Coffee Break 小津安二郎のたなごころ <その1>

◆ 迷える後輩・渋谷実を盛り立てたOZU

 先に書いたように島津保次郎は製作準備中だった企画『暖流』を、いわば吉村に託す形で東宝へ移籍した。

 監督が他の映画会社へ移籍する時には、子飼いの助監督やキャメラマンなどを一緒に連れていくことが多い。松竹から東宝へ移籍した 成瀬巳喜男 は助監督だった 山本薩夫を連れて出ているし、 斎藤寅次郎佐藤武 を同行させ、日活から東宝へ移籍した 山中貞雄 は腹心の 萩原遼 を連れて行く、といった具合である。

 因みに成瀬は東宝移籍の際(昭和9年)、最初はチーフ助監督だった 渋谷実 を連れて行こうとして、渋谷に声をかけた。
 しかし渋谷はそれを断り、自分の代わりに山本薩夫を連れて行って欲しいと推薦する。渋谷は松竹に残る道を選んだわけだが、この頃の彼は監督に昇進する前であり、成瀬が去った後は五所組の助監督になるのだが、その五所平之助 『花籠の歌』 (昭和11=1936年)を撮るとかねてから悪化していた結核の治療で伊豆に引きこもり、療養生活に入ってしまう。
 つまり(大船)撮影所からいなくなってしまったので、『花籠の歌』の編集などポスト・プロダクションは渋谷が引き継いで、作品を仕上げた。

 そんな時、〝ティークラブ〟の大庭秀雄や原研吉らに監督昇進の打診があり、渋谷もそろそろ監督昇進がかかった微妙な状況になってくる。成瀬や五所といった自分を監督に推薦してくれる師匠が撮影所にいない、というのは自分にとっては大いにマイナスであるから、渋谷は焦りと不安で思い悩むことが多くなる。
 先に触れたように、このちょうど同じ頃に吉村も焦っていたわけで、先行する大庭や原を横目に見ながら、二人はともに苦悶していた。


 そんなピリついた渋谷を見かねた所長の 城戸四郎 は彼を小津組につかせる。

 その作品は昭和12年(1937)の 『淑女は何を忘れたか』 。後にアップする 【色情監督・原研吉】 のところでも触れるが、原研吉は自身が招いた女のトラブルが原因で小津の信頼をなくしていた。そこで渋谷はそんな原の代わりに小津組のチーフ助監督になるのだが(渋谷より先に監督昇進の打診があった原研吉はこの小津作品で編集にまわる)、その撮影現場で彼は成瀬や五所とはまったく違う小津の映画りを間近に見ることになる。

 表面はいつも通りダンディに構えているが、その裏で映画と必死に格闘する小津の姿にも触れ、衝撃を受けた。
 やがてこの撮影中、渋谷に監督昇進の辞令が出る。 『松竹映画の栄光と崩壊』(升本喜年、平凡社 )にその際の小津安二郎と渋谷実のやりとりが感動的に紹介されている。

 撮影が終わったのは、二月十四日の夜明けだった。
 …(略)…
 最後のカットが「OK」となり、「ごくろうさまァ」「お疲れッ」という歓声があがった。そのあとで、小津が渋谷に言った。
「チャンスが来たらしいな。君に、脚本が用意してあるそうだ。くだらん脚本でも、断わらず、やった方がいいよ。俺は、はじめての時、断ったがね」
 小津が強力に推してくれたということは、ずっとあとになって知った。


 〝くだらない脚本でも、断らず、やった方がいいよ。俺は、はじめての時は、断ったがね〟などというクールなアドバイスを後輩に送る一方で、小津は助監督として渋谷の働きを認めて、監督にしてほしいと上層部にかけあっていた・・・というのだからカッコイイ。

 松竹の場合、こういうイイ話はみんな小津安二郎のものである。

 渋谷は最初、この用意された脚本を嫌がったが、小津のように断ることなくそれを撮った。その作品 『奥様に知らすべからず』 (昭和12=1937年)が渋谷実のデビュー作となった。


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