってわけですが、あくまでも喩えです、オーバーめな。
 この場合、〝フィルム〟がマタンゴで、〝人間〟は高橋治ほかの助監督、もしくはジャズめである--〝だ、誰かァー、助けてくれぇーッ!〟。






 この〝中平〟は、むろん、日活で裕次郎映画最大の名作 『 狂った果実 』 (昭和31=1956年)を撮った 中平康 のことですが、中平監督はこのトグロを巻いたフィルムをいとも簡単に元通りにしてしまう。再び 『 人間ぱあてぃ 』 より--

「誰かこれを元通りにしろ」〔中平〕
 鬼軍曹さながらに、出来っこないことを命令する。
 私〔高橋治〕はムッとした顔で睨み返した。
「出来ないか、高橋」
「出来ません。やる気もありません」
 私はいい返した。すると中平さんはトグロを巻いたフィルムを踏みつけた。
「いいか、良く覚えておけ。これはポジというもので、踏もうとちぎろうとかまわん。
よしんばなくなったってもう一本ネガから焼けば良いんだ。
 しかし、ネガは違うぞ、導火線が燃えてる爆弾のように丁寧に扱え」
 説明しながら、中平さんは魔法でも使うように、ほどきようもないと思えたフィルムを元通りにしてしまった。                             (前掲書)※〔〕内、ジャズ野郎註。


 凄いですね、中平監督は。トグロを巻いた大蛇、膨れあがったマタンゴをスルスルと元に戻したってんですから。こういう話を聞いたり読んだりするとジャズ野郎は、やたらと感心し、感激してしまいます。
 それはそうと、ジャズめの方は中平監督のようにマタンゴを、いや、フィルムをただちに元通りすることができず、35 ㎜よりも扱いやすい16 ㎜の整理に散々手こずって、すべてのフィルムをコアに巻き付けて直す--ただそれだけやるのに半日から1日はかかりましたか。

 で、巻き直したフィルムをまた編集機にかけてシコシコ切ったり繋げたり。するとまたバラけて部屋中に拡散する。だからある程度、編集しては、部屋中に散らばったフィルムを巻き直し、また編集してはまた巻き直し・・・と年末年始の約10日間、ほとんどコレばっかし
 メシとトイレ、そして銭湯(洗濯)に行く以外はずっとコレばっか。
 日がな一日、編集ずくめで、クリスマスも正月もありゃしない・・・。〔続く〕


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ブログ1周年記念エッセイ <フィルムに埋もれる> その5

◆ 不器用なあまりに不器用な男・・・気分はクレージー

 部屋が 16 ㎜フィルムや磁気テープであふれ、編集で切ったフィルムの端切れ、1コマ、2コマがワンサと飛び散り、それに接着テープがついているので、テーブルはもちろん、テレビ、ラジカセ、冷蔵庫、壁、壁に貼っている映画ポスター、着ているスエット、スリッパの裏などにペタペタと貼っ付く!

 気づくと髪の毛や、どうも尻が痒いと思ったら尻っぺたに我がフィルムのコマがくっついていた・・・なんて事の連続。
 無精なジャズめは蒲団など上げ下げしない。その蒲団を背中の後ろにグルグル巻きにして、それを背もたれにして炬燵の上の編集機をキコキコ動かしては、モニターに映る映像を見つめ、頃合いのいいところでカットし、先行するフィルムと後ろのフィルムを繋げたり、繋がり具合を確認してから2コマ、3コマとフィルムをカットして繋げ直したり・・・。
 結局、映画の最終作業( 編集 )ってのは、 「工作」 なんですよね。ジャズめはその工作を黙々と繰り返した。

 この1コマ詰める、とか、2コマ増やす、って事に、ドラマの間を引き締めたり、緊張感を煽らせたり、ムーディにしたりする <芸術的かつ創造的なワザ> というものがあるんだろうけど、素人のジャズ野郎にしてみれば、もう、まとめ上げるので精一杯。
 どうにか、観られる程度に繋がればいい、と思っても、そいつがなかなか難しい。
 凡作ではあっても、いや、凡作だからこそ編集で凝りたい所(シーン)もある。

 ところが、そんなことをやっていて、フィルムが乱雑に散乱してしまうと、より分けていたハズのOKテイクとNGテイクがいつの間にかグチャチャにまざってしまって、どんなに探してもOKのカットが出て来ない! 
 やがて頭が混乱して、どれがOKでどれがNGだったかが分からなくなり、さんざんパニくった挙げ句、憔悴してボンヤリ見上げた目の前の壁に探していたOKテイクがあった(!)、なんてお粗末を何度もやらかしてしまう。

 時間は無情に過ぎていき、折角、編集機材を下宿に持ってきたってのに作業はちっとも捗らない

 すると、神経衰弱というか、マイッてくるのですな、精神的に。 〔続く〕


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ブログ1周年記念エッセイ <フィルムに埋もれる> 最終回

