○ 特別寄稿     - 追悼  阿藤 快 -

◆ あの〝 なんだかな~ 〟はもう聞けない・・・

 今日、お昼のニュースで、俳優の阿藤快さんが亡くなったことを知った。あまりに急すぎて、ちょっと言葉に詰まってしまい、食ってたパンを落としそうになったが、それにしてもあんなに身体が頑丈で、大らかで、テレビ番組で食レポをタフにこなしていた人がどうしてまた? と不思議に思ったが、自宅ベッドに寝ていてそのまま息絶えていたという。11月16日正午のNHKニュースでは死因を心不全としていたが、その後の事務所の発表によれば 「大動脈瘤破裂胸腔内出血」 で、遺体には苦しんだところはなく、まるで眠っているようだったとか。

 正直言うと俳優・阿藤快 (あとう・かい) には、それほど好ましい印象を持っていなかった。ジャズ野郎が映画を見始めた1970年代後半には 『最も危険な遊戯』 『殺人遊戯』 などの(松田)優作アクションとか「にっかつロマンポルノ」の 『襲う!』 『赫い髪の女』 (『赫い~』は言わずと知れた神代辰巳監督による、ただヤリまくるだけの男と女 <の漂流> を描いた傑作。脚本・荒井晴彦)に出ていたようだが、中学生だったジャズめがそれらを観られるハズもなく(優作アクションはともかくロマンポルノはさすがに無理)、「あー、こういう役者がいるんだ」と意識したのは黒澤明監督の5年ぶりの作品で、日本で撮るのが10年ぶりだった大作 『影武者』 (昭和55=19800年、東宝=黒澤プロ)においてであった。

 ニセモノの武田信玄(仲代達矢)の身辺警護、日常生活における行動や仕草、立ち居振る舞いをチェックし監督する 根津甚八 (※1) を筆頭とする近習の一人、がその阿藤さんの役どころ(間宮善二郎)で、ふすまを隔てた隣室で信玄のことをただ黙ってじっと睨んでいた。
 やがて信玄がニセモノだとバレて、信玄の息子・勝頼の勇み足から武田勢は、織田信長・徳川家康の連合軍との雌雄を決する合戦(〝種子島〟、つまりオランダあたりから渡来した鉄砲が初めて日本国内で大々的な合戦に使用されたことで知られる「長篠の戦い」1575年>に突っ走っていく--

 のであるが、この「長篠の戦い」で右往左往する軍勢を撮るロケーションの時に、その〝事故〟は起こった。『影武者』に武田勝頼役で出演した萩原健一が、その破天荒な半生を赤裸々に綴った、バカみたいに面白い告白録 『ショーケン』 の中でその〝事故〟の模様を紹介している。


 そのとき、事故が起こった。
 長篠の戦いでは、ぼく、勝頼が総大将だ。軍隊を動かすとき、ぼくが床几から立ち上がって、軍配を上げる。風林火山のうち、最初の風の歩兵たちが動き始めた。
 歩兵が一斉に槍を突き上げる。ところが、上がり坂を行進しているので、真っ直ぐに天を突かず、やや後ろに上げられた。そのとき、一本の槍の切っ先が、後ろにいる歩兵の目に突き刺さった。
「ぎゃあああっ!」
 その歩兵が、阿藤海〔※2〕さんだった。海ちゃんが、悲鳴を上げてうずくまる。その光景が、偶然おれの目に入ってしまった。
 軍配を持ったまま、おれは叫んだ。
「待ったあ! 待った、待った! 救急車を呼べ、救急車!」
「馬鹿野郎!」
 黒澤さんが、私を怒鳴りつける。
「なんでカットかけるんだあ!」
「何でも何も、救急車を呼んで下さいよ! 海ちゃん、目ぇ潰れちゃいます!」



 前を歩いていた兵士の槍の切っ先が後ろにいた阿藤さんの目に入ったのだ。となれば撮影中止は当然。「待ったあ!」とショーケンが叫んだのも至極当然であったが、撮影に夢中になっている黒澤天皇はそんな事には気づかない。
「(せっかくいいシーンが撮れてるのに、何がカットだ!)馬鹿野郎」
とショーケンをドヤシつけた、というわけでいかにも黒澤監督らしいが、群衆シーンを遠くから見て演出しているわけだから、移動している軍勢内部のささいなアクシデントにまで目が届かないのは無理もない。


 阿藤さんは、突かれた眼球が飛び出して、いまにも落ちそうになっている。幸いにして失明は免れたけれど、ぼくが何も言わなかったら、どうなっていたことか。
                    (以上、『ショーケン』萩原健一、講談社) ※〔〕内、ジャズ野郎註。


