名作・迷作探訪〔邦画篇〕  メガヒット映画の功罪 <その2>

◆ 伊藤大輔こそは〝小唄映画の父〟

 『船頭小唄』が出来たきっかけは、伊藤が池田と銀座をブラついていた時のこと--

『船頭小唄』の誕生は、「何か変わったものをやろうじゃないか」と、伊藤と池田の二人の銀ブラから生まれた。銀座を散策する二人の横を口笛を吹きながら追い越していった商店の小僧さんがいた。その口笛のメロディーが『船頭小唄』(作詞野口雨情、作曲中山晋平)であった。
(『熱眼熱手の人 私説・映画監督伊藤大輔の青春』磯田啓二、発行・日本図書刊行会、発売・近代文芸社)


 というわけで、伊藤は商家の小僧(上方でいう丁稚)が口笛で吹いていた〝鼻歌〟の流行歌をそのまま映画に使って、1本当たる映画をこさえてみよう、ともくろんだ。理不尽な武家支配や封建制に反逆する侍や侠客を描いた、熱血・硬骨の伊藤大輔にも、そうした小才、商売っ気があった事が判るから、この逸話は興味深い。伊藤自身は『船頭小唄』について、こう語っている。

泰 〔加藤泰〕 大正十二年の「船頭小唄」は先生の脚本ですって?
先生 〔伊藤〕 ええ。あれはサイレントの時分で……。その頃は、画面の中で「唄」なんかの入用な場面、たとえば娘っ子の唄う場面だとすると、スクリーンの横手へ、歌手の女の子が出て来て、オーケストラ・ボックスの伴奏に乗って情緒纏綿、大いに気分を出したものだった。
 その頃、大震災〔大正12年の関東大震災〕の前だったな、「船頭小唄」という流行歌が、レコードで大当たりにあたったので、御用作者〔松竹所属の脚本家だった伊藤自身のこと〕のことだ、命ぜられたままに唯々諾々、書きなぐって製作したら、これが馬鹿当りの大人気。主役の栗島すみ子君が銀座を歩くと、後ろからドウスル連〔ファン〕が、ついて歩いて、
♪ オレは河原の枯れすすき 同じお前も枯れすすき……と、往来が止まって、交通巡査が出たって-- 本当の話。
   (『時代劇映画の詩と真実』伊藤大輔著・加藤泰編、キネマ旬報社) ※〔〕内、ジャズ野郎註。


 この『船頭小唄』が大当たりしたので、流行歌に合わせて映画を作るのが流行り出す。そこで伊藤は、唄に合わせて、ではなく、最初から映画に唄(主題歌)を入れて作り、映画公開とともにドチラもヒットさせようとしてシナリオを書く。
 その作品が先に吉村公三郎が小唄映画の最初だと言っていた 『水藻の花』 (大正12=1923年・松竹蒲田 池田義信監督 *1)なのである。

 伊藤の上記のコメントからも判るように、サイレントで音がないこの時代、小唄が流れる時(*2)には、歌い手がスクリーン横に現れて伴奏に合わせてその場で唄うから、館内に歌声が流れて、グッと気分がノッテくる・・・つまり、映像に合わせて唄が流れる瞬間というものは、ちょっと前(といっても80年代だけど)のMTVに出てくるミュージック・クリップ、プロモみたいな、夢心地になるわけです。だから〝小唄(映画)〟が観客に受けて、作品がヒットしたってのも判りますよね。






 また伊藤は〝命ぜられたままに唯々諾々、書きなぐって製作したら…〟と言い、流行歌を使うことが主眼だったから、言われた通り(内容も余り吟味しないで)に書きなぐった、などと語っていますが、これは謙遜。

『水藻の花』は、一見大通俗ドラマの形をとっているが、実はこの映画はドイツの作家プトマン〔原文まま ※3〕の『沈鐘』を下敷きにしたものであった。
                     (『熱眼熱手の人 私説・映画監督伊藤大輔の青春』)


 と博識な伊藤大輔らしく、そのドラマのベースは、構成のしっかりした外国ダネの戯曲なのです。
 とはいえ、この時期、(松竹)蒲田映画のクレジットには必ずと言っていいほど「脚本・伊藤大輔」と出た、といわれるほど、伊藤はめまぐるしいほど多くのシナリオを書いていた。だから〝書きなぐった〟という表現も謙遜ではないのかもしれないが、そんな〝勢い〟で書いた映画でも、小唄の導入で大ヒットと相成ったわけです。

 これを他社が、鵜の目鷹の目の映画界が見逃すはずはない・・・こうした小唄映画を巡る状況を頭の片隅に入れといて下さい。  〔続く〕

*1 「水藻の花」 この映画について伊藤大輔は、「これが僕の松竹への辞表ですよ」と語っている。それは伊藤はこの作品とそれまでのチャンバラ旧劇を〝時代劇〟に変えた『女と海賊』 (大正12年・野村芳亭監督、4月13日付けの【野村芳亭、知られざる巨人 <その22>】参照) を置きみやげに松竹を退社する。それで〝辞表です〟と言ったわけだが、辞めた理由は松竹が伊藤に監督をさせなかったからであった。
 松竹側は、教養豊富で次々とイイ脚本を書いてくれる伊藤にもっと台本を書かせたくて、彼の監督希望を引き延ばしていた。だが、あまりにも大量のシナリオを書いた伊藤はノイローゼ気味になり、それを知った松竹の大谷社長から気分転換にと、湯河原への休暇旅行をプレゼントされた。
 大量のシナリオを書いているとはいえ、伊藤は松竹社員。その一介の社員に対して、休暇をプレゼントするなどという事は、この当時の松竹にしてはみれば破格の〝待遇〟であったが、監督志望が強かった伊藤はこれに満足せず、結局、松竹を去る。
 すると、松竹はその退社の報復として、『女と海賊』『水藻の花』のクレジットから「伊藤大輔」の名前を削除した! クレジットどころか、後に『水藻の花』で伊藤が作詞した小唄がレコード化された際にも、作詞者から伊藤の名を外させたという・・・ゲに恐ろしきは大松竹の力である。

*2 「小唄が流れる時」 「ここから小唄」という段になると、スクリーンに〝字幕〟が映し出された。字幕と言っても、今のように画面下や横に流れるスーパーインポーズではなく、黒バックに台詞やト書きが書かれたタイトル画面が出、歌っている俳優とそのタイトルがカットバックする。そこへ、スクリーン横の歌手の歌唱が被さってくる・・・、とまぁ、当時はこんな状況だったようです。

*3 「プトマン」   伊藤本『熱眼熱手の人 ~』の中の記述で〝プトマン〟とあるのは間違いで、正しくはハウプトマン。正確には ゲアハルト・ハウプトマン (1862-1946)で、伊藤大輔が若年の頃読んで影響を受けたドイツの劇作家である。


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