◆夢の中でも編集していた10日間

 「現場のプロ(の編集者)なら、オマエの映画なんか半日か1日で仕上げちまうゾ」
と正月休暇に入る前に、ジャズ野郎は講師に言われていた。
 だからして、それを10日かけてやっても出来ないオレはポンコツじゃないか、と自信喪失になり、ろくろく寝ないで編集しているから疲れが溜まって、いつの間にか、後ろのグル巻き蒲団によっかかって寝ちゃってる z z z

「ア、ヤバイ、やんなきゃ」
と慌てて目を覚ますと、知らぬ間に寝てたもんだから眼鏡はかけっぱなし。
 そのかけたまんまの眼鏡に自分の映画のコマがくっついてる ・・・ そんな時は正直、映画がイヤになりましたな

 それでも編集は続けましたが、フィルムと編集機を自室に持ってきた最初の感動は何処へやら。今や部屋中に散らばり、占拠しているフィルムが忌々しくなってくる。

 憎くて憎くてたまらなくなってくる。

 あー、もう、オレはこんな生活はイヤだ。映画は懲り懲りだァ--と自分の覚悟がハンパな事をさしおいて、すべての弊害を「映画」のせいにしてしまう

 ・・・と、そんなところで目が覚める。そう、コレ、すべて夢でやんした。

 眼鏡についた1コマを払いのけて、立ち上がって部屋全体に拡がったフィルムを見つめ、嘆息しては、またぞろ編集機のハンドルをキコキコ廻していたのは、なんと「夢の中」でだった!
 エー、夢かよぉ・・・と思う、その目の前に、夢に出てきた編集機。編集やりかけのフィルムが装填され、その映像が映っているモニターがコッチを見ている。
 夢でしていた作業を、現実で「また」やらねばならない。

 それはまるで、ブライアン・デ・パルマ監督がよく使う、夢の導入による〝悪夢の連鎖〟!

 要するに寝ても覚めても、「フィルムを編集する」という同じ作業をしているわけですな。馬車馬のように・・・24時間不眠不休で・・・何処まで続くぬかる溝。
 編集が終わらない、ということは「映画が完成しない」という事とイコールで、その不安に押し潰され、未完成に終わった場合は 「卒業できない」 という悪夢な結果が待っているから、精を出してやるのだが、編集のために設けた時間的猶予はどんどんなくなっていく・・・もはや、作品を良くしよう、とか、芸術的創造なんかはどうでもよくなってくる。

 とにかく〝終われぇ~! 終わってくれぇ~!〟

                    *****

 この時のこと、今でも時々「夢」に見ます。それほど鮮烈な、強烈な体験です。

 たった10日間でしたが、フィルムに埋もれるようにして寝て、起きて、生活していた。

              それは天国か、地獄か。

 ジャズ野郎は後者だと感じたから、その道を諦めたわけですが、劇映画の編集をしているプロのエディターの方々には笑われるでしょうね。
「そんなことで諦めるなら、映画なんかヤレねぇーよ」って。

 また一般の映画マニアは、そんな具合にフィルムに埋もれて、思う存分、映画と取っ組めたんだから
「幸せじゃないか!」
 とも思うでしょう。確かにそれは一理あります。ジャズめが、映画の製作にはいかない、と決断できたのは、良くも悪くもこの時、とことん 「フィルムに埋もれた」 からですから。

 フィルムに埋もれてもがいていた1986年の正月、郷里の高校時代の同級生(R・N)が上京して我が下宿を訪ねてくれなかったら、ジャズ野郎はノイローゼでどうにかなっていたかも知れない。もちろん、部屋はフィルムでわやなので、R・N君を部屋に招くことは出来ず、近くのファミレスでお茶しましたが、このひとときの「安堵感」というものは今でも忘れない。

      約 30 年前の、映画に淫していた頃のビタースイートな思い出です。       〔完〕


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新作プレビュー  『 アメリカン・ハッスル 』  <前編>

◆〝華麗〟とはほど遠い、シケた詐欺師一派のヒッカケ大作戦

 このブログを始めた1年前にも、その監督作品( 『世界にひとつのプレイブック』2013年1月28・29日付 )がアカデミー賞にノミネートされていた デビッド・O・ラッセル 監督ですが、なんと今回もまたこの『アメリカン・ハッスル』でノミネート。
 しかも作品・監督・主演男優・助演男優・主演女優・助演女優・脚本・美術・衣裳デザイン・編集の最多10部門で候補にあがってるって事ですから、アチラでの評価はますます高まっているようですが、じゃ今度の『~ハッスル』はどんな映画かいな、と思って見てみたら、これが期待を裏切らない、〝いつも〟のラッセル調で安心いたしました。


