ある痛切 - 小津安二郎にドヤされた男 -<第11回>

◆ 裏取引せずとも、松竹の監督既得権は廃止された


松竹映画の栄光と崩壊 大船の時代
▲ 『松竹映画の栄光と崩壊 大船の時代』 升本喜年、平凡社


 もっとも、この時期(昭和36年頃)は映画の斜陽化が顕著になってきた時期で、松竹映画はその以前からハッキリと下降線をたどり始めていた。元松竹の製作者、升本喜年『松竹映画の栄光と崩壊 大船の時代』(平凡社)の中で、戦後の松竹映画のピークは『君の名は』 (※)が全国的に大ヒットしてブームを作った昭和28年(1953)だとし、その上がり(興収)で築地に松竹の本社である、映画館(松竹セントラル)等を併設した「松竹会館」を開いた時には、すでに凋落は始まっていた、と書いている。

 〔松竹会館は〕 昭和三十年(1955年)五月十四日に地鎮祭。総工費十億円をかけて着工し、翌年九月十四日に開館した。コレまで、新富町にあった松竹本社は、以後、ここになった。中央区築地一丁目十三番地五号である。……
 その会館の開設を記念し、いわゆる「柿落し」に、大船撮影所で製作されたのが、日仏合作『忘れ得ぬ慕情』(1956年、イブ・シャンピ監督作品)である。  …(略)…
 …皮肉なことに、ここ(築地)にこの松竹会館ビルを建て開設した昭和三十一年(1956年)から、松竹映画の下降は、はじまった。
      (『松竹映画の栄光と崩壊 大船の時代』升本喜年、平凡社)
                      ※〔〕内、ジャズ野郎。



 松竹映画の下降が昭和31年(1956)から始まっていたとすれば、問題の監督会があった昭和36、37年頃には事態はもっと深刻であったから、大船所属の監督さんにあてがわれていた手厚い既得権などは早晩、廃止されることになっていたと思われる。

 だから生駒さんはなにも焦って、自身の監督昇格と引き替えるなんて事をしなくてもよかったのだ。

 それに--もしかして生駒さんは自身が監督デビューを飾った昭和32年に「監督」に昇格していて、その交渉の場で「ボク、監督の既得権いりません(その代わり、監督にしてくださ~い)」と進言して既得権が廃止されていたとすれば、昭和32年から36、37年までの4、5年の間、松竹の監督たちはその事を知らずに映画を撮っていた事になるが、これは考えにくい。だって映画を撮らずに入ってくる毎月の手当が「今月入ってない!」となれば、高橋治がそれに気付くまで(監督昇進の時=昭和36年)、誰も文句を言わずにいたとは考えられないからだ。
 この既得権廃止は、高橋治が監督会に提訴して発覚した〝大事件〟であったのだから、これが昭和32年頃に廃止されていたとすれば、もっと早くに揉めたハズである。

 ともかく、生駒千里が監督の座と引き替えに既得権を放棄する、なんて事をしなくても、その既得権はいずれは消え去る運命にあったのである。 <続く>
 

※ 「君の名は」ブーム  今大ヒット中の興収100億円を達成した、新海誠監督のアニメ映画 『君の名は。』 のことではなく、その〝タイトル〟のオリジナルの昭和の大ヒット・メロドラマのことで、アメリカ映画『哀愁』をベースにした菊田一夫原作のラジオドラマの映画化。ラジオでその放送が始まると〝銭湯から女性客がいなくなる〟と言われるほどの人気となり、それを松竹の大庭秀雄監督が映画化して大ヒット。その成績について、『松竹映画の栄光と崩壊 大船の時代』には、こう書かれている。

 『君の名は』は、昭和二十七年(1952年)九月十五日、十月一日、昭和二十八年(1953年)四月二十七日と、第三部までの三本を封切し、その全国総配収九億六千万円は、興行成績として、松竹映画創設以来の大ヒットだった。

 主人公の後宮春樹を演じた佐田啓二は二枚目スターの座を確立し、ヒロインの氏家真智子を演じた岸恵子の〝真知子巻き〟が女性の間で大ブームを巻き起こした。


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