名作・迷作探訪 〔邦画篇〕  メガヒット映画の功罪 <その7>

◆ 『籠の鳥』  山本嘉次郎が先に作ってた?!

 山本嘉次郎は、『籠の鳥』ブームが巻き起こる前年、つまり大正12年(1923)、東京にあって関東大震災に遭い、都落ちして関西にいた(【Cofee Break 震災と映画作家-そのときわたしは <その1・その2>】4月2・3日付、参照)
 そして大阪の怪しげな映画製作プロダクション、 〝山川プロ〟 に参加した。

 大阪のある活動屋が、活動屋には珍しく、芸術映画を作ろうという念願を立てた。その動機は、震災で焼け出された東京の映画人が関西へ来てブラブラしている。これを使って一本映画を作ろうというのであった。
 橋渡しをする人があって、ボク、岡田時彦(当時はまだ高橋英一という本名を名乗っていた)それからその英パン(岡田時彦のアダナ)のそのころの細君であった夏目加代子、宇留木浩〔うるぎ・ひろし〕、宇留木の妹の細川ちか子、それから、後に大映の所長となった須田鐘太〔すだ・かねた〕なんかがこれに加わって、大阪の、とある町外れのシガナイ陋屋に、ヤマカワ・プロダクションという看板をかけた。
(山本嘉次郎著『カツドウヤ紳士録』、『伝記叢書301 カツドウヤ自他伝(伝記・山本嘉次郎)』〔大空社〕所収) ※〔〕内、ジャズ野郎註。


 山本監督はこの『カツドウヤ紳士録』の中でこのプロダクションを何度も〝ヤマカワ〟〝ヤマカワ〟と書いているのだが、どうもコレはハヤカワ=早川プロダクションというのが正しいようである。

 本家の『籠の鳥』を出した帝国キネマの社長が、大阪ミナミに楽天地という一大レジャー施設を築いた大興行師・ 山川吉太郎 という人であるから、そのヤマカワとハヤカワが一緒くたになったのかもしれない(以下、山本の著書からの引用文に出てくる〝ヤマカワ〟は、〝早川〟だと思ってお読み下さい)。






 この早川プロで、山本監督は自身の監督第1作となる 『十字火の熱球』 (大正13=1924年)を撮るもメジャーな会社には売れず、2作目に『籠の鳥』(同13年)を撮る。それは帝キネの『籠の鳥』が公開される 3ヵ月も前 であった。

 大分春めいて来たころ、北海道の未知の弁士から、ヤマカワに一通の手紙が来た。北海道では、いま「籠の鳥」という流行歌が大変流行っている。これをぜひ映画にしてもらいたい。金はすぐ送るからとあって、歌の文句が添えてあった。
…(略)…
 こうして「籠の鳥」を作ったものの、その後、北海道から何の便りもなかった。ヤマカワ・プロは、またもやポシャッてしまったのである。フィルムは質屋に持って行って、五十円貸してもらった。
 それから三カ月ほど経って、帝キネが沢蘭子主演で「籠の鳥」を作り、これが六十日間続映という、映画界はじまって以来、今でも破れない新記録を作った。
 ヤマカワにも「籠の鳥」があると知った業者は、ワンサワンサとつめかけた。
 …(略)…。
 ヤマカワは一躍成金になった。現金支出といえば、十七円くらいしか掛からなかったにちがいない。
 ボクと須田鐘太は、新調のセビロを作ってもらって、颯爽とヤマカワの家を巣立ちした。 (前掲書)


 山本監督は、須田鐘太(この人は後に大映に入って多摩川撮影所の所長などを歴任)と颯爽とハヤカワ・プロを巣立ちした、と書いているが、その前に、本家の『籠の鳥』を監督した 松本英一 に「人の作品の偽物を作って、公開するとは何事だ!」と著作権侵害で怒鳴り込まれている。この松本英一という監督は、

柴田 もとは新派の役者でした。伊村義雄という一座で作者として、連鎖劇などの監督に腕をふるい、新しく始めることになった帝キネの現代劇へ選ばれて入ってきたわけです。…(略)…。
            (柴田勝『聞き書き キネマの青春』岩本憲児/佐伯知紀、リブロポート)


 という人物で、役者上りだったから山本嘉次郎らに抗議する時の口舌もさぞかし威勢が良かったと思うのだが、山本監督が自作の『籠の鳥』の質札を松本に見せたところ、その期日は、松本自身の『籠の鳥』公開よりも前であった。そうなると自分が作った帝キネ作品の方が模倣作になると察知し、当初の勢いはどこへやら、しおしおと尻尾を巻いて帰っていった、という。

 山本嘉次郎は、早川プロを出た後、その頃、関西にあった キネマ旬報社(の支社事務所) に厄介になり、そこの責任者でキネマ旬報の創刊者同人の一人である 田中三郎 の紹介で、神戸に出来た 東亜キネマ 甲陽撮影所 に入るのだが・・・とその話はまたいずれ。     〔続く〕


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