アメリカン・ハッスル ポスタービジュアル
▲ 『アメリカン・ハッスル』 日本版ポスター   (C)2013CTMG


 というのは、ポスターを含めた派手な各種ビジュアルや、ノリのいい予告編などを見、お話が詐欺師を使って汚職政治家をカモって逮捕したという実話〝アブスキャム事件〟がベース・・・と聞くと、どうも〝いつも〟の< どーしよーもない人間達とその関係 > に密着したラッセル映画から外れている感じで、どことなく垢抜けててカックイイ。
 ゆえに「 『スティング』 (1973年・米)みたいな映画になってんのかな?」と危惧したわけですが、いやいや、そこはちゃんとラッセル監督の世界になっておりました。

 ジャズ野郎はひと安心するとともに、こんなジャンルを手がける時でも--
「ダメダメな人間達とそのグズグズな関係。絆さえもズタボロなのに、しかしそれにしがみつこうとする、哀れで可笑しく、醜くて気高い生き様を活写する」
 --という己の視点を貫くんだなあ、と感心もしました。

 では、そのラッセル調が今回どのように展開されているか、というと・・・それは言いたくないんです。昨年の 『ゼロ・グラビティ』 を紹介した時みたいに、本当はその内容も良い所も何にも紹介したくない気分です。

 というか、その良い所ってのは・・・そうですね、紹介しようにも紹介できない、というか、見た人が勝手に判断して欲しいタイプのもんですな。だから「ちっともオモロクねぇジャン」って人もいるかもしんない。ま、それならソレでしょうがない。
 でも「オモロクねぇ」って事はおそらくない・・・ンー、まぁ、粗筋ぐらいは書いときますか。

〔 1979年--詐欺師のアーヴィン(クリスチャン・ベイル)は妻子持ちでありながら、パーティで知り合ったシドニー(エイミー・アダムス)にひと目惚れ。彼女に詐欺師の正体を明かし、意気投合した二人はケチな詐欺に没頭。そこそこ詐欺稼業も軌道に乗ってきた矢先、シドニーがFBIに逮捕されてしまう。
 逮捕した捜査官リッチー(ブラッドリー・クーパー)は出世欲に凝り固まったアホな男で、カムデン市の市長カーマイン(ジェレミー・レナー)を汚職であげるために、アーヴィンとシドニーを利用。リッチーがアーヴィンに考えさせた市長をカモる作戦は、市長が建設しようとしているカジノ・エリア〝アトランティック・シティ〟に対してアラブ某国の大富豪シーク〔王族〕が投資するように見せかけて、その現場を収賄行為として押さえようというもの。もちろん、アラブのシークってのはインチキで・・・〕


 と、こんな感じでアーヴィン一派にしてみれば、〝細工は流々、仕上げをごろうじろ〟といきたかったが、これがさまざまなトラブルに見舞われて、作戦(ストーリー)がアッチャコッチャと蛇行する・・・。      

 そうです、この映画、ひと筋縄にはいかない

 それはストーリー展開もそうですが、クリスチャン・ベイル、ベイルの妻役のジェニファー・ローレンス、エイミー・アダムス、ブラッドリー・クーパーら主要キャストがみな弱さを抱えた、愛すべきろくでなし で、ベイルがアダムスと、そのアダムスがクーパーとそれぞれ惚れ合い、からみ合うから、もう、その関係がグッチャグチャでマイッちゃう。


アメリカン・ハッスル メイン
▲ アーヴィン(C・ベイル)に肩を組まれている中央の人物が
  カモのカーマイン市長(J・レナー)    (C)2013CTMG

 ところが--本来〝騙しの快感〟を描くべきこの映画は、その果てしもない、グズグズな人間関係のあり方こそが、見ていて楽しい。ホントなら本筋の脇にちょっと描いてあればいいような、それぞれの(変人)キャラクターが濃密に描かれていて(これこそが、デビッド・O・ラッセルのラッセルたらんとする部分ですが)、収拾がつかぬほどに面白い。
 いつもの、せっかちなジャズ野郎なら焦れったくなって、「早く本筋に戻ってよ!」と怒るところですが、いやいや、このグズグズが面白いのです。
 だからお話そっちのけでずっと見ていたくなるんですな、このろくでなしどもの行ったり来たりを、すったもんだを!      〔続く〕

   ■ 1月31日より東京TOHOシネマズ みゆき座、札幌シネマフロンティア、
       ユナイテッドシネマ札幌、シネプレックス旭川ほか全国ロードショー 
                                 配給:ファントム・フィルム ■



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『 ラストシーンの余韻 』 発売中!
映画ライター・高村英次、初の書き下ろし長編 『 ラストシーンの余韻 酒乱と失態、女難と頑迷、監督・溝口健二の狂おしき人生 』

高村英次

Author:高村英次
電子書籍版はアマゾン Kindleストア 及び 楽天ブックスから、紙の書籍版は製本直送.comより発売。直近の各コラムの末尾にある発売告知から販売サイトに遷移、またはポップアップ画面が出ますので、そこで購入できます。 

< プロフィール >
血液型:A型
趣味:サイクリング&ウォーキング&クッキング、デジカメでの写真・動画撮影
好きな場所:札幌ドーム、中島公園、中央図書館、豊平川
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