市川團十郎、節分の日に逝った事の意味

 去る2月3日、歌舞伎の大名跡である第十二代・市川團十郎が急逝した。そしてその日は節分であった。歌舞伎や梨園については何にも知らず、狂言(演目)を1本も見たこともないジャズ野郎が言うのも何ですが、「まさか、節分に逝くとは…」とちょっと絶句しました。
 なぜ絶句したかというと……いや、その理由を言う前に、歌舞伎役者・市川團十郎が持つ重い意味について、読みかじった各種の歌舞伎書籍をもとに説明してみましょう。

 初代の團十郎は万治3年(1660)江戸の和泉町生まれ(通説)。團十郎の父は名を堀越重蔵(または十蔵)といい、この初代は由緒ある役者の家に生まれたといいたい所ですが、先祖は武田・後北条の浪人だったというから武士の出です。初代の幼名は“海老蔵”といいますが、その由来は-

 父の重蔵の頃から江戸の劇場街にほど近い和泉町に住みついた。この人はなかなかの利け者で地主組合の組合長になり、町の顔役でもあった。一方またその当時有名な侠客であった唐犬十右衛門とも親交の間柄にあり、彼自身、菰の重蔵とも呼ばれる侠客仲間でもあった。それで、初代団十郎が万治三年(一六六○)に生まれた時、侠友唐犬十右衛門はみずからその名付け親になって、これに海老蔵と命名したと伝えられている。
                  (『人物叢書 市川団十郎』西川松之助、吉川弘文館)


 父の重蔵は侠客の唐犬十右衛門(とうけん・じゅうえもん)と関係があっただけではなく、自身も“菰の重蔵”と呼ばれる盗賊であったとの説もあり、顔役としても顔が利く、いや市川家のお家芸に倣って言えば“にらみ”が利く剛毅な男だった。 
 ということで海老蔵という幼名を付けたのが侠客、つまり“ヤクザ”で、父親もそれに類する“顔役”であったという、この2点をまずはご記憶願いたい。

 この14才の初代団十郎は中村座で、悪霊を成敗する坂田金時というスーパーヒーローを演じて大評判をとる。この狂言「四天王稚立(してんのう・おさなだち)」は要するに“大江山酒天童子”で知られている妖怪退治の物語で、長谷川一夫(酒天童子・役)・市川雷蔵・勝新太郎・本郷功次郎(坂田金時・役)共演で映画化もされています(昭和35=1960年・大映京都、田中徳三監督)。
 この時、団十郎は“荒事”という派手で豪放な、今でいうなら超ダイナミックなアクション演技を創始したと言われ、並みいる役者達を押しのけてドンドン出世し、芝居の台本作りも手掛けて一座を取り仕切る座頭に成り上がる。座頭は演出・脚本・主演と何役もこなし、芝居全般を一手に引き受けて指揮する大立て者(ワンマン)ですが、中でも團十郎はその神がかった人気ぶりから“お江戸の守り神”としてまさに神的な存在に祭り上げられる。そして、そこには成田山との関連があった。

 代々の団十郎は下総国(千葉県)成田山新勝寺の不動明王を信仰し、舞台でしばしば不動尊像の分身になって示現する「分身不動」を見せた。そして屋号を成田屋と定めた。このことも団十郎を指して「江戸の守護神」「役者の氏神」などと讃仰する傾向と深く繋がっている。
                       (『市川團十郎代々』服部幸雄、講談社)
 

 上記の服部先生の解説の中にある、分身は“ぶんしん”ではなく“ふんじん”と読み、それは--

“團十郎が不動明王に扮して登場するのではなく、不動明王の憑依を得て、不動明王そのものになって示現するという、宗教的な観念を表現する”                       (前掲書)

という意味で、團十郎が不動明王を“演じる”のではなく、憑依、つまり不動明王が天から下りてきて團十郎と一体化し、不動明王そのものとなって芝居小屋の舞台(ステージ)にまかり出て、江戸町人の前で悪霊や悪者を懲らしめた(懲らしめる芝居を見せた)。不動明王本人が目の前で悪党どもをやっつけてくれるのだから、これに憑依された團十郎が観衆からヤンヤ、ヤンヤの喝采を浴びたのは当然で、成田山とも強い結びつきが生まれた。屋号の“成田屋”もここからきている。

 だから成田山新勝寺では、邪や悪運を象徴する鬼を退散させる節分の日には、歴代の市川團十郎が豆をまくのが恒例になっている。新勝寺には重要な行事がいくらもあるでしょうが、年末年始の初詣に匹敵する最大のイベントはおそらく團十郎が参内するこの節分でありましょう。鬼退散の豆まきの日は、大相撲の横綱や俳優、アイドル、人気タレント達がまいてもいいが、とにかくそこに市川團十郎がいないとお話にならない。

 今年、十二代目が永眠したのは、よりによってその節分の日だった--こんな因縁、そうあるもんじゃない。
〔続く〕

※出典及び参考文献 :『人物叢書 市川団十郎』 西川松之助、吉川弘文館 /『市川團十郎代々』 服部幸雄、講談社 /『大江戸歌舞伎はこんなもの』 橋本治、筑摩書房



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