○ 特別寄稿  追悼  原 節子

◆ 紀子の死 -- 原 節子が亡くなった・・・

 原節子が9月5日に肺炎で亡くなっていたことを、今、ネットニュースの速報で知った。この秋、小津監督の戦後の諸作品を見直していたから、なんという偶然か。それにしても、(こう言っては失礼だが)これまで健在でいらしたんだなあ。人知れず永眠されたのかも、とは映画ファンなら誰しも思っていたと思うが。

 僕の大学時代、2年生あたりの時(昭和58年頃)に鎌倉で隠退生活を送っている原節子さんを盗撮したスクープ写真がさる夕刊紙に出た。ところがそれは超望遠で撮った、粒子の粗いボロボロな画像で、原さんの顔らしきものはまるで亡霊のように写っていた。この時、この夕刊紙は原さん側や映画界・マスコミから批難され、世間からも叩かれたようだが、当たり前である。

 映画界から離れて慎ましく生活している大女優を盗撮なんかしちゃいけない。

 昨年、この同じ時期に 高倉健 が逝き、それを追うように 菅原文太 が亡くなり、昨日(11/24)は 川崎敬三 が7月に亡くなっていた事が伝えられたばかり。
 そして今日(11/25)、この人が亡くなった、と聞くと、ウーーーッと唸らざるを得ない。いきなり過ぎて、考えがまとまらない・・・。

 『東京物語』 で原さんが演じた役は、義理の親に当たる笠智衆や東山千栄子の老夫婦を、その実の子供達よりも優しく遇して労る紀子(笠ら夫婦の次男の嫁で、次男は戦死しているから未亡人)であり、それに先立つ 『晩春』 『麦秋』 でも原さんは同じ名の紀子に扮して、それはどちらも嫁に出される適齢期(ちょい遅れ気味)の娘であった。

 それらの名作を作り、一時、彼女との間にロマンスも流れた 小津安二郎 監督は原節子についてこう語っている。


◎原節子 知性群をぬく <監督の見たスター>
 僕は過去二十何年か映画を撮ってきたが、原さんのように理解が深くてうまい演技をする女優はめずらしい。芸の幅ということからすれば狭い。しかし原さんは原さんの役柄があってそこで深い演技を示すといった人なのだ。例えばがなりたてたり、子守っ子やおかみさんのような役はあの人の顔立ちや人柄ができあがっていないというそれを
「原節子は大根だ」
と評するに至っては、むしろ監督が大根に気づかぬ自分の不明を露呈するようなものだと思う。
 映画が人間を描く以上、知性とか教養とかいうものも現れてこなければならない。そういう意味でも原さんの演技には内容があるといえる。もちろん原さんが結婚すればまた違った面も出てくるとは思うが……。〝原節子は日本人向き〟という評、結構、大いに結構なことだ。

    実際、お世辞ぬきにして、日本の映画女優としては最高だと私は思っている。

 (「アサヒ芸能新聞」昭和26年9月9日、『小津安二郎 戦後語録集成 昭和21(一九四六)年-
             昭和38(一九六三)年』〔田中眞澄・編、フィルムアート社〕所収)



   義理の親にかいがいしく尽くした紀子(『東京物語』)
   独り身の父を残して嫁に行くことを嫌がった親思いの紀子(『晩春』)
   「女の子が可愛いから」と子連れの中年男の許に嫁に行く決心をした紀子(『麦秋』)


 紀子は、かつて日本のどんな町にも存在していた女性だった。同じような女性は、今もいるかもしれないが、いるような気がしない。現代とはそんな時代である。


      小津安二郎が〝日本の映画女優としては最高だ〟と評した原節子はもういない。


      原節子が亡くなって、紀子も死滅したような思いがする。つらい年の暮れである。


            原節子

            原 節子 〔 1920 - 2015  享年95歳 〕


< 『祇園の姉妹』や『浪華悲歌』で日本映画にリアリズムを打ち立て、
  『西鶴一代女』『雨月物語』などの名作を放った溝口健二の人生を、
  伊藤大輔・小津安二郎・黒澤明などのライバル監督&スタッフとの
  確執とともに描いた、
        『 ラストシーンの余韻 』 〔電子書籍版〕、
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