ある痛切 - 小津安二郎にドヤされた男 -<第10回>

◆ 不運な気取り屋・生駒千里の焦り (2)


赤ちゃん颱風
▲ 『赤ちゃん颱風』(昭和33=1958年・松竹) 監督:生駒千里  (C)1958松竹株式会社
出典:ラピュタ阿佐ヶ谷HP「庶民の笑いと日常と 松竹大船撮影所」
http://www.laputa-jp.com/laputa/program/shochiku_ofuna/sakuhin3.html


 それに、まあ、一応、教えをうけた「師」であるからちょっと擁護しとくと、なんでこの人が貴重な監督の既得権を自ら進んで手放すという〝汚い取引〟に出たかというと、赤八会の優れ者--中平康、鈴木清順、斎藤武市など--はみんな日活に行っている。この時期、松竹の出来のいい監督や助監督はみな日活に移籍している。
 川島雄三はじめ今村昌平、松竹の入社試験に落ちて日活に拾ってもらった浦山桐郎などなど。
 それを手配した西河克巳さん(この人も日芸の映画学科の講師でして、私の入試の際の面接試験時の担当がこの方。目が優しくて話しやすい人だったけど、しっかり心の底まで読まれていましたナ、今から思うと)は生駒さんも呼ぼうとしたけれど、この時、生駒さんは肺病で病床にあったから諦めたとか(「蕩尽の人生、蕩尽の映画」西河克巳インタビュー、『臨時増刊 総特集 監督・川島雄三 1989年3月(vol.21-4)』青土社)。

 まだ助監督だった今平さんや中平康、鈴木清順、松竹の京都撮影所にいた蔵原惟繕神代辰巳松尾昭典たちがこぞって日活に走ったというのは、ベテラン監督が多くて監督昇進が望めない松竹にいるより、新しい撮影スタジオが眩しく近代的なシステムを有しながらも人手(特に現場仕事に精通した助監督)が足りない日活に行った方が早く監督になれる、と踏んだからだ。実際、行った人たちはみな監督になって野心作、話題作を発表している。
 また松竹に居残った助監督仲間も松山善三を筆頭に活躍している。

 それなのに自分はまだ「監督」になれない ・・・ プライドが高い、江戸っ子の生駒さんとしちゃ、この出遅れは焦っただろう。

 だから「どうかオレも監督にしてくれぇーー」と上役に頼みに行って、その条件に松竹大船の監督にとっちゃ金科玉条のような監督の既得権を売り渡した、ってことなんだろう、察するに(※1)。   <続く>


※1「生駒千里が監督になれた背景」  生駒さんが映画を撮れた背景には、松竹から日活へ助監督が大量移籍した事に加え、当時の松竹上層部の中にこうした考え方が広がっていたためのようである(下線)。

 この時〔『君の名は』三部作がメガヒットを記録していた時期〕、松竹首脳部に、もはや、芸術派監督は不要だとする判断が出てきたのは、誤りである。
 ところが、現実は、そうなってしまった。彼ら芸術派は「大船調」の復活を推進していく、うるさいだけの監督であり、製作費も高くつくということになってしまった。
 会社のイズムを貫いていくためには、二線級三線級と呼ばれる監督や新人監督の方がやりやすいし、それで充分であるとした。
 『東京物語』のあと小津安二郎は沈黙した。以後、三年間、小津の松竹作品はない。
    (『松竹映画の栄光と崩壊 大船の時代』升本喜年、平凡社)
                   ※〔〕内、ジャズ野郎。


 二線級、三線級の監督や新人でいい、と松竹の上層部がタカをくくったおかげで、生駒さんクラスの才能(お仕着せの企画を期限内に撮れて、そこそこ観られるものをこしらえる、いわば御用監督)が起用されるようになったのだ。
 この時、〝うるさいだけの監督であり、製作費も高くつく〟おまけに当たらない、と言って小津作品を敬遠し、小津監督不要論すら持っていたと思われる松竹上層部であったが、今となっては(日活に移籍せず松竹に残った)小津監督に感謝しないといけないだろう。山本富士子を大映から呼んで撮った『彼岸花』(昭和33=1958年)はヒットしたし、何より、その数年後には現在まで続く小津映画のブームが到来して、松竹映画のトレードマーク「富士山」が世界中に発信されるのだから。


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