Coffee Break - 排除される変革者、松竹を変えようとした人々 <その10>

◆ 短命に終わった狩谷体制・・・その終焉 <中篇>

-  狩谷所長時代は長かったんですか。
西河  所長も駄目でした。続かなかった。インテリで、まともといいますか、ちょっと弱い人でした。紳士でしたけど、撮影所のような泥水の多いところでは、ちょっと務まらないタイプの人ですね。
      (【蕩尽の映画、蕩尽の人生  西河克巳インタビュー】 聞き手・山根貞男、
       『ユリイカ 3月臨時増刊 総特集 監督 川島雄三 』〔1989年3月、青土社〕所収)
                                ※〔〕内、ジャズ野郎註


 西河監督の言う〝撮影所のような泥水の多いところでは、ちょっと務まらないタイプの人〟という狩谷太郎の人間性について、狩谷と長く交際した 山本若菜 もそれを裏書きするような話を紹介している。

 狩谷次長に初めてお目に掛かってから一週間ほどたったある日、狩谷さんはお一人で昼食にいらっしゃいました。
   …(略)…
それからは、昼も夜も、「松尾」で召し上るようになりました。     
  …(略)…
 そのつど勘定を自前でお払いになるので、
「あの、今までは、所長さんの分は、あの……全部、会社の方へ伝票を廻しておりましたから、これからは会社の方へ……」
 と、まごつく私に、
「それはいけない、これからも、私が一緒の時はすべて、僕自身のつけにして下さい」
 と、きっぱりおっしゃいました。
   …(略)…
 この理想主義(?)が、戦後の荒波を乗り切れず、ましてや映画界-。彼の命取りになったのではあるまいかと、今、私は考えています。

 その頃 川口松太郎先生は、小島政二郎先生に、こう話されたそうです。


 「大阪の白井松次郎の睾丸を握っていて、財産が何もないなんて、狩谷太郎はよっぽど馬鹿だ」

 清濁合わせ呑む度量、それも濁を好む体質でなければ、当時の松竹の機構の中で、いじめぬかれたのも当然だったと思います。        (『松竹大船撮影所前松尾食堂』山本若菜、中央公論社)

 映画は夢を売る商売だから理想主義も大いに結構だが、撮影所長ともなればその理想は理想として頭に入れながら、会社(松竹上層部)と現場(撮影所)との間を巧妙かつ狡猾に、打算的に、そして泥縄式に取り持って連繋させてゆかなくてはいけない。 〝清濁合わせ呑む度量〟 とはそういう事だろうし、こうした 〝しがらみだらけのドブ掃除〟 をやってのけるには、狩谷太郎は立派すぎた、紳士すぎた。

 食事代のツケを、慣例に倣って「所長室の経費」に廻そう(必要経費で落とせるように)とした「松尾食堂」の山本若菜に、「自分のツケにしろ」と言いはなった狩谷は、いわゆる真面目な、真っ当な常識人であったが、それではカツドウヤの世界は乗り切れない。それを見破った山本若菜も凄い女性である。






< 以後、書き記すことはみな、山本若菜が自ら記した『松竹大船撮影所前松尾食堂』の中で語られていることだから、ココに書いてもよいと思うが、いわゆる山本さんのプライベートな話なので、一応、このようにお断りを入れておきます。・・・ >

 大船に赴任した狩谷が初めて「松尾」を訪れた時(昭和17年の年末)、その店の娘・山本若菜は佐々木(康)組の助監督・ 萩原徳三 と恋愛関係にあった。恋愛関係と言っても、肉体関係のないプラトニックなものだったらしいが(と、山本若菜は書いている)、狩谷と出会って彼と長い間、不義の関係を続けていたようである。戦後、若菜は一時、店(実家)を飛び出し狩谷の許に走って同棲を続け、その狩谷に説得されて実家に戻ってきた、と同書にある(若菜が実家「松尾」に戻ってからも、狩谷との関係は続いた)。
 一方、狩谷は松竹大船を辞めた後、映像制作のプロダクションに入ってPR映画を製作していたようで、昭和33年(1958)頃、吉村組のヘッド助監督・森園忠(*1)に仕事を依頼する件が、やはり『松竹大船~』に書かれている。

 狩谷太郎は、城戸と同じ東大出ながら関西人らしい合理主義でもって、大船撮影所を変革し、新たな体制の中から魅力的な松竹映画を生み出そうとした。
 だが結果的には、その合理性が徒となって松竹を退社することになった。     〔続く〕

*1「森園忠」  元々は大映の助監督で、松竹を退社した 五所平之助 が大映で1本撮り、再び松竹で映画を撮る時に大船撮影所に連れてきて、そのまま大船所属になる。
 戦後、レッドパージで松竹を追われ、教育映画やドキュメンタリー畑で活躍。「松尾食堂」山本家の若菜の妹で4女の檀(まゆみ)と結婚。因みに松尾食堂は、撮影所の人間が入り浸った店だから、山本家の5人娘-若菜、さくら、葵、檀、篝〔かがり〕-は映画人かその関係の者と結ばれている。さくらは木下監督の弟で映画音楽家の 木下忠司 (後、離婚)、葵は檀の夫・森園忠が紹介した劇団「民芸」の経理の人間、篝は大船の監督・田中康義。そして若菜は狩谷太郎、という具合。


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