巨匠のムチャブリ-野村芳亭、知られざる巨人 その6

◆ 頭は高く、手は低く

 つづいて撮った第二作は「法の涙」で、これもハンカチ用意の新派大悲劇。以来メロドラマの大衆映画で大いに気をはき、松竹の筆頭監督として所長も兼ねていた。     (『小説・田中絹代』) 

 というわけで、芳亭監督は彼は続々と作品を撮ることになるが、そこには強運だけでなく、彼独自の映画術といったものが存在した。それは、客の紅涙をしぼる、という徹底的にドラマチックな泣かせ演出であった。
 芳亭監督が撮った作品は、新派悲劇の焼き直しばかりだったとはよく指摘される事だが、それは明治生まれの芝居好きだから当たり前といえば当たり前である。明治より派生した、歌舞伎劇を大衆化させた新派劇、つまり端的に言ってしまうと〝女が悲運や男に裏切られて泣かされ、着物の袂を噛んでオヨヨと泣き崩れる〟式の情緒タップリな涙腺を刺激する悲劇を、芳亭監督は臆面もなくスクリーンに移し替えた。
 しかもクライマックスでは観客をぐっと感情移入させ、常に客を泣かせた。芝居の勘所を押さえた演出が水際だっていた。それは子供の頃から芝居を見てきたおかげで、ドラマ展開の流れやツボが血肉化しており、芝居の通人ならではの腕、話芸がそこにあった。それが、たくまざる“泣かせの演出”として毎作品に結実した。

 また商売柄、劇場の看板や書割の画を描いていたため、構図の掴み方やフレーム感覚に優れていた、と思われる。思われる、としか書けないのは、芳亭作品の大半が消失していて、おいそれと見て確認する、ということが出来ないからである。フィルムセンターには10本ほどの野村作品が所蔵されているようだが (※1) 、「野村芳亭監督特集」とか「松竹映画の歴史・黎明篇」のような特集上映が企画されない限り、見ることができないし、また東京圏に居住していないとなかなか出向けない(ジャズ野郎は札幌、北の果ての住人ですから)。
 だから、〝構図の掴み方やフレーム感覚に優れていた〟というのは、往年の映画人の述懐や当時の映画評などを読んでの、これは類推である。

 そして芳亭監督は「頭は高く、手は低く」を自身の映画作りの指針とした。これは芳亭監督の前に、蒲田撮影所に呼ばれて映画を作っていた(というより、試行錯誤して映画を作っていた)アート志向の松竹キネマ研究所派(小山内薫、村田実の一党)や、渡米した松竹の白井信太郎が招聘したハリウッド派(キャメラマンのヘンリー小谷ら)に対するアンチテーゼなのである。彼らは言うことは高尚で高級、金も時間もたっぷりかけて大作を作るが、まったく客受けせず、そっぽを向かれて松竹はちっとも儲からなかった。
 このお高い2派に対して芳亭監督が打ち出したのが「頭は高く、手は低く」であった。
 これはどういうことかというと、
「頭は高く」とは芸術的な映画を志向する意欲を持って(作る)、ということであり、
「手は低く」、は実際に映画を撮る場合は観客の目線まで下げる、といった意味で、
 つまりは大衆を惹きつけるドラマを描くということであって、要するにほどほどの高級感と庶民性を持った映画を作っていきましょう、という ややヌルいが、手堅い(松竹)カラーの提唱であった。






 加えて劇場経営に通じている芳亭は〝安く作って、多く儲ける〟という功利性を重視し、当たる映画作りを実践した。映画内容の高尚さも結構だが、映画はお客が入ってナンボ、という点を肝に銘じていた。よって彼は客受けするお涙ちょうだい映画を率先して作っていく。
 やがてその画一化した作風は、松竹の若き重役・城戸四郎によって否定されるのだが、芳亭監督の言う「頭は高く、手は低く」や「大衆を惹きつけるドラマ」などは、後に城戸が提唱した〝蒲田調〟とそう変わらないイズムでもあった。なぜならば城戸は「一歩前進、二歩前進せず」と唱えたのだから……。
 両者のイズムはどちらも抽象的で、その内容もある面で共通していたが、城戸の方はドラマチックなドラマ(臭い芝居)よりも、より実生活に近い「日常性」を重く見ていた。14歳も年が違う芳亭と城戸は協調することができず、やがて蒲田撮影所内で密かに覇権を争うことになる。 〔続く〕

※1「現存する野村芳亭作品」 この記事を初アップした時(2013年3月24日)には、現存する野村作品はない、と書きましたが、NFC(国立フィルムセンター)に以下の10品が保存されている、とのこと。
● 『天國の人』(昭和3=1928年)
● 『民族の叫び』(昭和3)
● 『金色夜叉』(昭和7=1932年)
● 『乳姉妹』(昭和7)
● 『琵琶歌』(昭和8=1933年)
● 『島の娘』(昭和8)
● 『晴曇』(昭和8)
● 『天龍下れば』(昭和8)
● 『東京音頭』(昭和8)
『婦系図』 (昭和9=1934年)・・・芳亭監督が、大借金を背負ってトーキーの録音技術を勉強しに東京にやって来たマキノ正博に、「この台本を読んでみぃ」と渡したら、マキノが一晩でシナリオを自分流に「改稿」。それを読んだ芳亭さんは大いに喜び、傷心の正博を力強く激励した、とは『マキノ雅広自伝 映画渡世・天の巻』(ちくま文庫)にある。


 これは当ブログに投稿していただいた「nikisch」さんからの指摘で知ることが出来ました。いつも、ありがとうございます。


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