 というこの事故の件を読んだ時から、僕は阿藤快さんのファンになった。
  『影武者』では、撮影の初期にキャメラマンの宮川一夫が病気でぬけ、主演者の勝新太郎が降板するとか、仲代達矢が怪我をしてニセの信玄が軍勢を閲兵しているうちに走り出すというシーンでは代役を立てて撮ったり、萩原健一も海辺で乗っていた馬が暴れて海中に投げ飛ばされるなど様々なアクシデントがあったと伝え聞くが、阿藤さんが目を突かれた話は知らなかった。
 おそらく業界では知られた話なのだろうけど、ジャズめはショーケンのこの本で初めて知った次第である。

 さらに言うと、当の阿藤快自身がこの事故のことを話す場面というものを見たことも読んだこともない。だから「巨匠の現場で事故があった事が映画のキズになると思って、敢えて言わなかったんだな」と思い、それで阿藤さんに初めて好印象を持ったのだ。
 ただし、映画の本や映画人のインタビューなどを好きで読んでるジャズ野郎とて、そのすべてに目を通しているわけもなく、最近バラエティー番組に出てよく喋っていた阿藤さんのそのコメントのすべてを見覚えているわけでもないので、断言は出来ないのだけれども、おそらく阿藤快さんはこの事を自分からは公の場で発言してはいないのではないか。

                 いい人だな、阿藤さんて・・・。

 概して、カツドウヤ(映画人)、撮影現場のスタッフは口が堅い。そりゃ、現場じゃ口が悪くて、監督や役者の悪口を言ったり、ああだこうだとクサしたり、陰口をたたくものだけど、いざ公的な席とかテレビ・雑誌のインタビューとなると、「あの方はエエ監督です」とか「あの役者さんにはよくしてもらいました」と当たり障りのない好印象を述べたりする。

 田草川弘さんの著作 『黒澤明vs.ハリウッド』 (文藝春秋) の中にもあるけれど、狂乱を極めて解任された黒澤監督の精神的な病気の実態を知るために、製作・配給元の20世紀フォックスが契約していた保険会社がやってきて、当時の黒澤組スタッフや東映京都撮影所の人たちに証言を求めた時に、彼らはそろって「そういった事実はない」と答えた。保険会社の調査員は、監督の病気認定が出来ないので大変困ったそうだが、僕はこれを知って東映京都のスタッフが好きになった。

 黒澤監督に、日本を代表する映画監督に、恥をかかせてはいけない--というお達しが、東映京都撮影所の上の方(当時の撮影所長・岡田茂あたり)から出ていたように察せられ、それに従って口裏を合わせただけだったのかもしれないが、それにしても〝義理と人情〟に絡んだイイ話ではないか(とはいえ、黒澤監督の当時の状態を知りたいジャーナリズムにしてみれば、こういう義理と人情から出る〝ウソ〟ってのは困りものではあるが)。

 『影武者』で目を突かれて失明しかけたことを自ら口にしなかった阿藤快さんにも、この義理と人情が、カツドウヤの律儀さが、心意気があったんじゃないか、と僕は思っている。『ショーケン』(刊行は2008年)を読んだのは今年の夏だが、それ以来、いつかインタビューできることがあったら、『影武者』での事故のことを訊きたい、と思っていたのだが・・・それももう叶わない。
 快さんの常套句ではないが、ほんとうに--


                   なんだかな~


   である。                                     -合掌-

        阿藤快

                     阿藤 快  〔 1946 - 2015 〕

※1 「根津甚八」 難病(右眼下直筋肥大を発症し、それがもとでウツ状態に。さらに古傷の腰痛が悪化して車いすに)にかかってつらい闘病生活を送ることとなり、数年前に俳優引退宣言をしたが、今年公開の 『GONINサーガ』 (石井隆監督) で11年ぶりの、そして最後のスクリーン復帰を果たした。フジテレビの「ノンストップ!」(2015年9月24日放送)で映画撮影中の様子を見たが、全盛期あんだけ精悍だった根津さんの病みやつれた姿は痛々しく、見るに忍びなかった。
※2  当時の芸名は阿藤快ではなく、改名前の阿藤。因みに本名は阿藤公一。


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11/17のツイートまとめ

JAZZyaro

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11/18のツイートまとめ

JAZZyaro

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11-18 18:21

11/19のツイートまとめ

JAZZyaro

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11-19 23:35

○ 特別寄稿  追悼  原 節子

◆ 紀子の死 -- 原 節子が亡くなった・・・

 原節子が9月5日に肺炎で亡くなっていたことを、今、ネットニュースの速報で知った。この秋、小津監督の戦後の諸作品を見直していたから、なんという偶然か。それにしても、(こう言っては失礼だが)これまで健在でいらしたんだなあ。人知れず永眠されたのかも、とは映画ファンなら誰しも思っていたと思うが。

