“ミスティ”が光輝く夜--Preview『世界にひとつのプレイブック』

 当ブログでは、黄金時代の日本映画に関するディープな話題ばかりでなく、新作映画の情報も随時、放り込みます。その第1弾は最近お気に入りのこの作品から……。

                         *******

 世の中、健康な人々ばかりじゃない、心(精神)を病んでそれを引きずって生きてる人もいっぱいいる。躁鬱病のパットもその一人。彼は時々、感情が抑えきれなくなると大声を上げたり、暴れ出して手が付けられなくなり、それが“暴力を振う”として警官に厳重注意されたりもする。パットは一見普通だが、その焦点のあってない目、延々と早口でまくし立てる喋り方、痩せるためと称してスウェットスーツ替わりにゴム袋を被ってランニングする姿などは、傍目から見るとやはりアブナイ人である。
 一方、パットに「私と付き合って」とつきまとうティファニーも、夫を事故で亡くし、一時はSEX中毒みたいになった女性で、スタイル良しのグラマーちゃんだが、どこか怖い。
 そんなアブナイ“自分”を引きずる二人が、二人を見守る家族達の腫れ物に触るような視線やある種の偏見を乗り越えて、めでたくラブ・ハッピーな関係になるまでの物語。とはいえ、クセのあるデヴィッド・O・ラッセル監督だけに、例によってひと筋縄にはいかない。だからなのかもしれないが、パットとティファニーの将来に一条の光が射すかのようなエンディングがやけにまぶしくて、心が和む……。

 終盤、二人が夜の舗道を往くシーンで、エロール・ガーナーの「ミスティ」がなにげに流れる。「ミスティ」といえば、クリント・イーストウッドの(劇場)初監督作『恐怖のメロディ』(1971年・アメリカ、原題は“Play Misty for Me” )で主人公のDJにストーカー女が「私のためにかけて」とねだる曲として有名で、それゆえにこの“酔っぱらいのバラード”然とした哀調漂うジャズ・ピアノの名曲にはおぞましきイメージがついてしまった。その我が愛する「ミスティ」がここではセンチメントでメロウな情感を湛えた、曲本来のイメージで使われている事が嬉しい。
 “Misty”は元々「モヤのかかった」とか、「モヤに煙った」という意味だが、曲名の「ミスティ」は、夢見心地の気分、といった意味らしい。
 これはガーナーのアルバム『ミスティ/エロール・ガーナー』(*1)のライナーノーツ(吉村浩二)に書かれているのだが、ここには後にこの曲に付けられた歌詞の一節が紹介されている。

“あなたが私のそばにくるだけで、私の心の中に、ヴァイオリンの響きが鳴りわたる。ハローというあなたの声が、音楽になり、私は夢見心地になってしまう”
 そして-
“私を、リードして行ってほしい。それが、私の心からの願い。この心細い気持ちをわかってほしい。私はあなたについて行く”

 映画の作り手が「ミスティ」を、そのメロウな曲調のみならず、この詞の意をパットとティファニーに当てはめようとして使ったとしたら、それは隠れたクリーンヒットだ。アブナイ二人の心境と行く末をこれほどピタリと表現したものはない。

 「ミスティ」は心がフィットしたパットとティファニーを祝福するかのように鳴り響いていた。それは二人の間にわだかまっていた、心のモヤがまさに晴れた瞬間だった。     
                                     〔2月22日ロードショウ/配給:ギャガ〕

*1 『ミスティ/エロール・ガーナー〔Eroll Garner Plays Misty〕』はマーキュリー・ミュージックエンタテインメント発売、ポリグラム販売のCD。上記の歌詞はこのCDで吉村浩二さんが書かれた解説(ライナーノーツ)の中から引用させていただきました。              

< 『祇園の姉妹』や『浪華悲歌』で日本映画にリアリズムを打ち立て、
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