巨匠のムチャブリ-黒澤明 『トラ・トラ・トラ!』事件の真相 その10

◆ 東映京都撮影所侵入事件、真相の真相

 その日の深夜、撮影現場がフォックス側に要求した通り、きちんと警備されているかどうかを試すべく、黒澤と監督補佐の松江の両名はステージを見回る。ガードマンがいないと見てとった黒澤は、松江に撮影所の窓ガラスを割らせる。しかし何の反応もないことに腹を立てた二人は、太秦署に〝自首〟する。

  と『黒澤明VSハリウッド』では、太秦署に自首する、と書いてあるのだが、この場に監督と松江陽一の他にも斎藤孝雄(東宝出身の黒澤組キャメラマン)がいたようである。そしてこの窓ガラス破壊の直後、黒澤はどこかへ行ってしまって、一時、行方不明になっている。ちょっと重複になるが、堀川弘通の『評伝・黒澤明』【窓ガラス壊し事件】(東映京撮侵入事件、とした方が分かりいいが)の同じ箇所を抜き出してみよう。

 …クロさんはある夜、午前二時ごろであったが、起き出して来て、
「これから撮影所へ行く。控え室やセットに何か起きたら大変だ」と言う。
渡会たちは、ここでクロさんに反対しても止められそうにない、と判断して、クロさん、松江、渡会、斎藤の四人は徒歩で撮影所に向かった。途中、渡会、松江の二人は「全員行くことはない。宿舎に誰か残って連絡係になろう」と言うことになり、渡会が宿舎に戻った。クロさん以下三人は撮影所に到着した。クロさんは、
「控室のガラスを割る」という。
「何でそんなことをするんですか?」
「警備不安心。ガラスを割って守衛、警察に知らせて、注意を喚起しよう」と言う。そこで松江が、
「あなたがやって怪我でもしてはいけない。やるなら私がやりましょう」と一ヵ所の窓ガラスを割った。
「一つでは駄目だ。もう一ヵ所やれ」というので、松江はもう一ヵ所も割ったという。

 この騒ぎの最中、二人はクロさんを見失ってしまった。八方探したが、見つからないので明け方、松江と斎藤はしょんぼり戻って来た。
 渡会、松江、斎藤の三人は…(略)…警察に通報してマスコミに知られたのではまずい。そこで密かに三人で京都駅、空港などを探し回ったが、それらしい人物はいない。
                      (『評伝・黒澤明』堀川弘通、毎日新聞社)


 つまり、太秦署に自首したのは、黒澤ではなく、松江陽一と度会伸(か斎藤孝雄)の2人ではなかったか。どうも警察に出頭したのは松江と度会のようだ。何故なら、斎藤は黒澤が隠れているかも知れないある男の家を、この後、訪ねているからである。

 斎藤が「もしかしたら、星野さんのところではないか」という。
 星野とは「星野武雄」。元東宝映画のプロデューサーで、現在は古美術商で京都・先斗町のお茶屋の二階に居候している一風変わった男である。その人物がクロさんと妙に仲がいい。「そこかも知れぬ」と、斎藤が探ったら、クロさんはやっぱり星野のところに居た。
 星野は「クロさんは今、映画など撮れる状態ではない」と言う。  (前掲書)
 

 星野武雄は、マキノ正博監督が戦時中に当時の細君で女優の轟夕起子主演で撮った東宝映画『ハナ子さん』 (昭和18=1943)の企画者として名前が出ているが、あとどういう映画に関わっていたのはサダカでない。一風変わった男、という事だから、そこですっぱり映画とは手を切って、古美術の方へ行ってしまったのかも。確か、黒澤監督が、日本特有の美(美術品)に目覚め、絵画ばかりではなく、壺や茶道具などの陶磁器などを見て回って勉強し出したのがこの頃だと思うから、星野の古美術商入りが終戦の前後だと時期的にも合う。

 それはともかく、黒澤は星野武雄の家から出て、またぞろ撮影所に向かうのである。松江たちは、もうすぐ年末の撮影休みがあるからそこでひと息入れて、年が改まってから撮影遅れを巻き返えそうと考えていた。

 だが黒澤に残されていた『トラ・トラ・トラ!』製作の持ち時間は、東映京都撮影所に侵入した日の翌日12月18日から23日までの6日間だけであった。 〔続く〕


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