名作・迷作探訪 〔邦画篇〕  メガヒット映画の功罪 <その10>

◆ 『籠の鳥』  映画界を引っかき回した立石駒吉 <後篇>

 立石は自身がスター引き抜き工作を主導していた同じ年(大正14=1925年)、日活の常務だった根岸耕一とともに松竹・城戸撮影所長の許を訪れて、アメリカで排日運動の報復として日本でもアメリカ映画の締め出しをやろう、と持ちかけた。この「アメリカ映画(米畫)排斥運動」とは、

 大正十四年の夏、日本映画界に一つの動きが起った。アメリカ映画ボイコット運動である。
 これは、アメリカのカリフォルニア州が制定した排日的な移民法への報復措置だとも言われた。このボイコット運動の主唱者は日活の橫田永之助で、日本円の国外流出防止を旗印にしていた。
                  (『マキノ雅広 映画渡世 天の巻』マキノ雅広、ちくま文庫)


 というもので、この時、ユナイテッド・アーチストからアメリカ映画を買いつけていたマキノ映画の総帥・ マキノ省三 はこの運動に反対した(マキノでは手持ちの配給網〔上映館〕で自社製作作品と西洋物を組んで上映していた)。すると、アメリカ映画排斥に反対したマキノもついでに排斥しちゃえ、とばかり、マキノ映画も追放の俎上にのせられるのであるが、つまりはコレがもともとの目的であったのだ。
 立石らが中心となって起こした〝アメリカ映画ボイコット運動〟というのはアメリカ映画とともに、目障りなマキノ映画も排斥しようとした陰謀--松竹・日活・帝キネ3社よってたかっての〝弱いモノ虐め〟--だったわけである。まったく、凄い時代である。

 立石・根岸の提案に乗って城戸も連名して「米畫排斥」の声明を出すのだが、これがなんとすぐ崩壊。
 何故かというと、いきなりアメリカ映画の上映を止めよう、と号令しても各映画会社には上映の番組予定というものがあって、アメリカ映画を上映しないとしてそのスケジュールを変えるにしても、その差し替え番組(上映作品)をすぐに用意できないわけである。

 松竹、帝キネ、日活は三社協定によって、マキノ映画と外国映画の排斥運動を強化したが、大正十五年三月には、東亜〔東亜シネマ〕とマキノが提携し、四社協定が成立した。マキノはプロダクション映画と外国映画をボイコットしようとした三社協定を打破したのである。
                              (前掲書)※〔〕内、ジャズ野郎註。

 
 そういうわけで立石駒吉はスターの大量引き抜きには成功したものの、アメリカ映画ボイコット運動は頓挫し、引き抜いたスター&スタッフと在来の従業員の待遇に格差を付けたことから帝国キネマを分裂に追いやり、自身は分裂した一派の 東邦映画 (東宝ではない)の親玉に収まる。こう見ていくと、まるでどこぞの政治家さんのような〝壊し屋〟みたいに思われるから、勢い--
〝もともと映画作品や映画界(興行界)を金のなる木としか考えていない男なんだろー〟
 などと憎まれ口を叩かれてしまいそうだが、以下のコメントを読むとそうでもなさそうである。

柴田  …(略)… 〔立石が松竹から引き抜いた〕正邦宏とか五月信子は立石駒吉派の東邦映画でいい映画を撮っています。とくに五月信子の『四谷怪談』(一九二五年、監督・山上紀夫)は良かったですね。これが東邦映画の最後の作品で、結局四カ月ほどで解散になり彼らは東京へ引きあげました。
-  柴田さんは、立石駒吉一派の映画は高級志向であったと書いておられますが……
柴田  帝キネの映画はもともとわかりやすい映画なのですが、高尚すぎて常設館では受けないのです。…(略)…。    (『聞書き キネマの青春』岩本憲児/佐伯知紀・編著、リブロポート)


 高尚すぎて映画館(こや)では受けない--立石のような〝こんな男〟がそんな映画を作っていたなんて・・・。城戸四郎の言う〝顔中髯を生やした刑事タイプのボス〟立石駒吉のことは、もうちょっと調べてみる必要がありそうである。           〔一応の完〕


■ 出典及び参考文献 ■
● 『聞書き キネマの青春』 岩本憲児/佐伯知紀・編著、リブロポート
● 『実録 日本映画の誕生』 平井輝章、フィルムアート社
● 『人物・日本映画史1』 岸松雄、ダヴィッド社
● 『人物・松竹映画史 蒲田の時代』 升本喜年、平凡社
● 『日本映画傳 映画製作者の記録』 城戸四郎、文藝春秋新社
● 『日本映画を創った男 城戸四郎伝』 小林久三、新人物往来社
● 『同時代ライブラリー 京の路地裏』 吉村公三郎、岩波文庫
● 『熱眼熱手の男 私説・映画監督伊藤大輔の青春』 磯田啓二、日本図書刊行会
● 『映画読本 伊藤大輔』 フィルムアート社
● 『時代劇映画の詩と真実』伊藤大輔著、加藤泰編、キネマ旬報社
● 『マキノ雅広 映画渡世 天の巻』マキノ雅広、ちくま文庫
● 『カツドウヤ水路』 山本嘉次郎、筑摩書房
● 『伝記叢書301 カツドウヤ自他伝(伝記・山本嘉次郎)』 山本嘉次郎、大空社
● 『森一生 映画旅』 森一生/山田宏一・山根貞男、ワイズ出版
● 『聞書アラカン一代 鞍馬天狗のおじさんは』 竹中労、白川書院
● 『日本映画発達史』 全5巻、 田中純一郎、中公文庫 
                       ***
○ウェブ:「みなとQ」内の「わが町人物誌」 http://minato-q.jp/yomuyomu/jinbutsu/top.html


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