新作プレビュー  『終戦のエンペラー』

◆〝耐え難きを耐え、忍び難きを忍んだ〟一枚の写真の物語

 〝エンペラー〟とは、日本の天皇、つまり太平洋戦争で日本の敗戦をラジオで呼びかけた昭和天皇のことで、この映画はその昭和天皇がいかにして〝戦犯〟を免れたか、を描く大作です。天皇の戦争責任とか、進駐軍がいかに日本を占領統治し、戦後の日本の道筋をつけたか、という小難しいテーマは評論家センセイに任せますが、そういう事よりもジャズ野郎は『真珠の首飾りの少女』(平成16=2004年)で注目された ピーター・ウェバー 監督(イギリス人)が、つまり外国人が日本の終戦をどのように描くのか、それに興味があって試写を見たわけですが・・・。

 こういう事を言うとアレですが、史実に基づきながらフィクションを織り交ぜて慎重に描いていく語り口はまるで「NHKスペシャル」のようで、判りやすい。フィクションというのは、〝天皇が戦争を始めた首謀者である〟という事実がないことを調べさせられる、フェラーズ准将(マシュー・フォックス)と日本人女性・アヤ(初音映莉子)のロマンスの事ですが、こういう甘い話もないと終戦直後の話だけに映画全体が殺伐とした暗いムードで塗りつぶされてしまうから、まぁ、アクセントとしては必要かもしれません(進駐軍の米兵に身体を売って稼いでいた日本女性の娼婦街なんか出て来ますが、そのバラック内部の装飾などがどことなく中国っぽくて・・・奇異な感じがしましたが)。

 しかし、建国以来初めての敗戦、というショックに直面した当時の日本の状況は、もっともっと混迷と混乱、失望と悲惨と飢えに満ちていたハズだから、こんなにスッキリと語られる物語ではなかったのでは? という気もする。
 とはいえジャズ野郎は戦後18年も経ってから生まれた〝戦争を知らない子ども〟でやんすから、まぁ、そんなにエラソーなことも言えない。実際、終戦についての映像的イメージは、当時の記録映像や日本の戦争映画に依るものでしかないわけで、この当時の事は関連書などを読んで追想するしかない。
 
 そんな物識らずのジャズめが見ながら思ったのは、先日の〝従軍慰安婦〟発言で物議を醸した方とか、今も米軍基地に苦しめられている沖縄の人達、または中国、韓国といった〝今そこにある適性国家〟の人達はどのように、コレを見るかなぁ、という事。
 特に、クライマックスの、というか、この一枚の写真のためにこの映画が作られたわけですが、例のマッカーサー元帥と昭和天皇の2ショット写真。コレが撮られるまでの山あり谷ありの軌跡が、『終戦のエンペラー』のストーリーなんですが、要するに天皇がマッカーサーに言う〝私はどんな責任も負う、その代わり日本国民を助けて下さい〟という意味の心情吐露--コレ、日本人なら泣けますが、中・韓の国民はどう感じるのか・・・ただの責任逃れ、と見るか、泣き落としと見るか・・・それを考えると気が重くなる。

 戦争は攻めた側と攻められた側じゃ、感じ方が180度違うのは当たり前で、それが180度もうひと回りして、同じ観点に立って、ようやく互いの心情がわかり合えるみたいに思います。実際、アメリカと日本はそんな感じになってるわけですが(完全にそうなってるワケじゃないけど)、中・韓ともそうなる日が来るのかな・・・なんて見ながら思いましたね。

 あと、途中で、天皇の敗戦の詔(みことのり)を録音した〝玉音盤〟を巡って、日本軍の青年将校がクーデターを起こし、皇居を占拠する、という大宅壮一のルポ 『日本のいちばん長い日』 で詳述された有名な事件がチラッと描かれます。
 コレは昭和42年(1967)に 岡本喜八 監督によって、東宝創立35周年記念大作として映画化されていて、ジャズ野郎が最も好きな(岡本)映画です。皇居内に侵入した反乱軍の手を逃れ、すったもんだの果てに放送局に届けられた玉音盤。コレを放送で流そうとする(昭和20年)8月15日の正午直前、その玉音放送を護衛した 井川比佐志の中尉 が、突然、いきり立って軍刀を振りかざし、

