名作・迷作探訪 〔邦画篇〕  メガヒット映画の功罪 <その3>

◆ 『籠の鳥』   安~~く作った小品がまさかの・・・!

 さて--ようやく『籠の鳥』のお話です。
 この映画が公開されたのは、伊藤大輔脚本による『船頭小唄』や『水藻の花』の翌年の13年。大正年間の13年(1924)というと、前年の12年には 関東大震災 があり(『船頭小唄』や『水藻の花』の公開は同じ大正12年だが震災前)、まだ日本全土はショック醒めやらぬ状況だったと思いますが、そんな穏やかならぬ巷にこの唄は大流行した。
 その歌詞の一節を紹介しておきましょう。

◎「籠の鳥」            作詞・千野かほる 作曲・鳥取春陽
 あいたさ見たさに  こわさを忘れ   暗い夜道をただ一人
 あいに来たのに   なぜ出てあわぬ  僕の呼ぶ声わすれたか
 あなたの呼ぶ声   わすれはせぬが  出るに出られぬ籠の鳥  …(略)…


 歌詞の内容は、私は自由の利かぬ囲われ者の籠の鳥・・・というような、哀れな女(二号か、お妾・・・ン? ドッチも同じか)の哀しく侘びしい境遇を歌ったもので、そうした悲哀が震災後の世情に受けたものらしい。
 この詩に合わせて作られた映画は、好きな男との恋路を親に反対され、外出を禁じられてしまった娘の苦衷を切々と描いた悲恋物。大阪市の港区・西区の情報サイト 「みなとQ」 内の 「わが町人物誌」 の中で、地域史研究家の 三善貞司 氏が映画の粗筋を解説しています(*1)

 筋は実に単純明快です。まず蘭子〔沢蘭子、主演女優〕の扮する船場のいとはん「お糸」が窓に寄りかかり、伏目になって得意の憂いにみちたもの悲しい表情をします。無声映画の時代ですから、説明は弁士の高橋鶴瞳(かくとう)が、思い入れよろしく美声をはりあげます。
「お糸は恋しい文雄との仲をひきさかれ、心すすまぬ親の縁談を断ったため、いまは一室に監禁されておりました。文雄に出した速達の手紙の返事も来ず、望みもついに絶えはてて、うつろに見上げる目の前の、軒に下がった鳥籠の、中の小鳥は哀れな姿、哀れなれどもそれはつがいの比翼鳥、されどお糸はひきさかれ、破れし恋の痛手を胸に、泣いて嫁ぐか片羽鳥、切なる思い血を吐く叫び、声しのばせてこの思い、恋しき人に届けよと、文雄さん、文雄さーん、愛(いと)しき人の名を呼べば、答えるように誰やらが、歌って通るこのメロディ…」


 そして舞台の袖から楽師が悲しい音色でバイオリンを演奏し、女性歌手がか細いソプラノで歌うのです。
「あいたさみたさに こわさを忘れ 暗い夜道を ただひとり…」

 するとバリトンの男性歌手が、
「あいにきたのに なぜ出てあわぬ いつも呼ぶ声 忘れたか…」と、応じます。
これだけで客席のあちこちから、すすり泣きがおこりました。
                       〔以上「わが町人物誌」-山川吉太郎(三)〕 
                              





 三善氏も書いておられますが、この当時(大正期)、映画はサイレントで、音声を持たなかったから、小唄映画といってもスピーカー(サントラ)から小唄が流れてくるわけではない。映画のいい場面(小唄の場面)にスクリーン横に歌い手が現れて、これを歌った。

 大正13年(1924)8月封切りの、帝国キネマ(帝キネ)社長山川吉太郎が製作した無声映画「籠の鳥」は、映画史上に残る大ヒット作になります。その理由は、主役のヒロイン16歳の美少女沢蘭子の悲しげな表情と、主題歌にありました。
 …(略)…
 か細いすすり泣くようなソプラノと、哀愁に満ちたバリトンの男女二人の歌手の歌声は、受けに受けます。年配の読者なら誰もがご存知の6節からなるスローテンポの歌声にあわせて、客席の女性たちはハンケチで目頭を押さえました。


 館内に流行歌が流れるとワッとウケた。女性客などはウウウッと涙腺が緩んで嗚咽をもらす。それでもって上映館には客が殺到し、アッチの映画館でもコッチの小屋(劇場)でも押すな押すなの状態に!

 直営館の芦辺劇場も高千代座も連日大入り満員、入りきれぬ客が劇場の回りを四重、五重と行列を作り、何時間も待ち続ける大騒ぎとなります。
 大阪市内は「籠の鳥」のメロディであふれ、大阪を小馬鹿にしていた東京の興行主たちも、争ってフィルムを入手しようと袖の下まで使うありさま、宝塚音楽学校の生徒だった無名の蘭子は超アイドルとなり、どこへ行っても「お糸さあん(役の名)」と黄色い声がかかります。特別功労金として千円と着物に帯を買ってもらった蘭子は、「このお金で甘いもの食べたい」と答えています。
                         〔以上「わが町人物誌」-山川吉太郎(四)〕 


 かかった製作費は3千円、撮影はたったの6日間(三善氏は「山川吉太郎(三)」の中で「7日間」と書いていますが、撮影を担当した 大森勝 キャメラマンが6日と語っている)。
 大した金もかけず、近場にロケして手早く作って公開した、大阪(唯一)のマイナー映画会社・帝国キネマ(社長の山川吉太郎はもと天活映画の大阪支店長)は、コレ1本で一気に面目を新たにし、ジャンジャン儲けたのでありました。      〔続く〕

※1 「みなとQ」内の「わが町人物誌」 http://minato-q.jp/yomuyomu/jinbutsu/top.html


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