日本の映画監督  監督志願者の〝傾向と対策〟

◆ アカい若者は撮影所を目指す <その9 最終回>

 当時、大学などに進む多感な学生はみなマルクス・ボーイ(左翼)と言っても過言ではない、そういう時代であった。そしてそうした自由と理想を求める若者達は、正業を嫌い、または正業に就けず、映画界に飛び込んできた。労働環境の劣悪さに加えて、安月給、いや欠配(月給の未払い)も普通であったから、映画界ではストライキもよく起こったものだが、それでも当時の撮影所にはこうした若いエネルギーを内懐に包含する余裕と自由と、そしていい加減さ(チェック体勢の不備)があった。

 だから、この大正から昭和初期にかけて、左傾化したアカい若者達はこぞって映画界を目指した。そんなマルクス・ボーイならぬマルクス映画人達は、戦前は業績の不振を従業員の解雇でしのごうとする映画会社の〝暴挙〟に対してストライキを起こしたり、団体交渉で会社に迫ったりと活躍し、戦後は日本の三大労働争議に数えられる 東宝大争議 を引き起こす(日本の映画界に起こった争議のクライマックス)。
 しかし、その東宝争議の(労使ともに)敗北と、GHQによる引き締め、 レッドパージ(コミュニスト追放) によって、その勢いは下火となる。東宝を追われた、山本薩夫今井正亀井文夫らは独立プロを作って、硬軟取り混ぜた意欲的な作品を自主製作して世に問い、1950年代には隆盛(独立プロ・ブーム)を見るのだが、やがてそれも映画人気の下降とともに衰退する。  

 山本薩夫や今井正は、大映や東映、東宝といったメジャーでその後も作品を発表していった。左翼の監督でも亀井文夫や 木村荘十二 などのように、戦後、十分に活躍できなかった人もいるから、山本・今井がメジャーで映画を撮れたのは単に運が良かっただけではなく、演出の腕が優れていた、ということになろう。
 本音を言えば、メジャーの映画会社は監督の主義主張など、右でも左でも、どーでもいいのである。当たる映画さえ撮ってくれれば、監督として使うのだ(その逆、どんなに知的で教養豊かでも、当たらない映画を撮る監督はクビを切られ、仕事がなくなる。映画に限らず、フリーランスのクリエイターはどこもみな同じですな)。






 先に (8月28日付【島津保次郎 オヤジの蛮行 <その57>】) で、まだ東大生だった今井正が、その時、初監督作品を演出していた 吉村公三郎 (身分はまだ助監督)に、映画界入りを相談しにいった話を書きましたが、この時、吉村は今井にやんわりと断りを入れている。後年、名監督になった今井は吉村に会った時に、当時の思い出を踏まえてこう語った。

「あの時あなたの言われたような方法で、現在のぼくも助監督志望者にしやべるでしょうね」と笑って言われた。
                        (『あの人この人』吉村公三郎、協同企画出版部)


 今井の言う〝あの時あなたの言われたような方法で〟というのは、吉村公三郎の言葉を借りると、

 私はいかにこの仕事が大変なものであるかを説き、思い止まらせようとした。
                 (『キネマの時代 監督修業物語』吉村公三郎、共同通信社)


ということで、それはつまりは--映画の現場は大変だからやめた方がいい、と懇々と話して説得した--ということになろう。
 だが、21世紀の現在に至っても映画をやりたいという若者は後を絶たない。その気持ちは、遠い昔、ジャズ野郎もそうだったので、よ~く判りますが、悪いことは言わない、やめといた方が賢明です。

 その昔、植木のダンナ(植木等)は、

     ♪ 競馬(ウマ)で金儲けした奴ァはないヨ ♪ --「スーダラ節」作詞・青島幸男

 と歌ったが、映画で金を儲けた奴ってのも、そんなにはいない。とはいえ、まったくいない、ってわけでもない、興収300億円突破のアニメ作品を作った宮崎(駿)監督もいますから。

