新作プレビュー  『 妻への家路 』   < 後篇 >

◆ コン・リー、愁いを帯びたその視線のゆらぎ

  老け役のコンリー
  ▲ 一見、健康そうに見えるワンイー(コン・リー)だが、その内面(精神)は
   元に戻らぬほどに重く・・・。
   (C)2014, Le Vision Pictures Co.,Ltd. All Rights Reserved


 妻のワンイーがこんなになってしまったのは、もともと支配体制の横暴、つまり政府の急進的な政策転換のせいだから、それってそのまま政府(共産党)批判にも繋がる気がするなあ・・・。

 などと考えていたら、プレスシートの中で、中国語翻訳家で通訳の水野衛子さんという方が興味深いことを書いている。


 中国映画では、文革を描くことよりも反右派闘争を直接描くことのほうがある意味タブーとされているとも聞く。                         (『妻への家路』プレスシートより)


 この場合の、中国における〝右派〟とは(タカ派的意味合いの)右翼ではなく、共産党に批判的な自由主義者のことを指すのだそうで、彼ら右派を弾圧する側の国家権力(共産党)と右派との戦いが 〝反右派闘争〟ということで、『妻への家路』の背景にあるのはまさにこの反右派闘争であり、右派に属するチャン・イーモウ監督がこれ(タブー)を描くということは、まさしく〝命がけのプロジェクト〟ってことになる。

 チャン・イーモウとコン・リー --それぞれ人生で痛みを経験した、かつての恋人同士が力を合わせて、このタブーな題材に身体ごとぶつかっている、と考えると感動が倍加する、と思うんですけどネ。

 それにしても、娘のタンタン(チャン・ホゥイウエン)の顔は判るのに、あれだけ待ちこがれた最愛の夫の顔が判らない、という 心因性記憶傷害 に罹ったワンイーを、コン・リーはうつろな目(目線)でよく演じている。美形で男好きする容姿だからチャン・イーモウ監督作 『上海ルージュ』 (1995)で見せた、ギャングの情婦の歌姫みたいな艶っぽい役も似合うんだけれど、個人的には同じチャン監督作品の 『秋菊の物語』 (1992)での、役人に食ってかかる地方村の学のない田舎っぺなオッ母さん役が好きで、これは大いに可笑しかった。母は強し、というか、がむしゃらに生きてる庶民の逞しさ、大らかさが満ちあふれてて、「へー、こんな役も演れんだな」なんて感心したもの。

 今回、コン・リーは精神に異常を来した、この妻を演じきる。認知力に不安はあってもシャンとしていて凛々しい。でもその凛々しさが却って痛々しく感じられて、彼女を襲った悲劇が余計に過酷に思え、意地の悪~~い因果な宿命に思えてくる。
 しかもこのドラマは数十年にも及び、コン・リーは白髪の老女になってきて、つまり老け役を演ることになる。 『紅いコーリャン』 から20年以上も経っているのだから、老け役はもはや〝老け〟ではなく、年齢(今年、五十路)よりちょっと上で、ある意味、歳相当と言ってもいい。とはいえ、まだ充分キレイだから遜色はないのだけれど・・・。

     ただ、愁いを帯びて、宙をさまよう、その視線のゆらぎ、がとても切なかった。

        またそんな彼女を支え続け、見つめ続けるチェン・ダオミンの夫も・・・。


  妻のために手紙を
  ▲ 保存していた夫の手紙を大事に手に取るワンイー。イエンシー(チェン・ダオ
    ミン)は自分で 出した手紙を妻のために朗読する。自分がココにいることを
    知らせるために、そして自分の〝かくも長き不在〟を終わらせるために。
    (C)2014, Le Vision Pictures Co.,Ltd. All Rights Reserved


