すくり~んエッセイ  名画座という名のタイムマシン

◆ 銀座 「並木座」 への思い入れ  <その4>

            にっぽん泥棒物語
  ▲ 「にっぽん泥棒物語」 1965年・東映 監督・山本薩夫、出演・三國連太郎 東映ビデオ


 今でも覚えてるけど、『 にっぽん泥棒物語 』 を見終わって並木座を出てきたジャズ野郎は、しばらく映画館から離れられず、その入り口に佇んでいた。確か壁に付けられたガラスケースみたいな中にポスターやら、その時の作品の情報を書いたリーフレットなんかが貼り付けられていたと思うけど、それをただずっと見ていた。
               何か立ち去りがたい思いがして・・・。

     この『にっぽん泥棒物語』に、そのエンディングに圧倒されちまったんですな。
     心臓をギュ~ッとワシづかみされたような、強烈なショック、感動を覚えた。

 それは--こんな意表を突いたエンディングの <嬉しい> 映画が日本にあったのか! --ってな驚きです。

 人によっちゃ「こんな映画なんかいくつもあるジャン、そんな大袈裟に興奮すンなよ」って冷ややかに言うかもしれない。

 でも、コレ、実話でっせ! 松川事件 (※1) って有名な冤罪事件をメインに、というか、むしろサブ・エピソードみたいな感じで取り込んで物語を仕組んでいるわけですが、ジャズめがショックを受けたエンディングは実際にあった事(事実)。
 ま、この時はそれが実話通りだとは知らなかったけど、こんなハッピーなエンディング、しかも反権力のテーマを十二分に打ち出して、時の体制(政府)とか警察権力をあざ笑い、諷刺しきった見事なエンディングというものを、<日本映画 > の中では見たことがなかった(脚本は 高岩肇 武田敦 )。

 しかも感動させんだよね。笑わせて泣かせる・・・最後、三國連太郎の主人公が傍聴席にいる佐久間良子の妻に寄り添うあたりでは、もう涙でぼやけてよく見えなかった -- ここに「終」が出る。しかもここにかかる音楽が、ドヴォルザークの『家路』みたいな郷愁をさそう曲調で、まさに〝三國連太郎は愛する我が家に帰っていった〟って終わり方を(暗示)するんだよね(音楽は 池野成 )。巧いなあ。

                コレにはマイッタ、素晴らしい!
 
 大学の友人が言った言葉はホントだった、と実感した。

 だから未だに山本薩夫のベストは、『白い巨塔』(1966・大映)でも 『戦争と人間』 (1970~73、全3部・日活)でもなく『にっぽん泥棒物語』だ・・・・コレじゃなかったら、『真空地帯』(1952・新星映画)。個人的には 『氷点』 も好きだけど。                            〔続く〕


※1 「松川事件」 昭和24(1949年)、福島県の松川駅-金谷川駅間で発生した脱線転事故は、事前に線路のボルトや枕木が外されていたため、事故ではなく事件(テロ)と断定。国鉄の組合関係者など20名が不当逮捕、裁判で数名に死刑判決も出た。しかし逮捕当初から警察の強引な見込み捜査による冤罪が囁かれ、松本清張など文人・知識人による支援運動がまきおこり、昭和38年、最高裁で全員無罪が確定した。
 松川事件は、同じ年に発生した 「下山事件」 「三鷹事件」 とともに国鉄を巡る3大ミステリーと言われ、その裏にはアメリカの特殊機関が暗躍したとの説が根強くある。
 余談だが、俳優・ 山村聰 が監督主演した 『黒い潮』 (昭和29=1954年)は下山事件に材を取った社会派ミステリーだが、このシナリオを書いたのは黒澤(明)チームの脚本家・菊島雄三。菊島はここで下山事件を占領軍(アメリカ)の陰謀だとする筋書きにしたために、アメリカ政府のブラックリストに載った。
 その証拠に、それから5年後、昭和34年(1959)に松竹が内川清一郎監督、杉浦直樹主演で 『パイナップル部隊』 を映画化しようとした時、アメリカからクレームが付いた。アメリカ大使館に呼びされた製作担当の 岸本吟一 はこう言われた。

「好ましくないスタッフが一人いる。ライターを代えてほしい」
 それは菊島隆三のことだった。その前作『黒い潮』は、下山事件に材をとり、策謀者を〝緑の服を着た大柄な男(米軍関係者)〟と暗示していた……。
 アメリカ側の「好ましくないライター(菊島隆三)」を小国英雄に代えることによって、在日米軍の協力が実現。
               (『銀幕の影 -映画プロデューサー交遊記』岸本吟一、葉文館出版)


 朝鮮戦争に狩り出されて、日本を訪れたハワイの日系二世たちが味わうカルチャー・ギャップと過酷な戦場での体験を描いた群像劇『パイナップル部隊』の脚色者は、クレジット上は小国英雄になっているが実際は菊島隆三であり、菊島は『黒い潮』でアメリカに睨まれた。昭和30年代に菊島が渡米したくてもビザが下りずにできなかったという事もあったらしい。
 この下山事件に対する菊島隆三の拘りは強く、後に 『日本の熱い日々 謀殺・下山事件』 (昭和56=1981年・俳優座映画、熊井啓監督)で再びこの事件を追究している。


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