日本映画奇人伝 - 映画界の色事師 <その1-3>

◆ 希代のプレイボーイ 福田蘭童 <後篇>

 〝のれんに腕押し〟のように頼りなく、いつもおとなしく控えめで人の言う事を聞き、男の言うままに行動し、時には清水のようにチョッカイを出してくる監督には身を任せたりした川崎弘子ではあったが、彼女は常々、

「わたしは、一生を平凡に暮らしたい」     (『実録蒲田行進曲』結城一朗、KKベストブック)

という心づもりでいたらしく、蘭童と結婚後も映画に出た。
 もちろん、結婚した事で人気は下降したが、実のある仕事をし、戦後も映画に出続けた。
 この一見、〝のれんに腕押し〟ような弘子は、ある意味、蘭童同様、いやそれ以上のタマであったのかもしれない。
 というのは、実は彼女、蘭童と付き合う前にカレシがいた。それはあの小津安二郎監督の助監督であった。

 私〔小川正〕のすぐ下の弟に二郎というのがいた。私と同じく蒲田にいて、小津安二郎の助監督をしていた。この二郎が一時期、川崎弘子と同棲していた。彼女が福田蘭堂に欺される前だ。
 だが二郎は、私が京都にいるとき遊びにきて、高田稔の家で、突然、心臓発作を起こして死んでしまった。
     (『シネマの裏窓 ある活動屋の思い出ばなし』小川正、恒文社) ※〔〕内、ジャズ野郎註。


 弘子はこの時、松竹にいた脚本家・小川正の弟で、当時、小津組の助監督をしていた小川二郎と同棲していた、というのである。
 小川二郎は確かに、小津作品の『学生ロマンス 若き日』(昭和4=1929年)『朗らかに歩め』『落第はしたけれど』(以上、昭和5=1930年)などで助監督に就いていて、弘子が小川と付き合っていたとしたらこの時期(昭和4~5年)であろう。弘子が蘭童と出会ってラブラブになるのは昭和8年(1933)の『忘られぬ花』の時だから、ダブッてはいないわけだが、〝永遠の処女〟てのはウソもいいところだった。芯から清純派だったってわけじゃない。

 一方、夫の福田蘭童は、その川崎との恋愛事件&結婚詐欺で世間を騒がせたが、映画界での命脈は保たれた。戦後、蘭童がやった映画の仕事で有名なのは、あの 中村錦之助〔萬屋錦之介〕東千代之助 の人気を決定づけた〝東映娯楽番〟--新諸国物語シリーズの・・・

 やがて封切られた『笛吹童子』は押すな押すなの大入り満員。
 福田蘭堂の笛のメロディが、またよかった。
♪ヒャラーリ ヒャラリコ、ヒャレーロ ヒャラレーロ- その笛の音は、巷にあふれた。 (前掲書)


 ・・・『笛吹童子』(昭和29=1954年・東映、三部作)がそれである。これはもともとNHKの連続ラジオドラマだったが、それを映画にフィーチャーして大成功。そのラジオ番組の時から、蘭童の軽やかな〝ヒャラーリ ヒャラリーロ~♪〟の笛の音は人気を博し、この一連の錦之助映画も爆発的にヒット。蘭童の懐はさぞ温かくなったろう。






 と、ここまで福田蘭童のことを綴ってきたけれど、この蘭童、当時の映画人がこぞって話のタネにする名物男だったわりには、今はあまり知られても、語られてもいない。
 それは何故か、と自分なりに考えてみたが・・・それはどうも、この希代のプレイボーイが昭和40年代に一世を風靡したクレージーキャッツの一員、石橋エータローの父親だからではないか。

 明治の代表的洋画家・青木繁の忘れがたみである福田(本名・福田幸彦)は若くして尺八の名手とうたわれ、作曲家としてもすぐれた才能の持ち主であったが、反面、名にしおうプレイボーイとして悪評高き存在であった。現在ならば〝浮き名も男の勲章〟ですまされるだろうが、昭和一ケタのころはそうはいかない。すでに離婚歴があった。     ( 『日本映画俳優全集・女優編』(キネマ旬報社)

 再度、引用した蘭童のプロフィールの一番最後、〝すでに離婚歴があった〟--この離婚した前妻というのが石橋エータローの母なのである(石橋は川崎弘子の子ではない)。蘭童は離婚後、前妻や息子とは疎遠にしていたようだから、血の繋がりがあるだけで、父と子には絆はなかったようだが、それでもこのスケコマシが石橋の父親なのは間違いない。
 クレージーがグングン売れ出してくると、この男・蘭童が石橋の〝不肖の父〟ということが憚られてくる。石橋に傷がつくし、売れてるクレージーにも影が差す。
 それで、本来ならスキャンダルとしてさんざん叩かれるべき、一連の蘭童の行状--女優に手を付け、三角関係に発展し、結婚詐欺でム所にも入った--が不問に付され、蘭童についても触れるのが憚られる人物となっていったのではないか。
 いくつかの本には、福田蘭童はクレージーキャッツの石橋エータローの父である、とは書いてあるが、それ以上のことが書かれていないのは、そうした事情があったからではないか、と推測するのだが・・・。

 いずれにしても、福田蘭童〔明治38~昭和51年=1905-1976〕は、大変な男であった。
 でも、こういう男って今(の芸能界に)もいますよね、10年に一人は出てくる・・・〝誠意大将軍〟の羽賀研二とか押尾学とか。いや、今は女か。今年で言えば矢○真里あたりか。
 おそらく、彼ら彼女らにも、蘭童みたいに一目置かれるホンモノの才能〔本業〕があれば、雑誌やインターネットであれほどひどく中傷&攻撃されなかったのではないか? 
 やはり、芸は身を助く、ですかな。         〔完〕

※出典及び参考文献
● 『実録蒲田行進曲』 結城一朗、KKベストブック
● 『日本映画俳優全集・女優編』 (キネマ旬報社)
● 『シネマの裏窓 ある活動屋の思い出ばなし』 小川正、恒文社
● 『マキノ雅広自伝 映画渡世・天の巻』 マキノ雅広、ちくま文庫
● 『人物・松竹映画史 蒲田の時代』『松竹映画の栄光と崩壊 大船の時代』 升本喜年、平凡社


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