巨匠のムチャブリ-黒澤明 『トラ・トラ・トラ!』事件の真相 その1

 日本映画にはいろんなタイプの名監督、個性の強い大監督がいるが、大監督とて人間である。いつも衆目を唸らせるような名演出・名采配をするばかりではない。むしろ彼らは公私にわたって「エー、なんでこんなマヌケな事やっての?!」とか、「助監督をそんなに殴ったり蹴ったりして、それでもアンタ、人間か!」と思われるような事をしでかす、とんでもなくヒドい奴らである。これから当ブログでは数ヶ月間は、こうした日本映画史に残る、とんでもない大監督のトラブル誌を「巨匠のムチャブリ」 と題してお届けいたします。

 まず、その一番手はやはり、日本の映画監督でもっとも知名度の高い、世界のクロサワ、こと黒澤明監督(1910-1998)から--。

                    *****

 田草川弘氏が著した『黒澤明vs.ハリウッド』 (文藝春秋)は、黒澤明監督について書かれた書物の中で、最上のひとつである。この本と、黒澤作品『七人の侍』等で助監督を務めた堀川弘通の『評伝 黒澤明』(毎日新聞社)、そしてやはり黒澤監督と脚本を共作した黒澤シナリオチームのひとりで大脚本家・橋本忍の『複眼の映像』 (文春文庫)、この3冊を合わせて読めば黒澤映画と黒澤明のことはほぼ分かる。といっても、この3冊を読みこなすには、クランク・イン(アップ)、ラッシュ、「どんでん」などといった映画用語や業界言葉、映画製作全般に関する理解、そして何より黒澤映画についてのマニアックな教養がなければ無理ですが……。

 『黒澤明vs.ハリウッド』は世界で最も知名度の高い日本の映画監督に関して、ファンはもちろん誰もが知りたかったある事件の真相、つまり1968年末、真珠湾攻撃を描くアメリカ映画『トラ・トラ・トラ!』の撮影中に起こった、黒澤明監督解任事件の全容をついに白日に下に晒した点で非常な価値がある。今までも様々な黒澤研究本でその事件の概容や細部は伝えられてきたが、監督解任の前後、撮影現場の黒澤監督に何があったのか、といった核心部分は謎に包まれていて〝籔の中〟であり、黒澤監督が小道具に紛れ込んでいたヤクザの「果たし状」に激怒して助監督を一列に並ばせて殴った、とか、東映京都撮影所のセットの窓を壊して京都太秦署に逮捕された、というとんでもない事件の数々は、「果たし状」が「血判状」になったり、太秦警察に「逮捕」ではなく「自首」したのだ、という具合に細部が違って伝えられ、「いったい何が真実なんだ?」と多くの黒澤ファンを長く戸惑わせてきた。

 この度、田草川氏が膨大な調査の末に解明した真相の数々は、彼が『トラ・トラ・トラ!』の日本語版シナリオを英語台本に直す翻訳者として黒澤監督に雇われたため、映画を製作するアメリカの映画会社20世紀フォックスとの脚本改訂や打ち合わせなどの場面で監督と行動を共にし、実際に目撃・関与した事実を元に掘り起こされている。だからその信頼性は他の黒澤本の比ではない。
 とはいえ、田草川氏は東映京都撮影所で黒澤監督による珍事件が頻発した時、肝心の撮影現場にいて密着していたわけではない。しかし綿密な取材によって明らかにされた撮影前の情況や、撮影所で発生した12件ものトラブルの詳細は今まで伝えられてきた真相の中でもっとも確度が高く、しかも抜群に面白い!
 
 その12件のトラブルとは--

【 照明器具落下事件 】
【 夏服事件 】
【 果たし状事件 】
【 カーテンのしわ事件 】
【 ヘルメット、ガードマン事件 】
【 本棚事件 】
【 ガラス割り事件 】
【 鍵谷の控え室事件 】
【 壁塗り直し事件 】
【 神棚事件 】
【 壁壊し事件 】
【 屏風事件 】


 などで、これらを通じて、これぞ〝ムチャブリ〟 という巨匠の奇行と素顔を覗いてみることにしましょう。  〔続く〕


< 『祇園の姉妹』や『浪華悲歌』で日本映画にリアリズムを打ち立て、
  『西鶴一代女』『雨月物語』などの名作を放った溝口健二の人生を、
  伊藤大輔・小津安二郎・黒澤明などのライバル監督&スタッフとの
  確執とともに描いた、
        『 ラストシーンの余韻 』 〔電子書籍版〕、
                アマゾンkindleストアから発売中! >





スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

The Food Court ♪

いっぱい食べるキミが好き~ ♪♪♪

SPORTS & CASUALS ♪

いっぱい遊ぶキミが好き~♪♪♪

お役立ちエリア ♪

ナイスな便利グッズ&サービスをご提供!

RSSリンクの表示

ブロとも申請フォーム

Powered By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ

『 ラストシーンの余韻 』 発売中!
映画ライター・高村英次、初の書き下ろし長編 『 ラストシーンの余韻 酒乱と失態、女難と頑迷、監督・溝口健二の狂おしき人生 』

高村英次

Author:高村英次
電子書籍版はアマゾン Kindleストア 及び 楽天ブックスから、紙の書籍版は製本直送.comより発売。直近の各コラムの末尾にある発売告知から販売サイトに遷移、またはポップアップ画面が出ますので、そこで購入できます。 

< プロフィール >
血液型:A型
趣味:サイクリング&ウォーキング&クッキング、デジカメでの写真・動画撮影
好きな場所:札幌ドーム、中島公園、中央図書館、豊平川
好物:コーヒー、ジンギスカン、スープカレー、ラーメン、「ロイズ」のソフトクリーム、「シャトレーゼ」のアイスバー・ピュルテ(塩キャラメル味)、びっくりドンキー、はま寿司、セイコーマート

My Blog Visitors
CAT TIME !
Calendar

Le TAO ♪
春の光だ、マチに飛び出せ! ・・・ ルタオです ♪♪♪
FC2 ブログランキング
FC2 Blog Ranking
[ジャンルランキング]
映画
573位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
邦画
17位
アクセスランキングを見る>>
リンク
最新記事
松尾ジンギスカン ♪
北海道の郷土料理にしてベスト!
カテゴリ
月別アーカイブ
リーズナブルな旅をご案内 ♪
書を捨てよ、旅へ出よう~ ♪
Amazon DVD RANKING
イチバン人気の映画をチェック!
検索フォーム
最新コメント
MAIL BOX
名前はハンドル名でOK、文面は公開しないので、お気軽に!

名前:
メール:
件名:
本文:

最新トラックバック
QRコード
QR