日本映画奇人伝 - 映画界の色事師 <その1-2>

◆ 希代のプレイボーイ 福田蘭童 <中篇>

 昭和6年(1931年)、五所平之助監督の『マダムと女房』の公開を機に、日本映画はそれまでのサイレントからトーキーへ本格的に移行していくのだけれども、映画が音を持ったことで、各シーンに音楽をつけなくてはならず、「音楽」の担当者が必要となって、蘭童のような手癖の悪い人物も撮影所に来るようになる。
 撮影所は、綺麗な女優さんばかりだ。スケコマシの虫が疼かないわけがない。
 事実、蘭童はハンサムだったし、その奏でる音色は甘美で芸者衆をトロケさせたほどだったというから、当然、スタジオでもモテる。モテるのをいいことに女漁りにも精を出す。
 やがて松竹の蒲田撮影所に音楽顧問として迎えられるが、そこで蘭童は川崎弘子と出会い、これが世間を騒がす「恋愛事件」に発展する。

 33年、彼はトーキーの編曲に新境地を開拓、松竹の音楽顧問として川崎主演の「忘られぬ花」の音楽を手がけたことから二人は急速に接近。同年10月の「嬉しい頃」に川崎が主演したころは人目もはばからぬ〝嬉しき仲〟となっていた。
 このころは花形女優を別名〝永遠の処女〟などと呼び、結婚はまさしくタブー。しかも川崎が松竹の看板女優だったからおだやかではない。とりわけ福田は松竹時代劇の名花とうたわれた飯塚敏子との仲も噂され、結婚詐欺の疑いで何回か警察の厄介にもなっているとあって、関係者は、いちようにこの恋を押さえようと躍起になった。
 だが、この恋は周囲の思惑とは裏腹に燃え上がり、彼女は持ち前のシンの強さで反対を押し切って初恋をつらぬき、35年11月5日、大森区の松浅本店で結婚披露宴をする。
                         (『日本映画俳優全集・女優編』キネマ旬報社)


 上記の文章を読むと、単なる〝人気女優の音楽家の許されぬ恋〟であり、同じ松竹の別の女優を巻き込んだ三角関係となり、これに〝結婚詐欺〟の疑いをかけられるが、結局は円満に結婚できた--というある種ロマンチックな印象すら持ってしまうだろうが、その実際はドロドロもいいところで、まさに蘭童は「悪の法則」としか思われない行動を取っていたようである。
 クセもの脚本家・小川正の記した『シネマの裏窓 ある活動屋の思い出ばなし』(恒文社)では、この同じ話がこんなふうに書かれている。

 福田蘭堂は戦争前、結婚詐欺の常習犯で捕まり、監獄にぶち込まれた。得意の尺八を吹き、金のありそうな女に近づいては、結婚するといって、金品をかすめ取っていたのだ。
 福田蘭堂の女房は、蒲田の女優川崎弘子だ。川崎弘子も欺された口だが、彼女は蘭堂が監獄から出て来るのを待っていた。


 この小川正の文章を信じるなら、川崎弘子は結婚する昭和10年(1935)11月5日までの間、松竹京都の飯塚敏子を欺してム所にぶち込まれた蘭童を(信じて)待っていたことになる。
 ところが、そもそも、この二人の恋愛は発端から〝犯罪〟めいていて、今、それが記されていた本が見つからないので、記憶で書くのだが、ロケに出た時、遊覧船かフェリーかに乗っての移動中、船内で蘭童は川崎弘子を口説いて無理矢理、事に及んだ。これが「レイプした」となって松竹上層部に知れ、激怒した城戸四郎所長は「川崎をキズモノにしやがって、一体、どうしてくれるんだ! 責任をとれ」と蘭童に迫り、ソレを受けて一緒になることにした、というのだ。
 しかも、この時の蘭童にはすでに妻がいた、というから驚く。つまり本妻、川崎弘子、飯塚敏子を〝股に掛けた〟四角関係を演じていたことになり、その上に結婚詐欺も働いていた、というから、そりゃあもう、忙しい(色悪な)ことこの上ない!

 結局、蘭童はその本妻と別れて川崎と一緒になるのだが、コレが本当なら(本当なんだけど)、それこそ彼はスタジオ出入り禁止の女の敵=超危険人物という事になる。

 だが、一緒になった川崎弘子は、別にそれが嫌ではなかったようで、〝周囲の思惑とは裏腹に燃え上がり、彼女は持ち前のシンの強さで反対を押し切って初恋をつらぬき……〟とあったように、蘭童とはゾッコン惚れて結婚したようであり、これをもって蘭童が映画界から干された、ということもなかったようである。     〔続く〕


< 『祇園の姉妹』や『浪華悲歌』で日本映画にリアリズムを打ち立て、
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