「終戦の放送などさせてたまるか! 奴らを皆叩き斬ってやるッ!」

と叫んで放送スタジオに乱入しようとする。即座に中尉は周囲の兵に制止される。と、中尉の手から軍刀がもぎとられ、それが廊下にカタンと堅い音をたてて落ちた瞬間、画面は時計にきり変わって、正午を示す時報がポ~ンと鳴り響く・・・この一瞬の快感ったらない。

 ジャズ野郎はこの一瞬を見るために、上映時間2時間38分の『日本のいちばん長い日』のビデオを、終了と同時に巻き戻して頭から見直しました。同じ作品を見終わって、すぐにまたド頭から見直す、という〝連続2度見〟をした作品は、この『日本のいちばん長い日』だけです。ま、『終戦のエンペラー』とは関係ないですが(それに井川比佐志の中尉の件は『終戦~』には出てきません、念のため)。

 ただ〝終戦の放送などさせてたまるか!〟という想念(思い)は、当時の日本国民の素直な心境-〝やっと戦争が終わった、よかった〟-とは背離しつつも、確かにこの8月15日にはあった。
 その8月15日が今年もやってくる。その日を迎える前に・・・『終戦のエンペラー』は、我々が見ておくべき映画、ではあるかもしれない。

          ■  7月27日より全国一斉ロードショー  配給:松竹  ■


< 『祇園の姉妹』や『浪華悲歌』で日本映画にリアリズムを打ち立て、
  『西鶴一代女』『雨月物語』などの名作を放った溝口健二の人生を、
  伊藤大輔・小津安二郎・黒澤明などのライバル監督&スタッフとの
  確執とともに描いた、
        『 ラストシーンの余韻 』 〔電子書籍版〕、
                アマゾンkindleストアから発売中! >


スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

The Food Court ♪

いっぱい食べるキミが好き~ ♪♪♪

SPORTS & CASUALS ♪

いっぱい遊ぶキミが好き~♪♪♪

お役立ちエリア ♪

ナイスな便利グッズ&サービスをご提供!

RSSリンクの表示

ブロとも申請フォーム

Powered By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ

『 ラストシーンの余韻 』 発売中!
映画ライター・高村英次、初の書き下ろし長編 『 ラストシーンの余韻 酒乱と失態、女難と頑迷、監督・溝口健二の狂おしき人生 』

高村英次

Author:高村英次
電子書籍版はアマゾン Kindleストア 及び 楽天ブックスから、紙の書籍版は製本直送.comより発売。直近の各コラムの末尾にある発売告知から販売サイトに遷移、またはポップアップ画面が出ますので、そこで購入できます。 

< プロフィール >
血液型:A型
趣味:サイクリング&ウォーキング&クッキング、デジカメでの写真・動画撮影
好きな場所:札幌ドーム、中島公園、中央図書館、豊平川
好物:コーヒー、ジンギスカン、スープカレー、ラーメン、「ロイズ」のソフトクリーム、「シャトレーゼ」のアイスバー・ピュルテ(塩キャラメル味)、びっくりドンキー、はま寿司、セイコーマート

My Blog Visitors
CAT TIME !
Calendar

Le TAO ♪
夏フェスのお供に甘いスイーツを ・・・ ルタオです ♪♪♪
FC2 ブログランキング
FC2 Blog Ranking
[ジャンルランキング]
映画
419位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
邦画
17位
アクセスランキングを見る>>
リンク
最新記事
松尾ジンギスカン ♪
北海道の郷土料理にしてベスト!
カテゴリ
月別アーカイブ
リーズナブルな旅をご案内 ♪
書を捨てよ、旅へ出よう~ ♪
Amazon DVD RANKING
イチバン人気の映画をチェック!
検索フォーム
最新コメント
MAIL BOX
名前はハンドル名でOK、文面は公開しないので、お気軽に!

名前:
メール:
件名:
本文:

最新トラックバック
QRコード
QR