巨匠のムチャブリ-島津保次郎 オヤジの蛮行 <その7>

◆ 毎度毎度、次回作を喧伝した〝蒲田のカウボーイ〟

 助監督から監督に昇進した島津は、徐々に才覚を発揮し、興行的にヒットし内容も充実した佳作を数多く発表していく。事実、 〝島津に駄作なし〟 とうたわれたほどである。

 監督としては優秀だが、その行動にはやや突飛なところがあった。
 助監督の頃は、和服に総桐の高級な下駄を突っかけて撮影所に通ったというが、それは実家が下駄屋なので別段おかしくはない。
 ところが時々、馬に乗って撮影所に颯爽と通勤して来た、という。これには撮影所のみんなが驚いた。シンプソン号と名付けた愛馬を駆って撮影所の門を得意満面でくぐった、と言われる。しかも頭にはテンガロンハットを被り、西部劇に出てくるカウボーイ姿で現れた、というから子供っぽいコスプレ趣味もいいとこである。この馬のシンプソン号という愛称は、当時、大人気だったハリウッド・スターのダグラス・フェアバンクスが乗っていた馬の名前をいただいたもので、
「俺はダグラス・フェアバンクスの生き写しだ!」
 と言って 〝ダグさん〟 と自称したというから、恐れ入る! 

 もっとも蒲田撮影所に馬でやって来たのは島津だけではない。驚くことに、島津の恩人でもある小山内薫も「キネマ研究所」時代に馬を駆って撮影所までやってきた、という! 野人の島津と馬は容易に結びつくが、〝新劇運動の父〟といわれたインテリの小山内薫と馬の取り合わせは、ちょっと異様な感じがする。

 また島津の突飛な癖に、新作を撮影している最中に同僚監督や松竹の上役、評論家などに向かって「今、撮っている作品はダメだ」「失敗作です」としきりにコキ下ろす、というのがある。そう言って卑下した後、決まって「次に撮るのは傑作ですから期待して下さい」と言って、次回作の喧伝、期待感を煽ることを言ってまわった、という。
 古参の映画人へのインタビューを集めた『INTERVIEW 映画の青春』(キネマ旬報社)の中に、映画評論家の岸松雄が行った島津と同期の牛原虚彦監督のインタビューが掲載されているが、そこで岸は、

 島津さんは撮っているうちから、「この次がすごいんだ。ぜひ見てくれ。これはじき終わるけど、その次がすごいんだ」と次から次へと傑作を創るんです。

 と語り、牛原監督はそれに答えて-

 島津さんが作った映画はどれも大傑作なんです。面白い方で、「牛原さん、見てよ。いいよ」と自分で言うんです。そういう無邪気な面を持っていた方でございます。

 と言っている。
 「この次がすごいんだ」と告知してまわるのが、無邪気かどうかは別にして、
「それじゃ、今、撮ってる作品はどうなんだ?」とか「まだ撮ってる最中なのに、何で失敗作って判るんだ?」
と心配になってくる。そして「次回作より、今撮ってる作品に身を入れろ!」とお節介な気分にもなってくるのだが、普段は傍若無人のくせに、急にへりくだって次回作を売り込む、というのはどういう心境からだろう。
 かつてジャズ野郎が中学生(昭和50年前後)の頃、森繁久彌が--
「かのチャールズ・チャップリンは『あなたの最高傑作は?』といった記者の質問に、
『ネクスト・ワン!』 、つまり『次回作だ』と答えました…」といった意味のことを自慢げに語るTVCMがありました。そしてかの黒澤明監督も同じ質問に「次回作です」と答えていたことを思い出すのですが、島津の言う「この次がすごいんだ」はそういう意味ではなさそうだ(そういう意味もあるかもしれないが)。

 島津の場合はおそらく、今撮っている作品はこの程度の出来だが、次はもっといい作品を作る、いやもっと凄いのを撮る、といった自己PRで、それはおそらく学歴コンプレックスの裏返し(か、もしくは製作中の作品が傑作に仕上がった時に備えての〝謙遜〟=自慢の前フリ)かもしれない。要するに島津独特の見栄である。
先のコメントに続けて、牛原監督はこうも述べている。

 島津さんと私は同じ歳でしたが、そういう点では私などは子どもみたいなものでございました。競馬もですが、そういう才能も豊かな人だったのです。持って生まれた才能というか才気というか、いろいろな仕事をされた方ですね。  (前掲書)

 芝居や映画、芸事が好きで、遊び好き、そしてグルメで、酒好きときてるから市井の流行廃りにめざとく、つまり時代感覚というものに意外に鋭敏であった。牛原監督の言うように、持って生まれた才能は映画作りだけではなく、いろんなモノに手を出し、発揮された。
 中でも一番愛したのは 〝馬〟〝女〟 であった。   〔続く〕


★☆★ お楽しみいただきました 「島津保次郎 オヤジの蛮行」 は、今後、『ラストシーンの余韻』 と同じく電子書籍化、または紙の書籍化を予定していますので、<その8> 以降のコラムを非公開とさせていただきます。また同時期に連載していた「Coffee Break 叱られやすいヤツ」「~ 松竹ディレクターシステム、その牙城の末路」「日本の映画監督 戦時下の監督たち <その1~6>」もあわせて非公開といたします。ご了承ください ★☆★


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