ある痛切 - 小津安二郎にドヤされた男 -<第3回>

◆ 内藤誠の勘違い 小津にドヤされたのは川島雄三ではない!(3)

 小津安二郎が川島雄三をドヤシつけたのは、この当時、松竹に所属する監督達が開いていた寄り合い「大船監督会」の席上のこと。この会がいつ行われたかというと、この話を紹介している、当時、大船撮影所・助監督だった高橋治の本 『人間ぱあてぃ』 に「〔高橋が〕二本ほど身分は助監督で監督作品を作り、いよいよ退社届を出して契約監督になろうという時である。」と書いているから、昭和36、37年ごろのことと思われる (※1)

 となると 『幕末太陽傳』 は昭和32年(1957)の日活の映画で、川島雄三は松竹出身だが、戦後、映画製作を再開した日活にその発足の昭和30年(1955)に移籍し、この『幕末~』をもって日活を退社、以後フリーの立場で(松竹以外の)各社で映画を撮っていった(この当時もっとも演出料が高い監督だと言われた)。したがって昭和36、37年にはすでに松竹の監督ではないのだから、大船監督会の場に来るわけがない
 もっと詳しくいうと、内藤さんが読んでブルーな気分になったという高橋治著の『人間ぱあてぃ』「許せない男」の先に引用した部分(下線の文)に注目いただきたい。

 川島雄三が監督になることと引きかえに松竹大船の監督特権を放棄し、高橋氏たちに多大な迷惑をかけたという話

 昭和36、37年の話だとして、川島が(その時)監督になるために松竹大船の監督特権を放棄した、というのがそもそも違うのだ。何故なら、その時にはとっくに川島は監督になっている。川島雄三が監督に昇進したのは戦時中の 昭和19年(1944) であり、織田作之助の『清楚』を脚色した『四つの都』がデビュー作で、これは劇場公開のあたって 『還ってきた男』 と改題されて公開されている。
 だからその頃から昭和36、37年ごろまで残っていたという、

……小津監督が中心になって獲得したこのような監督に有利な既得権(※2)……
              『人間ぱあてぃ』高橋治、講談社文庫より

が、〝川島雄三〟によって反故にされ、以降、それが慣例化してどの監督の待遇も同じように<手当無し>となってしまい、後輩の高橋治が助監督からようやく監督に昇進した頃には、その有利な既得権がなくなっていて金がもらずに損をしたというその元凶、既得権放棄の言い出しっぺの張本人は〝川島雄三〟ではなく、別の人物なのである。


          人間ぱあてぃ 小
         ▲ 『人間ぱあてぃ 』 高橋治、講談社文庫


 大体、内藤誠が読み間違った大元の、高橋治の『人間ぱあてぃ』の 「許されない男」 の全文を読めば、もう一発でその勘違いが分かるのだ。なぜならば、松竹大船の監督既得権を反故にした男の話、として書かれているこの文章は、「赤八会」 という高橋治より二期上の助監督グループの中のひとりの男の事を書いたものであるからだ(もっともこの人物を批難する内容だから、題名で「許せない男」とうたい、文中でも〝その男〟としか表記しておらず、要するに実名は載せていない)。

 赤八会とは昭和26年(1951)に猛烈な数の応募者の中から助監督試験にパスして松竹大船撮影所に入社した8人のことを指し、昭和18年(1943)に行われた松竹・大船撮影所の第1回の助監督採用試験に合格した川島は、当然ながら「赤八会」ではない


 ・・・というわけで、私が力を込めて「内藤誠の勘違い」と言い切るのも納得していただけると思う。しかし小生程度の映画本の読み手ですら、この間違いに気づくのだから、すでに他の評論家やもしかしたら内藤さんご自身がどこかでこの誤りを認めたり、勘違いを訂正した文章を発表しているんじゃないかと思うのだが、どうでしょうね。

 内藤さんはおそらく『人間ぱあてぃ』よりも、それを掲載した「夕刊フジ」の引用の仕方が悪かったので、それを鵜呑みにして、自分の監督昇進のために既得権を放棄した人物を川島雄三だと思い違ったのではないか・・・と察する次第である。  <続く>


※1「高橋治」 高橋はいわゆる松竹ヌーベルバーグの一人で、大島渚や吉田喜重、田村孟などアンチ大船調をブチ上げた若手監督グループの同人として、ステレオタイプな表現を避け、メッセージ性の強い作品を作っていたようで(そういうのあまり好きじゃないから、私は未見です)、後に監督から小説に転じて直木賞作家となった(昨年、死去)。
 この人の第1回の監督作『彼女だけが知っている』と次作『死者との結婚』が昭和35年、『非情の男』が昭和36年。助監督の身分で2本監督し、3本目で一本立ちの監督になったとすれば監督昇進したのは『非情の男』の時、すなわち昭和36年となり、小津が若手をドヤシつけた大船監督会があったのはこの年あたりということになる。
                          ***
※2 「監督の既得権」  既得権というのは、松竹専属の監督が作品を撮らずとも、毎月、またその1年間にいくらかもらえる保証金(手当)のこと。松竹専属の証の「拘束料」みたいなもののようで、映画会社がそういうものを払えたのも客がワンサときた映画ブーム、黄金時代のおかげであろう。次回、詳述。


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