松竹の監督系譜-蒲田(大船)調の行方 <最終回>

◆芳亭から芳太郎へ 松竹カラーは生きている <後篇>

 そうなのだ--ジャズ野郎も、蒲田=大船調というのは、明るく前向きな小市民性を描いたものなんだろうと思っていた。しかし、その代表作、例えば 五所平之助監督『村の花嫁』 (昭和3=1928年・松竹蒲田)などの非情で無惨なまでに酷薄な、まるで幸せが肩をかすめていくようなプロット(筋書き)を読んで、こんな残酷な哀しいドラマ(粗筋・結末)が「蒲田調の幸福感なのか?!」と思ったものである。
 つまり、蒲田=大船調は、明るく楽しい作品もあるだろうが、どうも多難な事件や悲劇に揉まれながら庶民が前向きに生きる姿を描いた、「淡くて、ささやかで、グレーな幸福希求劇(明日への希望、期待感、といった方が正確か)」というのが、その作風の実態らしい。

 つまり、そこには常に “涙” がつきまとうのである。ドラマ(映画)の中の庶民が泣くのである、泣いている庶民が主役のドラマなのである・・・それならば野村芳亭の映画ではないか。趣向として芳亭さんが描き続けた新派悲劇調でないとしても、その涙の余韻というか、涙の記憶というか、そういうものが映画のどこかに常にある(来月公開される木下恵介監督の若き日を描いた 『はじまりのみち』 では、木下監督の名作が洪水のようにインサートされるのだが、その喜怒哀楽の映像には圧倒的に涙<哀>が多い。涙・涙・涙のオンパレードといってもいいほどだ)。

 それを思った時、なるほど、その芳亭さんの息子の芳太郎ならば、蒲田=大船調を継げるわけだし、継ぐ・継がない、という意識(意図)がなかったとしても野村芳太郎のどの作品にも(浦崎さんの言う)“悲傷”感や“暗い抒情”が漂っているのは、むしろ自然なことなのではないか。こんな具合に納得できた。

 つまり、野村芳太郎の作風は父・芳亭譲りの“持ち味(伝統)”だったのである。

 そして・・・ 蒲田=大船調はというと、まだ死に絶えてはいない。それを継承していた野村芳太郎は8年前に亡くなったが(平成17=2005年4月8日死去)、山田監督は健在で、今年も『東京家族』を発表し、現在新作の『小さいおうち』を撮影中である。80歳を超えて映画を撮り続ける山田洋次は老いることを知らぬ“幼児<キッド>”だ、まだまだ元気いっぱいである。

 松竹映画に流れる、どこか哀れで寂しげで、ちょっと泣けて、そんでもって軽やかな“味わい”こそは、京都の時代劇とともに日本映画の心である、絆である、魂である。

 それを継ぐ者が現れないとしたら、日本から映画が消えて失くなったも同然だ。  〔完〕

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※出典及び参考文献
● 『人物・松竹映画史 蒲田の時代』升本喜年、平凡社
● 『松竹映画の栄光と崩壊 大船の時代』升本喜年、平凡社
● 『かりそめの恋にさえ 女優川田芳子の生涯』升本喜年、文藝春秋
● 『田宮二郎、壮絶』升本喜年、清流出版
● 『日本映画を創った男 城戸四郎伝』小林久三、新人物往来社
● 『雨の日の動物園』小林久三、キネマ旬報社
● 『人は大切なことも忘れてしまうから-松竹大船撮影所物語』山田太一・斎藤正夫・田中康義・宮川昭司・吉田剛・渡辺浩〔ゆたか〕、マガジンハウス
● 『西河克巳映画修業』西河克巳・権藤晋、ワイズ出版
● 『日本映画発達史 第1~5巻』 田中純一郎、中公文庫
● 『大谷竹次郎』田中純一郎、日本経済新聞社
● 『日本映画傳』城戸四郎、文藝春秋
● 『小津安二郎物語』厚田雄春・蓮見重彦、筑摩書房
● 『小説・田中絹代』新藤兼人、読売新聞社
● 『実録・蒲田行進曲』結城一朗、KKベストブック
● 『キャメラマンの映画史 碧川道夫の歩んだ道』山口猛編、社会思想社
● 『映像を掘る 宮川一夫の世界』渡辺浩(ゆたか)、発行パンドラ、発売・現代書館
● 『マキノ雅広 映画渡世 天の巻・地の巻』マキノ雅広、ちくま文庫
● 『映画は陽炎の如く』犬塚稔、草思社
● 『わが映画の青春』衣笠貞之助、中公新書
● 『ひげとちょんまげ 生きている映画史』稲垣浩、毎日新聞社
● 『わが青春』五所平之助、永田書房
● 『キネマの時代 監督修業物語』吉村公三郎、時事通信社
● 『サヨナラだけが人生だ 映画監督川島雄三の生涯』今村昌平編、ノーベル書房
● 『悲劇の喜劇映画監督 川島雄三』木村東市、ジーワンブックス
● 『月刊ユリイカ 特集・川島雄三』青土社
● 『複眼の映像 私と黒澤明』橋本忍、文春文庫
● 『続・巨匠たちの伝説 映画記者現場日記』石坂昌三、三一書房
● 『日本映画監督全集』『日本映画俳優全集・男優篇/女優篇』  キネマ旬報社
● 『NFCニュースレター第74号 2007年8-9月号』発行・著作:国立美術館/東京国立近代美術館

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