新作プレビュー  『 プリズナーズ 』  <後編>

◆ 誘拐事件の負の連鎖を巧妙に描いた秀作サスペンス

 (この映画に限らずですが)ストーリーを何も知らずに観るのが一番ショッキングでよろしい--だからこの映画を虚心で味わいたい人は、 【『プリズナーズ』 <前編> 】 だけを読んで、この<後編>はお読みにならない方がいい ( 劇場で映画を観てから、読んで下さい )。

 でも、<前編>の冒頭で、被害者の ヒュー・ジャックマン のオヤジが・・・と書いちゃったので、それについてちょっと述べなくてはいけない。というのも、ストーリー上の新しさ(新趣向)がそこにあるからで、そこに触れなきゃお話にならないわけです(もちろん、真犯人とか後半以降の展開とか、ネタバレに繋がるコトは書きませんが)。


サブ3
▲ ケラーはアレックス(ポール・ダノ、下)をつけ回した揚げ句に・・・
(C)2014 Alcon Entertainment, LLC. All rights reserved.


 つまり--ジャックマン扮する少女アナの父・ケラーは、一旦、警察が容疑者として逮捕し、その後、釈放した青年アレックスを誘拐犯だと決めつけて、ある場所に監禁し、「娘の居場所を吐け!」と脅迫に及ぶのです、それも目をおおうような暴力を使って・・・。

 娘を誘拐された肉親の辛い気持ちは良く判る。ケラーの妻は半狂乱になり、家庭生活はボロボロ。しかもそれはいつまで続くのか解らぬ、〝生き地獄〟
 それを終結させるには、娘を奪回することしかない--だから責任感の強いケラーは猪突猛進する。娘を愛する、いいパパであればあるほど、その反動でアレックスに対する所業は残酷となり、
「お前が犯人だろ! 居場所を吐け!」
と詰め寄る表情はサイコ・キラーのよう。

 このサスペンス、被害者が加害者になり、誘拐犯以上に猛烈にサディスティックな罪人(悪魔)に変貌していく、という点がミソなんです。誘拐というのは、こんな感じに被害者やその関係者を悲しませ、その揚げ句に狂わせてしまう、というのをまざまざと見せつけるわけで、コレはなかなか今日的なテーマです。
 こんな世の中だから、一歩間違えれば誰でもこうなる、とも言えましょう。

 それはそうと、こういう役--娘を愛しているとはいえ、犯人ではないかもしれない人間を袋だたきにする--をヒュー・ジャックマンがよく演じた、よく受けたなぁ、と思いました。『レ・ミゼラブル』なんかで彼が築いてきた、スター・イメージ(好印象)が吹っ飛ぶような、ネガティブ(悪感情を持たれる)な役ですからネ。


サブ5
▲ フツウの今どき刑事のロキ(J・ギレンホール)も時には激昂する
 (C)2014 Alcon Entertainment, LLC. All rights reserved.


 このジャックマンの父親も人間臭いんだけど、同じように人間臭いのは ジェイク・ギレンホール 扮する刑事のロキで、このデカがまぁ、そこそこ一生懸命やるってタイプのフツウの男。
 ロキが所属する地方署の中年署長は、捜査の進め方やマスコミ対策がいい加減。そんな大ボケ署長にロキ刑事は毒づいたりするんだが、彼も結構、行き違いやミスで捜査のポイントを見過ごす。あと一歩踏みこんで調べれば、重大な証拠を発見できて「一件落着!」となるところを、「ダリィ~なァ~」って感じでパトロールしてるから、決定的な瞬間をまんまと見逃す。

 この辺りがリアルでよろしい。

 テレビの刑事物やアメリカのポリス・アクションに出てくるような、飯も食わずに犯人を追っかけて、勘をはたらかせてヒントを摑み、たちまち事件を解決に導く、てな 出来スギの熱血デカさん ではないところが良いですね。普通はこんなもんでしょう。
 「どうせ〝他人の不幸〟だ、解決したって一文にもならねぇ」とそこまでシラケきってはいないけど、とにかくギレンホールのフツウの刑事像は(ちょっと焦れったいけれど)〝共感〟できやした。

 劇中、尾行するギレンホールの刑事をジャックマンの親父が叱り飛ばすシーンに、冷たい氷雨が降っている。氷雨も降るし、雪も降る。ペンシルヴェニアの田舎町はどうも寒々しい風情で、そうした季節感も謎めいた誘拐事件を索漠と盛り上げている。

   ■ 5月3日より東京・有楽町丸の内ピカデリー、
                 札幌シネマフロンティアほかにて全国ロードショー
                            ポニーキャニオン&松竹共同配給  ■



< 『祇園の姉妹』や『浪華悲歌』で日本映画にリアリズムを打ち立て、
  『西鶴一代女』『雨月物語』などの名作を放った溝口健二の人生を、
  伊藤大輔・小津安二郎・黒澤明などのライバル監督&スタッフとの
  確執とともに描いた、
        『 ラストシーンの余韻 』 〔電子書籍版〕、
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映画ライター・高村英次、初の書き下ろし長編 『 ラストシーンの余韻 酒乱と失態、女難と頑迷、監督・溝口健二の狂おしき人生 』

高村英次

Author:高村英次
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