ブログ1周年記念エッセイ <フィルムに埋もれる> その4

◆ 膨れあがったフィルムに部屋を乗っ取られ・・・

 拡散したフィルムほど手に負えないものはない・・・少々回りくどいですが、バラけたフィルムがどんだけ厄介で、始末に負えない 〝モンスター〟 と化すかを記した文章があるので紹介しときましょう。コレは劇場公開用(35 ㎜)フィルムの話ですが、直木賞作家の 高橋治 は振り出しは映画人(松竹の監督)で、同氏が助監督として松竹の大船撮影所に入所した時、

 …(略)…編集室を案内してくれたのは中平さんだった。フィルムなどいじったこともない八人を連れ、編集室を案内してくれたあとで、中平さんは千フィートのフィルムの真中を抜くと、巻芯ごとポンと部屋に投げ出した。
 フィルムというものは、フィルム自体を廻転させながらほどけば真直にのびて来る。しかし、ただ端を引っぱるようなことをすれば、どうにもならないほどよじれてしまう。
 船出の時に投げるテープを想像してほしい。あれは真直になっていることは珍しく、大抵は長くよじれた筒型になるものだ。
 フィルムの場合は三十五ミリの幅があって、しかも中平さんはそれを内側から投げたのだから、部屋の中に大蛇がトグロを巻いたようなものが出来上がった。
                            (『人間ぱあてぃ』 高橋治、講談社文庫)


 といったように、コア(巻芯、フィルムを巻き付けるプラスチック製の芯)から抜けてほどけたフィルムというものは手の施しようもないほどに拡散し、膨張するわけです。
 しかも上記の〝中平〟がバラまいたのは35㎜フィルムだから、サイズはジャズ野郎が扱った16㎜の2倍以上(!)。だから〝大蛇がトグロを巻いた〟状態というのは、もう想像を絶する・・・わけです。
 これを敢えて喩えるなら、少々オーバーですが、 『 ゴジラ 』 (昭和29=1954年・東宝)を撮った 本多猪四郎 監督の作品にキノコのお化け(マタンゴ)が人間を襲う 『 マタンゴ 』 (昭和38=1963年・東宝)というのがあるけれど、この中でいっぱい現れたマタンゴに人間が襲われてもみくちゃになってる状態・・・ま、膨れあがったフィルムがキノコみたいに群れ群れになって犇めくってわけですが、あくまでも喩えです、オーバーめな。
 この場合、〝フィルム〟がマタンゴで、〝人間〟は高橋治ほかの助監督、もしくはジャズめである--〝だ、誰かァー、助けてくれぇーッ!〟。






 この〝中平〟は、むろん、日活で裕次郎映画最大の名作 『 狂った果実 』 (昭和31=1956年)を撮った 中平康 のことですが、中平監督はこのトグロを巻いたフィルムをいとも簡単に元通りにしてしまう。再び 『 人間ぱあてぃ 』 より--

「誰かこれを元通りにしろ」〔中平〕
 鬼軍曹さながらに、出来っこないことを命令する。
 私〔高橋治〕はムッとした顔で睨み返した。
「出来ないか、高橋」
「出来ません。やる気もありません」
 私はいい返した。すると中平さんはトグロを巻いたフィルムを踏みつけた。
「いいか、良く覚えておけ。これはポジというもので、踏もうとちぎろうとかまわん。
よしんばなくなったってもう一本ネガから焼けば良いんだ。
 しかし、ネガは違うぞ、導火線が燃えてる爆弾のように丁寧に扱え」
 説明しながら、中平さんは魔法でも使うように、ほどきようもないと思えたフィルムを元通りにしてしまった。                             (前掲書)※〔〕内、ジャズ野郎註。


 凄いですね、中平監督は。トグロを巻いた大蛇、膨れあがったマタンゴをスルスルと元に戻したってんですから。こういう話を聞いたり読んだりするとジャズ野郎は、やたらと感心し、感激してしまいます。
 それはそうと、ジャズめの方は中平監督のようにマタンゴを、いや、フィルムをただちに元通りすることができず、35 ㎜よりも扱いやすい16 ㎜の整理に散々手こずって、すべてのフィルムをコアに巻き付けて直す--ただそれだけやるのに半日から1日はかかりましたか。

 で、巻き直したフィルムをまた編集機にかけてシコシコ切ったり繋げたり。するとまたバラけて部屋中に拡散する。だからある程度、編集しては、部屋中に散らばったフィルムを巻き直し、また編集してはまた巻き直し・・・と年末年始の約10日間、ほとんどコレばっかし
 メシとトイレ、そして銭湯(洗濯)に行く以外はずっとコレばっか。
 日がな一日、編集ずくめで、クリスマスも正月もありゃしない・・・。〔続く〕


< 『祇園の姉妹』や『浪華悲歌』で日本映画にリアリズムを打ち立て、
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