 僕の大学時代、2年生あたりの時(昭和58年頃)に鎌倉で隠退生活を送っている原節子さんを盗撮したスクープ写真がさる夕刊紙に出た。ところがそれは超望遠で撮った、粒子の粗いボロボロな画像で、原さんの顔らしきものはまるで亡霊のように写っていた。この時、この夕刊紙は原さん側や映画界・マスコミから批難され、世間からも叩かれたようだが、当たり前である。

 映画界から離れて慎ましく生活している大女優を盗撮なんかしちゃいけない。

 昨年、この同じ時期に 高倉健 が逝き、それを追うように 菅原文太 が亡くなり、昨日(11/24)は 川崎敬三 が7月に亡くなっていた事が伝えられたばかり。
 そして今日(11/25)、この人が亡くなった、と聞くと、ウーーーッと唸らざるを得ない。いきなり過ぎて、考えがまとまらない・・・。

 『東京物語』 で原さんが演じた役は、義理の親に当たる笠智衆や東山千栄子の老夫婦を、その実の子供達よりも優しく遇して労る紀子(笠ら夫婦の次男の嫁で、次男は戦死しているから未亡人)であり、それに先立つ 『晩春』 『麦秋』 でも原さんは同じ名の紀子に扮して、それはどちらも嫁に出される適齢期(ちょい遅れ気味)の娘であった。

 それらの名作を作り、一時、彼女との間にロマンスも流れた 小津安二郎 監督は原節子についてこう語っている。


◎原節子 知性群をぬく <監督の見たスター>
 僕は過去二十何年か映画を撮ってきたが、原さんのように理解が深くてうまい演技をする女優はめずらしい。芸の幅ということからすれば狭い。しかし原さんは原さんの役柄があってそこで深い演技を示すといった人なのだ。例えばがなりたてたり、子守っ子やおかみさんのような役はあの人の顔立ちや人柄ができあがっていないというそれを
「原節子は大根だ」
と評するに至っては、むしろ監督が大根に気づかぬ自分の不明を露呈するようなものだと思う。
 映画が人間を描く以上、知性とか教養とかいうものも現れてこなければならない。そういう意味でも原さんの演技には内容があるといえる。もちろん原さんが結婚すればまた違った面も出てくるとは思うが……。〝原節子は日本人向き〟という評、結構、大いに結構なことだ。

    実際、お世辞ぬきにして、日本の映画女優としては最高だと私は思っている。

 (「アサヒ芸能新聞」昭和26年9月9日、『小津安二郎 戦後語録集成 昭和21(一九四六)年-
             昭和38(一九六三)年』〔田中眞澄・編、フィルムアート社〕所収)



   義理の親にかいがいしく尽くした紀子(『東京物語』)
   独り身の父を残して嫁に行くことを嫌がった親思いの紀子(『晩春』)
   「女の子が可愛いから」と子連れの中年男の許に嫁に行く決心をした紀子(『麦秋』)


 紀子は、かつて日本のどんな町にも存在していた女性だった。同じような女性は、今もいるかもしれないが、いるような気がしない。現代とはそんな時代である。


      小津安二郎が〝日本の映画女優としては最高だ〟と評した原節子はもういない。


      原節子が亡くなって、紀子も死滅したような思いがする。つらい年の暮れである。


            原節子

            原 節子 〔 1920 - 2015  享年95歳 〕


< 『祇園の姉妹』や『浪華悲歌』で日本映画にリアリズムを打ち立て、
  『西鶴一代女』『雨月物語』などの名作を放った溝口健二の人生を、
  伊藤大輔・小津安二郎・黒澤明などのライバル監督&スタッフとの
  確執とともに描いた、
        『 ラストシーンの余韻 』 〔電子書籍版〕、
                アマゾンkindleストアから発売中! >





11/25のツイートまとめ

JAZZyaro

@shimura__ken お力落としのことと思いますが、心が落ち着かれましたら、また僕たちを心から笑わせて下さい。
11-25 11:55

志村けんさんの母さん亡くなった。あの優しい、笑顔が忘れられない。ポロッと涙。  志村けんの母・和子さん死去 96歳 - BIGLOBEニュース https://t.co/WbfCs3z68c
11-25 11:51

11/26のツイートまとめ

JAZZyaro

ロナルド・レーガンか?  ウィル・スミス 政界入り計画か - BIGLOBEニュース https://t.co/92LMqpiOMz
11-26 22:59

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映画ライター・高村英次、初の書き下ろし長編 『 ラストシーンの余韻 酒乱と失態、女難と頑迷、監督・溝口健二の狂おしき人生 』

高村英次

Author:高村英次
電子書籍版はアマゾン Kindleストア 及び 楽天ブックスから、紙の書籍版は製本直送.comより発売。直近の各コラムの末尾にある発売告知から販売サイトに遷移、またはポップアップ画面が出ますので、そこで購入できます。 

< プロフィール >
血液型:A型
趣味:サイクリング&ウォーキング&クッキング、デジカメでの写真・動画撮影
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