巨匠のムチャブリ-黒澤明 『トラ・トラ・トラ!』事件の真相 その9

◆ 巨匠が爆発する!

 【夏服事件】【果たし状事件】での助監督殴打など、黒澤監督の“異常”を聞きつけたB班監督・ 佐藤純彌 が、北海道ロケを切り上げて東映京都撮影所に駆け付けたのが、1968年12月12日

 黒澤監督が助監督らを伴って深夜の東映京都撮影所に〝討ち入り〟した【ガラス割り事件】は、その5日後の12月17日に発生している。

 この5日間、佐藤監督やフォックス側の製作担当者エルモ・ウィリアムズらは、撮影が捗らない鬱憤を晴らすために痛飲し、一睡もしないで現場にやってきては無理難題を言い、怒鳴りちらしてスタッフを振り回す黒澤監督をなんとかなだめて、撮影を継続させていた。

 しかしスタッフの不満は頂点に達し、17日、ついに撮影をボイコットしてストライキに突入してしまう。

 そしてスト中のスタッフの一部から黒澤監督に謝罪を迫るような雲行きになってくる。
 スタッフが怒るのも無理はない。何故なら、撮影当初からスムーズに行った日というのがほとんどなく、前記した【夏服事件】のような監督自身が混乱してしでかす騒動が毎日起こり、しかも「アウト!」と言っては助監督らを次々クビにするという暴君ぶりを発揮していれば、誰だって付いていくのは嫌になる。

 気に入らない事があると、黒澤監督が“クビだ”という意味で「アウト!」と叫ぶのは東宝の現場でもそうだったとのことで、それは本当のクビ宣告ではなく、激怒のあまり口走る監督の口癖であった(黒澤監督がドジったスタッフを怒る時に放つ、“このデコ助!”というアレと同じである)。
 東宝の黒澤組助監督はそれを知っているから誰も現場を立ち去らず、最後まで黒澤監督に付き従う。監督はおそらく東映京都でもそれを期待したんだろうが、前にも書いたように付いている助監督やスタッフは正規の黒澤組ではない。チーフ助監督の 大澤豊 でもさえも外様であり、準備段階から黒澤邸に入り浸ってプロジェクトを勧めてきた大澤を黒澤は【果たし状事件】で出入り禁止(排除)にしているわけだから、監督旧知の助監督としては京都の撮影に途中参加した 松江陽一(東宝出身) しかいない。
 同じく黒澤が自ら招聘した 青柳哲郎 は、現場に疎いから、セット撮影の場にいて、黒澤監督の“呼吸(いき)”を心得、精神的にサポートし励ます人材がいないわけである。

 また『評伝 黒澤明』では触れていないが、佐藤監督が担当したB班監督は当初、堀川弘通氏にオファーされたそうで、ギャランティーで折り合いが付かず、最終的に佐藤純彌に落ち着いた(黒澤は、佐藤監督の監督第1作で強烈な軍隊批判映画『陸軍残酷物語』の演出手腕に感心して、佐藤を起用したという)。
 もしこのB班の監督が、監督として手腕も高く、なにより黒澤監督を一番知っている堀川氏になっていたら、黒澤監督は側面もしくは後方から存分に支援を受けられただろう。

 まさに、ドラマチック・アイロニーである--運命は常に悪い方へと転がっていく。






 セット撮影での不安や不満が日々蓄積して、ストレス過多となった黒澤明は、ついに爆発する。それは黒澤監督が後年、撮った『夢』 (平成2=1990年)の中の興ざめな挿話「赤富士」の爆発の比ではない。器物破損の犯罪行為である。

 スタッフのストで撮影が中止になったこの1968年12月17日、黒澤監督は夕刻に予定されていた精神科医の診断をドタキャンし、その日の深夜、東映京都撮影所に侵入してステージのガラスを割った のである。正確には、自分では割らず、同行した松江陽一に窓ガラスを割らせた(!)。
 これは、以前、自分がフォックスに配備を要請した(撮影所付きの)警備員が異変に気づいて実際に現場に急行するか、どうか、を試すために行った、という(!)。
 自分で事件を起こして警備員を呼ぶなど正気の沙汰とは思えない。

 だがこの時の監督がまだしも正気だったと思えるのは、このあと松江らと「私がステージの窓を割りました」と殊勝にも自ら京都太秦署に出頭している点である。
 だから黒澤監督は〝逮捕〟ではなく〝自首〟したわけだ。

 しかし警察沙汰となれば監督続行は、もはや不可能となるのが普通だが…。 〔続く〕


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