 この映画は文化大革命のさ中、もしくはその後の物語だけど、その文革時代の政策に 「下放政策」 (1968~1978)ってのがあって、思想的に問題のある人物(共産党の主流派に批判的な党幹部や文化人、インテリ・マスコミとその親族)を毛沢東の命により、地方に送り出し(追放)、数年間は中央に戻さなかった。そんな地方隔離みたいな時期があり、チェン・ダオミンが扮した夫はまさに思想犯として下放されたのだけれど、その頃を描いた映画に 『小さな中国のお針子』 (2002・仏、ダイ・シージエ監督)というのがあって、これもいい青春映画だった。
 反革命分子の子供だというだけで、親と引き離され、地方に送られた二人の青年が、現地の村の少女と出会い、二人ともその娘が好きになって・・・というトライアングル・ラブ物だったけど、若い演者とタッチが瑞々しくて、とても豊潤な気がした。

 厳しく、突き放した『妻への家路』を観ながら、甘くメランコリックな『小さな中国のお針子』が時折、脳裏に閃いた。


        ひと口に中国といっても、いろんな 貌 <かお> があるんだネ。


  夫のイエンシー
  ▲ アパート上階の部屋にいる妻を、そのそばにある陋屋から見守り続けるイエンシー。
    (C)2014, Le Vision Pictures Co.,Ltd. All Rights Reserved

         『 妻への家路 』 公式HP :http://cominghome.gaga.ne.jp/

 ■   3月6日より東京TOHOシネマズ・シャンテほかにて全国で順次公開中、
         4月18日より札幌・シアターキノにてロードショー   配給:ギャガ ■


< 『祇園の姉妹』や『浪華悲歌』で日本映画にリアリズムを打ち立て、
  『西鶴一代女』『雨月物語』などの名作を放った溝口健二の人生を、
  伊藤大輔・小津安二郎・黒澤明などのライバル監督&スタッフとの
  確執とともに描いた、
        『 ラストシーンの余韻 』 〔電子書籍版〕、
                アマゾンkindleストアから発売中! >





スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

The Food Court ♪

いっぱい食べるキミが好き~ ♪♪♪

SPORTS & CASUALS ♪

いっぱい遊ぶキミが好き~♪♪♪

お役立ちエリア ♪

ナイスな便利グッズ&サービスをご提供!

RSSリンクの表示

ブロとも申請フォーム

Powered By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ

『 ラストシーンの余韻 』 発売中!
映画ライター・高村英次、初の書き下ろし長編 『 ラストシーンの余韻 酒乱と失態、女難と頑迷、監督・溝口健二の狂おしき人生 』

高村英次

Author:高村英次
電子書籍版はアマゾン Kindleストア 及び 楽天ブックスから、紙の書籍版は製本直送.comより発売。直近の各コラムの末尾にある発売告知から販売サイトに遷移、またはポップアップ画面が出ますので、そこで購入できます。 

< プロフィール >
血液型:A型
趣味:サイクリング&ウォーキング&クッキング、デジカメでの写真・動画撮影
好きな場所:札幌ドーム、中島公園、中央図書館、豊平川
好物:コーヒー、ジンギスカン、スープカレー、ラーメン、「ロイズ」のソフトクリーム、「シャトレーゼ」のアイスバー・ピュルテ(塩キャラメル味)、びっくりドンキー、はま寿司、セイコーマート

My Blog Visitors
CAT TIME !
Calendar

Le TAO ♪
春の光だ、マチに飛び出せ! ・・・ ルタオです ♪♪♪
FC2 ブログランキング
FC2 Blog Ranking
[ジャンルランキング]
映画
573位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
邦画
17位
アクセスランキングを見る>>
リンク
最新記事
松尾ジンギスカン ♪
北海道の郷土料理にしてベスト!
カテゴリ
月別アーカイブ
リーズナブルな旅をご案内 ♪
書を捨てよ、旅へ出よう~ ♪
Amazon DVD RANKING
イチバン人気の映画をチェック!
検索フォーム
最新コメント
MAIL BOX
名前はハンドル名でOK、文面は公開しないので、お気軽に!

名前:
メール:
件名:
本文:

最新トラックバック
QRコード
QR