名作・迷作探訪 〔邦画篇〕  メガヒット映画の功罪 <その5>

◆ 『籠の鳥』  稼いだ興収〝70〟億円!?

 『籠の鳥』の 続映7週間 というのが、どれほど記録破りの凄いことだったか--。

 ルポライターの 竹中労 が書いた、時代劇スター・嵐寛寿郎 に関するユニークな〝自叙伝〟 『聞書アラカン一代 鞍馬天狗のおじさんは』(白川書院) は無類に楽しく、映画史的にも興味深い一冊だが、この中で、関東大震災から大正末期の京都の映画状況について竹中はこう書いている。

-- そこへ関東大震災、映画人はこぞって廃墟の東京から京都へ、その新風をいち早く吸収して、〝時代劇〟にみちびき入れたのはマキノ省三であった。…(略)…。
 映画革新の火の手はかくて王城の地に燃え上る、大正十三年八月、東亜キネマと合併したマキノは、呂九平・阪妻の黄金コンビを軸にして、監督に子飼いの沼田松録…(略)…錚々たる才能を集めた。
 この間デビューしたスターは、鳥人・高木新平、門田東鬼蔵こと後年の月形竜之介、太田黒寅吉(団徳麿)、明石潮、現代劇では中根竜太郎、そして岡田時彦が在籍している。清純女優として一世を風靡した森静子、省三の娘マキノ輝子、生野初子、泉春子、環歌子などがいた。
 大正十四年一月十五日、マキノ省三は浅草根岸興行部(金龍館等を経営)・根岸寛一のあっせんで、新国劇の沢田正二郎主演による『国定忠治』を製作、一カ月のロングランという日本映画空前のヒットを飛ばした。
       

 歌舞伎から受け継いだ様式的な〝かったるい殺陣〟に対抗して、殺伐としたリアルなチャンバラを展開し、当時、大人気を博した沢田正二郎率いる新国劇の映画 『国定忠治』 は、『籠の鳥』の翌年の作品だが、その1ヶ月(4~5週)のロングランが〝日本映画空前のヒット〟だったというわけだから、『籠の鳥』の7週続映(約2ヵ月の上映)はその上をいく超メガヒット作であったことになる。
 しかもこの7週続映という上映期間は、60日以上上映したという説(そうなると8週以上の続映となるが)や、中には3ヵ月以上続映という記述もあるので、『籠の鳥』はもっと長きにわたって映画館にかけられていたようである。

 帝キネはこれで当時の金にして35万円 もの巨利を得た。
 当時の35万円はどれほどの金額であったか。

 一つの目安として、土地の路線価で比較してみよう。
 大正10年(1921)、銀座一等地の・1坪の値段は1000円だったといわれているが、『籠の鳥』が稼いだ35万円はその350倍の金額である。

 また地価で比べると、現在の銀座の一等地・1坪は約2000万円といわれ、大正10年時は上記の1000円。戦後に新円切換があったから、単純には比較できないけれど、そこを無理矢理〝単純に〟比較してみると、
2000万円は1000円の2万倍だから、これをまた〝単純〟に当てはめて35万円を2万倍すると70億円! 

 しかしこの70億円という価値は、現在の70億よりもっと凄い値であっただろう。大正時代の貨幣の最小単位は「円」ではなく、50銭硬貨や「一銭蒸気(渡し船)」があったように、その下の「銭」があったのだから。

 というわけで、大正13年時点の35万円は、今のもっと高額、ベラボーな額だった、ということになるわけです(*1)

 かかった製作費は先にも書いたように3千円で、上がった儲けが35万円ということは約 116倍! 
 ハリウッドの「ボックス・オフィス」の記事やリポートで、費やした製作費と興行収入を比較するのがあるが(1万ドル足らずで作られた低予算映画が、その100倍の100万ドルを超えました・・・なんてヤツ)、そんなランキングがこの当時あったら『籠の鳥』は文句なくベストワンであったろう。

 日本の映画作品で、興行収入のナンバーワンは、先日、引退を発表した 宮崎駿 監督の 『千と千尋の神隠し』 (平成13=2001年)の304億円で、その次が同監督の 『ハウルの動く城』 (平成16=2004年)だが、その『籠の鳥』出した35万円というのは、当時の感覚でいうとこれらに匹敵する〝驚異〟だったに違いない。     〔続く〕


*1 「当時の35万円」 経済オンチのジャズ野郎ゆえ、この大正13年の35万円=今の70億円、という算定をば真に受けないでいただきたい。大体、地価の一等地の値段で比べるというのが、おかしいといえばおかしい。何故なら、銀座一等地の値段などは一般人の生活レベルの金額ではないからです。
 銀座一等地=2000万円なんて金額は、人によっては10年分の生活費だった、また富裕な人にしてみれば1年間のマンション代にすぎなかったりするわけですから。
 だから、70億円という額はあくまでも「借り」の値であります。借りではありますが、この儲けでもって、帝キネでは各社のスターを大量に引き抜いてくる。それには相当な「契約金(見せ金)」や「支度金」というものがいるわけですから、引き抜いたスターの数が多かった、ということはそれに準備した金も莫大だった、というわけで、そういう面からすると今の価格に直して70億円というのは、そう悪くない数字ではある・・・のかもしれない。


< 『祇園の姉妹』や『浪華悲歌』で日本映画にリアリズムを打ち立て、
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