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新作プレビュー 『妻への家路』<1>

新作プレビュー
04 /14 2015

◆ お久しぶりのコン・リー、入魂の演技

妻への旅路 ポスター 150
(C)2014, Le Vision Pictures Co.,Ltd. All Rights Reserved

 お久しぶり、 っていうのは私がこの人の映画を最近観てなかっただけのことで、この間も堅実にお仕事してたんだろうけど、プロフィールを見たら5年前の 『シャンハイ』 (2010)に出てる。この映画観てるけど「出てたかなぁ」ってほどの希薄な印象でありまして、やはり コン・リー といえば 『紅いコーリャン』 (1987)あたりから続く チャン・イーモウ 監督とのコラボ作、当時(90年代)話題になった〝アジアン・ニューウェイヴ〟の諸作が有名で、評価も高い(因みにチャン監督は中国映画界の第五世代)。

 そのチャン監督とリーさんは、一時、不倫関係にあって、それでチャン監督は前妻と別れることになったのだけれど、結局、二人は一緒にならず。コン・リーはシンガポールの実業家と結婚(中国国籍からシンガポール国籍になったことで、中国ファンから〝中国を捨てた〟などと批判された)したが、その後、離婚。
 一方、チャン監督は再婚した妻との間に子供を3人もうけており、さらに隠し子が複数あって計7人の子供がいることが当局にバレ、それが「一人っ子政策」に違反するとかで罰せられ、17億とも26億ともいわれる莫大な罰金を支払うことに(実際の罰金は1億3千万円だったようだが)・・・などといったネガティヴイなデータは、配給元のプレスには書いてないけれど、今回の作品の場合、むしろ載っけといた方がいいんじゃないですかね。

 実人生における二人の〝愛と事件〟を頭に入れて観た方が、より感慨が増しますから。

 ともかく--そんな〝花も嵐も踏み越えた〟二人が、今ここで再度タッグを組んで見せてくれるのは、なんと涙涙の夫婦愛の物語だッつうから、なんとも皮肉! 
 でも中味は良いです。
 「アン・リー監督が絶賛した」 とか 「スピルバーグ監督が観て1時間も泣いていた」 っていうのも、分からないではないが、この作品は甘くない、甘い涙は一滴も流れない
 最近の中国映画事情はよく知らんけど、こういう作品が出て来るってのはちょっと驚きでしたね。「エッ、こんな題材、厳しい統制下にある一党支配の中国で作っていいの?」って観ながら思いましたもの。

 描いてる時代背景が現代(の中国)じゃなく、文化大革命前後だからオーケーなのかな、などと思いましたが、胸にジーンときました。

 国家政策(権力)に圧殺される、一組の夫婦の愛と絆を厳しいタッチで描いてる。

マリアのお雪 250
▲ 『マリアのお雪』(1935・第一映画社 溝口健二監督)
出典:日常映画

 ここ5年間、ずっーと溝口健二って監督を追いかけてきたせいか、この映画を観ていると、コン・リー扮する女房の姿が、時折、溝口映画のヒロインのように思えてしまった。

 過酷な運命に弄ばれる、溝口描くところの非業な女たち、のように思えた。

 ストーリー展開も、本来ならば、いや、今の日本映画で描かれるとするならば、それこそ甘ったるい、予定調和な(下らない)話になりがちなものをググッと引き締めて、そして突き放す

 突き放すんですよね。ココに関心した。スゲェな、と思いましたよ。

 厳しい冬が永遠に続くような、この映画の寒々としたルック(映像の外観的ムード)、そして妻のコン・リーと夫役のチェン・ダオミンの交流は、〝名もなく、貧しく、美しく〟という感じで、どーしよーもない悲嘆の極地に観る者を突き落とす。

 泣きたい人はどんどん泣いて下さい。でも泣くよりも辛いこと(現実)がある--と思い知ることになります、きっと。 <続く>

コン・リー 250
▲ チャン・イーモウ映画のアイコンとして『紅いコーリャン』『菊豆』『紅夢』『秋菊の物語』『活きる』『上海ルージュ』『王妃の紋章』に、またチェン・カイコー作品『さらば、わが愛/覇王別姫』などに出演してきたコン・リー。〝中国の(山口)百恵ちゃん〟なんて呼ばれてたのも今は昔。
(C)2014, Le Vision Pictures Co.,Ltd. All Rights Reserved

★★★ 公式サイト ★★★
■ 3月6日より東京TOHOシネマズ・シャンテほかにて全国で順次公開中、4月18日より札幌・シアターキノにてロードショー 配給:ギャガ ■
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高村 英次

札幌在住の映画ライター。2013年よりスタートしたこのブログの他に「はてなブログ」でフォトブログ「日暮らしフォトブック」を公開中。

< プロフィール >
趣味:デジカメ撮影、動画制作、SNS
好きな作家:レイ・ブラッドベリ
好きな歌手:エラ・フィッツジェラルド
好きな場所:豊平川、北海道神宮、北大、八紘学園農場
好きな番組:「映像の世紀バタフライエフェクト」「アナザーストーリーズ」「ファミリーヒストリー」(NHK)/「世界サブカルチャー史 欲望の系譜」(NHK Eテレ)/「イタズラジャーニー」(CX)/「錦鯉が行く!のりのり散歩」(HTB)/「サンドのぼんやり~ぬTV」(tbc)