巨匠のムチャブリ-野村芳亭、知られざる巨人 その7

◆ オレは将軍だ!

 監督した作品がヒットし、手腕が認められた野村芳亭はその年(大正10)の10月には監督兼務のまま蒲田撮影所の所長に就任し、撮影所のイニシアチブを取るボスとなって作品を発表していく。
 そんな彼の代表作は、悲劇的な運命に翻弄される母親を描いた、俗に〝母モノ〟と呼ばれる作品で、実際に『母』という題名の映画を2本-大正12年(1923)と昭和4年(1929)-撮っている。大正の『母』と昭和の『母』はタイトルは同じでも内容はまったく違うもので、昭和の『母』は大女優・高峰秀子のデビュー作でもある。当時、5歳だった彼女はこの映画の子役オーディションで初めて芳亭監督と接するのだが、その時の芳亭監督の印象をこんな具合に描写している。

 ハンチングにニッカボッカというスタイルの、でっぷりと太った野村芳亭監督を先頭に、十人ほどのスタッフがゾロゾロとついて歩き、女の子の一人一人のアゴに手をかけて顔 を見たり、しゃがみこんで話しかけている。
                    (『私の映画渡世・上巻』高峰秀子、文春文庫)


〝ハンチングにニッカボッカというスタイル〟は当時の映画監督が好んでした〝伊達姿〟で、これは当時のハリウッドの監督の服装を真似たものだった。そして〝十人ほどのスタッフがゾロゾロ〟と監督について歩いていた、というのは芳亭監督の有名な〝大名行列〟というヤツである。これは、芳亭監督がお殿様然として先頭に立ち、部下の助監督らを従わせて所内を我が物顔に闊歩する大仰な様子を、江戸時代の大名行列に譬えたもの。野村組にはキャメラや照明などのスタッフがほかの監督の人員の倍はついていたというから、移動ともなればその後を大勢の人間が金魚のウンコみたいにゾロゾロとくっついていくことになる。当時、島津保次郎の助監督として蒲田で働いていた吉村公三郎監督が回想する。

 何事によらず派手なことが好きで、仕事になると各組から手伝いの助監督を集め、ディレクター・チェアーに腰掛けた自分の後ろにたくさんの助監督をずらりと並ばせた。
             (『キネマの時代 監督修業時代』吉村公三郎、時事通信社)


 また昭和になってから蒲田撮影所に俳優として入社した結城一朗(一時、田中絹代の恋人と噂された)は、野村監督に抜擢されてスター街道を歩むことになるのだが、その結城曰く

 日本にも、今日までに、大監督、名監督、巨匠といわれた人の数は少なくないが、その茫洋たる風格とスケールの点において、野村芳亭監督は、遙かに群を抜いた存在であった。
                      (『実録蒲田行進曲』結城一朗、KKベストブック)
 

という。野村芳亭は、同じ大監督であっても、桁違いの傑物であった、という事になる。






 そんな絶頂期の芳亭監督の〝自惚れ〟を示す有名な逸話が〝将軍〟発言である。芳亭監督の全盛期は1920年代から1930年代初め(大正後期から昭和初頭)にかけてだが、当時、彼の他に進境著しい、ヒット作を放っていた後輩監督が蒲田撮影所に3人いた。池田義信島津保次郎牛原虚彦がその3人で、撮影所では彼らを江戸時代の徳川御三家に擬えて〝御三家〟と呼んだ。
 するとそれを小耳に挟んだ芳亭監督が、

「池田、島津、牛原が御三家ならワイはなんや。さしずめ将軍やな」

と言ったことから将軍、または将軍さんという綽名がついた。将軍は徳川幕府の将軍、征夷大将軍の意であり、つまり御三家(池田・島津・牛原)よりオレの方が上だ、偉いんだ、という増長満である。コレを自意識過剰と見ない者はいない。
 因みに、映画界には前にも書いた(巨匠のムチャブリ余話 【Coffee Break 映画界にいた天皇】3月4日付)ように、〝将軍〟と綽名された人物がもう一人いて、こちらの将軍は兵隊の方の将軍の意で、それは昭和30年代末から50年代にかけて時代劇や仁侠モノで名作を放った東映京都撮影所の山下耕作監督である。第二次大戦中、〝マレーの虎〟と呼ばれた同じ山下姓の猛将・山下泰文将軍に擬えてそう呼ばれたのだが、山下は頑固一徹の厳格さでスタッフを震え上がらせ、お喋りな芳亭さんとは違って口数が少ない超寡黙な監督であった。 〔続く〕


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