 というわけで、来週からは、映画で金儲けした奴のお話でやんす。  〔一応の完〕


■ 出典及び参考文献 ■
● 『キネマの時代 監督修業物語』 吉村公三郎、共同通信社
● 『あの人この人』 吉村公三郎、協同企画出版部
● 『時代映画の詩と真実』伊藤大輔/著、加藤泰/編、キネマ旬報社
● 『熱眼熱手の男 私説・映画監督伊藤大輔の青春』 磯田啓二、日本図書刊行会
● 『映画読本 伊藤大輔』 フィルムアート社
● 『溝口健二の人と芸術』 依田義賢、現代教養文庫
● 『映画監督五十年』 内田吐夢、三一書房
● 『カツドウヤ水路』 山本嘉次郎、筑摩書房
● 『伝記叢書301 カツドウヤ自他伝(伝記・山本嘉次郎)』 山本嘉次郎、大空社
● 『山本薩夫 私の映画人生』山本薩夫、新日本出版社
● 『森一生映画旅』 森一生/山田宏一・山根貞男、ワイズ出版
● 『私の藝界遍歴』森岩雄、青蛙房
● 『われら青春時代の仲間たち』山形雄策、ふるさときゃらばん
● 『キャメラマンの映画史 碧川道夫の歩んだ道』 山口猛編、社会思想社
● 『講座日本映画4 戦争と日本映画』 岩波書店
● 『日本映画発達史』 全5巻、 田中純一郎、中公文庫 
● 『人物・日本映画史1』 岸松雄、ダヴィッド社
● 『人物・松竹映画史 蒲田の時代』 / 『松竹映画の栄光と崩壊 大船の時代』 升本喜年、平凡社
● 『INTERVIEW 映画の青春』 / 『日本映画監督全集』 キネマ旬報社
● 『NFCニューズレター 2008年10月-11月号 「生誕110周年 大河内傳次郎と伊藤大輔』 / 『~2012年6月-7月号&8月-9月号 「生誕百年 映画監督 今井正」』 発行・著作:独立行政法人 国立近代美術館/東京国立近代美術館


< 『祇園の姉妹』や『浪華悲歌』で日本映画にリアリズムを打ち立て、
  『西鶴一代女』『雨月物語』などの名作を放った溝口健二の人生を、
  伊藤大輔・小津安二郎・黒澤明などのライバル監督&スタッフとの
  確執とともに描いた、
        『 ラストシーンの余韻 』 〔電子書籍版〕、
                アマゾンkindleストアから発売中! >





スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

The Food Court ♪

いっぱい食べるキミが好き~ ♪♪♪

SPORTS & CASUALS ♪

いっぱい遊ぶキミが好き~♪♪♪

お役立ちエリア ♪

ナイスな便利グッズ&サービスをご提供!

RSSリンクの表示

ブロとも申請フォーム

Powered By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ

『 ラストシーンの余韻 』 発売中!
映画ライター・高村英次、初の書き下ろし長編 『 ラストシーンの余韻 酒乱と失態、女難と頑迷、監督・溝口健二の狂おしき人生 』

高村英次

Author:高村英次
電子書籍版はアマゾン Kindleストア 及び 楽天ブックスから、紙の書籍版は製本直送.comより発売。直近の各コラムの末尾にある発売告知から販売サイトに遷移、またはポップアップ画面が出ますので、そこで購入できます。 

< プロフィール >
血液型:A型
趣味:サイクリング&ウォーキング&クッキング、デジカメでの写真・動画撮影
好きな場所:札幌ドーム、中島公園、中央図書館、豊平川
好物:コーヒー、ジンギスカン、スープカレー、ラーメン、「ロイズ」のソフトクリーム、「シャトレーゼ」のアイスバー・ピュルテ(塩キャラメル味)、びっくりドンキー、はま寿司、セイコーマート

My Blog Visitors
CAT TIME !
Calendar

Le TAO ♪
駆け足でやってきた秋、甘味満喫 ・・・ ルタオです ♪♪♪
FC2 ブログランキング
FC2 Blog Ranking
[ジャンルランキング]
映画
618位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
邦画
20位
アクセスランキングを見る>>
リンク
最新記事
松尾ジンギスカン ♪
北海道の郷土料理にしてベスト!
カテゴリ
月別アーカイブ
リーズナブルな旅をご案内 ♪
書を捨てよ、旅へ出よう~ ♪
Amazon DVD RANKING
イチバン人気の映画をチェック!
検索フォーム
最新コメント
MAIL BOX
名前はハンドル名でOK、文面は公開しないので、お気軽に!

名前:
メール:
件名:
本文:

最新トラックバック
QRコード
QR