新作プレビュー  『 アメリカン ・ スナイパー 』  < その 3 >

◆ 黒澤明と早坂文雄、そしてイーストウッドを結ぶ 『 狙撃兵 』

狙撃兵
▲ 子供時代、父から仕込まれた狩猟の勘。クリス(B・クーパー)はその勘のお
  かげで類い希な射撃の腕を得たのだが ・・・。
(C)2014 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC


 戦場での1対1のガンファイト、つまり 米軍狙撃兵 VS イスラム過激派の狙撃手 、という対決(の設定)っていうのは確かにあるんだけど、例えば ジュード・ロウ 主演の 『スターリングラード』 < 2001、ジャン=ジャック・アノー監督 > みたいな、手に汗握るソレではなかった。戦場での一騎打ち、男と男の正々堂々の果たし合い、虚々実々の腹の探り合いみたいな作品は、遠くは旧ソ映画の 『狙撃兵』 <1932> とか 『眼下の敵』 < 1957、ディック・パウエル監督 > などいくつもあるけれど、要するに第二次世界大戦(を題材にした作品)ならばそれもあり得た。
 しかしベトナム戦争以後は、戦争をネタにして男同士の勇気ある決闘みたいなものは描けなくなってきた。「戦場というのはそんなキレイ事ではない」ってことが(当然のことだけど)一般(観客)にも浸透してきて、戦争を描く場合、戦意昂揚を慎むべし、要するに大量殺人、人殺しを勧善懲悪的な胸躍るドラマとしては見せない、描かないって事が定式(常識)--という雰囲気になってきた。

 だから、何かのプレスにあった〝アメスパ〟の内容を読んで、「イマドキ(1対1の決闘をするってわけ)・・・?」とジャズ野郎は思ったわけですが、さすがにイーストウッド監督。描いたのは、そんなエンターテイメントな、マッチョな決闘シーンなんかじゃなかったネ。


         もっと現実的で直裁、かつ深遠なるもの、でした。


 その〝深遠なるもの〟は、劇場のスクリーンで確認していただくとして、先に挙げた旧ソ映画の『狙撃兵』について、ちょっと・・・。

 コレは、1932年(昭和7)の旧ソ連映画、監督はセミョン・ティモシェンコ。ティモシェンコはモンタージュ理論に関する本も出してる人だからインテリさんで、表現も高踏的なんだろうけど・・・実をいうとジャズ野郎はこの映画を見てません。
 見てないくせに、なんで書いてるかっていうと、この『狙撃兵』は 黒澤明監督 と黒澤作品の音楽を担当した 早坂文雄 が固い協力関係を築いた、その機縁になった作品だというのをある本を読んで知ってたから。

 その本、『黒澤明と早坂文雄 風のように侍は』(西村雄一郎、筑摩書房)の中で、この『狙撃兵』は、黒澤監督が
「これまで見た映画で、最も音楽が効果を上げていたのは『狙撃兵』だった」
と激賞したとされ、こう書かれています。


 黒澤と〔早坂〕の間で話題になったのは、塹壕における殺しのシーンである。映画公開の数年前に輸入されたシャンソン「サ・セ・パリ」が、ここで印象的に使われていたのだ。
            …(略)…
「西部戦線で、ロシア軍とドイツ軍が対峙してるんだ。
 ドイツ軍に凄い腕の狙撃兵がいてね。
 それがどこから射ってくるかわからないんだよ。
 ある日、ロシア軍が望遠鏡で偵察してた時、塹壕か人形をソッと出してみるんだ。
 そしたらその人形がバァーンと射たれる。
 それを望遠鏡で見ると-こっちの塹壕とむこうの塹壕の間に一頭の馬が死んでいる。
 その馬のおなかから、煙が出てたんだ。
 つまり、死んだ馬を、いつの間にかつくりものの馬に変えて、
 そのなかに狙撃兵が隠れていたんだね。
 で、ある雨の日に、ロシア軍の狙撃兵が這いながら、
 その狙撃兵を殺しに行くんだ。
 鉄かぶとに水滴が流れててね、ジーッと待ってて、馬の死骸から出てきたところを刺し殺す。
 その時、むこうの塹壕から、レコードの「サ・セ・パリ」が流れてくるんだ。それがすごい効果がある
 んだよ」                       ※〔〕内、ジャズ野郎註
                                        


 というコレは黒澤監督が著者の西村雄一郎さんに話した、『狙撃兵』の解説ですが、なんか映画好きが夢中になって気に入ったシーンについて喋ってる、って感じがしてイイですよネ。
 〝むこうの塹壕から、レコードの「サ・セ・パリ」が流れてくるんだ。それがすごい効果があるんだよ〟と語っているのは、この映画の製作された時機がトーキーになったばかりの頃で、まだ映画の中で音や音響、音楽を、効果的に、映画的にどう使ったらいいのかを模索していた時だったので、ジリジリした駈け引きの末に相手を刺し殺した瞬間、塹壕からシャンソン 「サ・セ・パリ」 (*1) が流れてきたってのが、衝撃的だったんでしょう。
 このシーンの音楽の効果について、黒澤と早坂は意見が一致して、その後、昭和30年(1955)に早坂が亡くなるまで厚い友情で結ばれる。

 ま、コレは〝アメスパ〟には関係のない話ですが ・・・。

 だから『アメリカン・スナイパー』を見ながら、イーストウッドがこの古い旧ソ映画を見ていて、作品のどこかに〝引用〟したりしてるのかな、なんて思ってましたが ・・・ さて、どうでしょう。劇場のスクリーンで、その痕跡を探してみて下さい。                         〔続く〕

  軍用機
  ▲ 戦地イラクに送りこまれる軍用機の中で、クリスは何を想う・・・。
  (C)2014 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT
   INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

          『 アメリカン・スナイパー 』 公式HP : www.americansniper.jp

■ 2月21日より東京・TOHOシネマズ日本橋、丸の内ピカデリー、
   札幌シネマフロンティア、ユナイテッドシネマ札幌、ディノスシネマズ札幌劇場
           ほかにて全国ロードショー      配給:ワーナー・ブラザース映画 ■


*1 シャンソン「サ・セ・パリ」  『狙撃兵』の音楽の使い方に感心した黒澤明は、後にコレを自作に引用。再び『黒澤明と早坂文雄』より

 また「サ・セ・パリ」は、『野良犬』のなかに、ピストル屋の女(千石規子)を村上刑事(三船敏郎)が捕まえる時に、そこの喫茶店で鳴っている「サ・セ・パリ」が高鳴るというシーンがあった。

 というわけで『野良犬』< 昭和24=1949年 >の中で使ってる。黒澤明の映画表現の源は、すべて自分が見たり聴いたり読んだりした記憶。それを忘れずに、作品にブッ込むところが世界のクロサワの〝芸〟ですな。


< 『祇園の姉妹』や『浪華悲歌』で日本映画にリアリズムを打ち立て、
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  伊藤大輔・小津安二郎・黒澤明などのライバル監督&スタッフとの
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