ある痛切 - 小津安二郎にドヤされた男 -<第17回>

◆ 誰もが小津を畏敬し、好きになる (3)


浮草 大
▲ 『浮草』(1959・大映) 監督:小津安二郎
出典:ブログ「Room no. 1975」 http://room-no-1975.jugem.jp/?eid=584


 先に示した永井健二のエピソード以外にも、終戦の時、国策映画を撮るためにシンガポールにいた小津と撮影クルーの一行はそこで8月15日を迎え、やがて日本への帰還が始まろうという時、引揚船に乗る際に小津は 「オレは一番最後でいいよ」 といってスタッフに順番を譲り、彼らを先に船に乗せて日本に帰し、自分は言葉通り最後に帰ってきたという有名なエピソード。

 また戦後、大映で『浮草』 (昭和34=1959年)を撮る際にカメラ前に好きな赤い色のヤカンをオブジェとして置いたら、それを宮川一夫カメラマンにハケられた。普通なら「オレがそこに置いたンだ、そのままにしとけ!」と怒鳴りつけそうなものだが、カラーの発色が見た目通りの「赤」にならないと宮川に言われてあっさりヤカンを引っ込めた。そしてその夜、部下の宮川の部屋にやってきて「ライトの角度で色が変わることを初めて知ったよ」と謙虚に言い、小津は大監督らしからぬ真摯な姿を見せた。
 うるさ型の巨匠ならば、こんなふうに部下のキャメラマンに謝るような態度はとらないもので、自分が間違っていてもそのムリを通そうとするのが普通なのに、小津はそうした無理な要求をする時(『宗方姉妹』で永井健児にしたような)もあるが、謙虚に引き下がることも出来る人なのである。

 この『浮草』の時、出演者の若尾文子を気に入り、松竹に戻ってからも鎌倉の自邸に招いたり、出演作にアドバイスしたり・・・。いくら気に入ったからって、若尾は他社の女優だから本来なら助言する必要などないのだが--

若尾  …(略)…でも、ホンをもらったのは京都のホテルだから、なにか他のものを撮ってる時だったんでしょう。ただ京都にいるわけないもの。(『新源氏物語』でしょうか?) あっ、葵上をやってるんだ、森一生さんの。
 あれね、やるって言った時にね、小津先生がいいアドバイスをしてくだすったの。蓼科から電話をいただいたって、ほんとに? そんなに気に入られてた?(笑)。それでね、葵上やる時にね、若尾ちゃんね、こういうとこを気をつけてやるといいよって言われて、あっ、なるほどっていうことがあったの、ひとつね。それでやったわけ。呼吸なんですけどね。どんなことかは、言わない(笑)。やきもちでしょう、怨霊で、嫉妬に狂ってる。…(略)…
-  なんかいい話ですね。小津さんの人柄というか、他の監督の映画なのに仕事を離れて女優を見守るというのは。
若尾  そう。そうやって自分の持ってるものを後から来る者に教えていくっていうのはね。…(略)…。
             (『映画女優 若尾文子』四方田犬彦・斉藤綾子/編著、みすず書房)
                                  ※下線部、ジャズ野郎


 という具合に面倒見がいい。これでは人望が集まらないわけがない。


若尾文子
▲ 『浮草』の若尾文子
出典:ブログ「e-徒然草」 http://e-tsurezure.blog.so-net.ne.jp/2014-11-26


 こうしたいい話はもっともっとあって、書き切れないくらいだからこの辺にするけれど、この時代の小津安二郎はまさに日本映画界における〝心棒〟、動かしがたい存在だった。

 〝良心〟というより、何か事が起こったらその判断や裁定、意見を聞きたくなるような、心の拠り所

 そんな存在感や安心感が小津安二郎にはあったのである。

 わずかな期間、小津の助監督を勤めた今村昌平が当時の小津をこのように活写している。

 小津さんは落ち着いた貫禄ある中年紳士で、夏でも上等の英国製シャツのそでをまくって着ていた。ただ、温和さの中に近寄りがたい厳しさがあり、撮影所では天皇のような存在だった。そうなると、小津組にいるというだけでスタッフも所内では特別扱いであった。
               (『映画は狂気の旅である 私の履歴書』今村昌平、日本経済新聞社)

<続く>


『祇園の姉妹』や『浪華悲歌』で日本映画にリアリズムを打ち立て、『西鶴一代女』『雨月物語』などの名作を放った溝口健二の人生を、伊藤大輔・小津安二郎・黒澤明などのライバル監督&スタッフとの確執とともに描いた、
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