Coffee Break - 排除される変革者、松竹を変えようとした人々 <その8>

◆「監督を辞める」と言った傷心の木下を思いとどまらせる

 しかし、とにかくまだ青二才だった木下監督を現場レベルで叱咤激励したのは、城戸四郎ではなく狩谷太郎であり、狩谷の木下への期待は城戸に負けず劣らずであった。

 この後、木下は監督第2作に『生きてゐる孫六』 (昭和18=1943年)を撮るが、評判は悪く、しかも興行も不振だった事から、木下は「監督を辞める」と言い出す。
 この『生きてゐる孫六』について、長部日出雄の『天才監督 木下惠介』(新潮社)には「客の入りは悪くはなかった」とあるのだが、『天才監督~』の同作品の説明にもあるが、内容というかストーリーが複雑で判りづらく、評価はマチマチであった。

 木下監督の二作目は『生きてゐる孫六』
 この作品は賛否両論だったようで、傷つかれた木下監督が、所長室で所長に、
「僕は監督をやめますッ」
 と、真剣にいわれ、所長もまた真剣に即座に、
「君が監督をやめるなら、僕は所長をやめるッ」
 と、木下さんを励まされたそうです。
  (『松竹大船撮影所前松尾食堂』山本若菜、中央公論社) ※〔〕内、ジャズ野郎註


 狩谷太郎は、『生きてゐる孫六』の成績に気落ちして「監督を辞める」と言った木下監督に「自分も所長を辞める」と言い返して励ました、という。
 木下は行く末が有望とはいえ新人の一監督である。それを翻意させるために自分も辞めると、共腹を切るような事を言うとは・・・狩谷太郎はなかなかの人である。

 しかし--このエピソードを知ると、ハタと思い当たるところがある。

 これは、3月5日付の【 清水宏 恐るべき子供〝天使と悪魔〟 <その46> 】の最後でも触れたが、映画『はじまりのみち』の事である。






 『はじまりのみち』の中で、木下監督は戦争を批判した 『陸軍』 (昭和19=1944年)を発表し、その反戦の意図を軍部に悟られて糾弾され、監督を辞めるとして大船撮影所を辞する。その後、木下は脳溢血で寝たきりになった母を遠い山向こうの疎開先までリアカーに乗せて運ぶ、という彼らしい清らかな親孝行ぶりを見せるのだが、その発端の「監督廃業」宣言は、もしかすると『陸軍』ではなく『生きてゐる孫六』の時のことではないのか。

 ま、『生きてゐる孫六』の時にも辞めると言って、『陸軍』の時にも言った、としてもおかしくはない。木下惠介は映画一途の純情(万年)青年だし、かつて助監督時代にはすぐ手を挙げる 島津保次郎監督 に付いていてブン殴られた時には頭に来て、すぐ撮影現場から立ち去って帰ってしまった、ナイーブな直情型だから、なにか失態やトラブルがあったりすれば、自責の念に駆られて感情的に「辞める!」と言ってしまうこともあるだろう。

 そこが木下惠介のいいところでもあり、また損なところでもあるのだけれど(ずっと後、昭和40年に大作『香華』を撮った前後に城戸と対立して、木下は松竹を退社)・・・。

 そして、木下の「監督廃業」宣言が『生きてゐる孫六』か『陸軍』か、も大事だが、もっと疑問(問題)なのは、木下監督(加瀬亮)が辞去を告げに行った撮影所で相対した人物(どう考えてもそれは撮影所長のハズだが)は、城戸四郎(大杉漣)その人であった、という部分である。
 この人物が撮影所長であるならば、当然、狩谷太郎でなければならないハズだが、映画では城戸が木下から辞表を受け取り、しかし「受理しないよ」と言って、頭を冷やすように諭していた。

 これは本当(事実)か・・・?

 事実ならいいが、もしそうじゃなかったら、何らかの脚色なのでしょうね。
 この撮影所長を狩谷太郎でなく城戸四郎にしたのは、狩谷では知名度が低くて役不足だという事かも知れないし、事実、木下監督の相談を受けたのは城戸であったのかもしれない。
 城戸が大日本映画協会に行くのは、(城戸の本によると)昭和18年の11月で、『陸軍』の公開は翌19年の12月7日。木下が『陸軍』完成後に「監督を辞める」と決意したとして、大船撮影所を訪ねたとしたら、その時、城戸はもう大船どころか松竹にもいない、という事になる。いくら、松竹大船の功労者でも、本社の松竹を辞めていたのならば、撮影所の、しかも撮影所長の席には居れないハズではないか・・・。

 だからジャズ野郎としては、この時の、「監督を辞める」と息巻いた木下惠介を宥めた人物は、狩谷太郎のように思うんですが。

 因みに・・・映画『はじまりのみち』のどっこにも、狩谷太郎は出て来ない。 〔続く〕


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