俳優達も光り輝く--Preview『世界にひとつのプレイブック』その2

 『世界にひとつのプレイブック』の話を、もちょっとさせて下さいね。

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 心を病んだパットとティファニー、この二人のちょっとヘンテコな行動が、その演技が、描写(描く視点)が、おそらくこの手の障害者を扱った映画では最上のモノではないか、と思われるほど“自然”なのが気に入っている。

 特にパットの奇行にはいちいち“納得”してしまった。躁鬱病、統合失調症、てんかんなどとひと口に言うが、その症状は同じ病気でも人によってまったく違う。違うのだけど、特定の行動パターンに同じような傾向が見られることもある(と、こんな事をのたまうのはジャズ野郎の身近にこういう人がいるからなのですが)。パットの、時に応じて突発的に泣き出したり、叫んだり、動揺したりする状態は、今までの同種の作品だと決まり切った感じで描かれがちだが、ここでは見事に“個性的に表現”されている。パットを演じるブラッドリー・クーパーが今回のアカデミー賞で主演男優賞にノミネートされたのも肯けた。

 また一見、肉食系女子に見えながら、実は誰よりもパットの身を案じているティファニーも素晴らしくイイ。コチラの良さは、精神病者を演じる巧さの良さではなく、時にヤケっぱちになりながら自分を堅持する芯の強さと切ない女心(乙女心といいたいが、乙女というにはスレている。ま、そこがイイのだが)を持ち併せている“良さ”である。彼女に扮したジェニファー・ローレンスも当然、主演女優賞にノミネートされたが、なんとパットの父親役のロバート・デ・ニーロ、母親役のジャッキー・ウィーヴァーの二人も仲良く助演男・女優賞にノミネートされている。

 ジャッキー・ウィーヴァー演じる母親は、暴れる息子をどうすることも出来ず、こわごわと見守ることしか出来ない……そうなんですよね、肉親って総じてこうなってしまうんですよね。
 片やロバート・デ・ニーロの父親は暴れる息子を抑えようと挑みかかる……そう、男親は往々にして息子の理解できない挙動を力で押さえ込もうとしてしまう。トレードマークの深刻な渋面を、近年はコメディで活用してきたデ・ニーロだが、この我が子を思うトンマなオヤジ役でようやくその苦労が報われた感じだ。

 といった具合に脇の二人も良いから、今回のアカデミー賞で主演男・女優賞、助演男・女優賞に1人ずつ、計4人全員がノミネートされた、という次第である。
 同一作品に出演した男・女優が主演・助演賞の各部門に4人ともノミネートされたケースというのは、『欲望という名の電車』(第24回1951年)や『地上より永遠に』(第26回1953年)、『俺たちに明日はない』(第40回1967年)、『ネットワーク』(第49回1976年)、『帰郷』(第51回1978年)、『レッズ』(第54回1981年)などとあって珍しくはないが、割りとノミネーションがバラける最近の傾向のなかにあっては、久々の壮挙といえるだろう。

 監督はデヴィッド・O・ラッセル。この人の作品はいつもヒネってる、というか、どこかひと癖あってすんなり感動させてくれた試しがない。『スリー・キングス』(1999年)も『ハッカビーズ』(2004年)も『ザ・ファイター』(2010年)も、なんというか、ヤリたい事は判るのだけれど、それを公式通り(ルーティン)には描かず、癖のある人物やエピソードを組み合わせて、なんとなく意味ありげにムニャムニャと終わってしまう。ラッセル監督は『ザ・ファイター』でアカデミー監督賞や脚本賞にノミネートされたから、そのムニャムニャな所が向こうの人たちには受けているのかもしれないが、例えばその『ザ・ファイター』は、弟のボクサーがチャンピオンになって彼を鍛えたヤク中の兄貴と歓喜にむせぶ、なんて図で締めくくられており、本来ならボロ泣きものなのだけど、この兄弟とその自堕落な家族の状態があまりにも猥雑で、醜悪で、シリアスすぎるもんだから(リアルと言えばリアルなのだが)、感動がいまいち突き抜けない。
 だからどの作品も消化不良に思えたのだが、ついに突き抜けた1作を放ってくれました。

 そうなんだ、世の中にフツウな人なんかいないんだよ、みんなどっかこっか病んでいる。にもかかわらず、心が病んだ人を見ると顔を背けたり、無視したり、果てには差別して、イジメたりして無闇に苦しめてしまう。それは自分自身を壊してしまう行為だと、どこかで感じているのに、そういう自分をとめられない……。

 『世界にひとつのプレイブック』には、そうしたフツウの人と心の病を負った社会的弱者との距離をグッと縮めてくれる一瞬がある。それは、映画を見終わって放っておけば、たちまち消えてしまうよな泡沫(うたかた)の共感かもしれないけれど、先に書いた「ミスティ」が流れる瞬間にそれは昂然と沸き上がって、心がちょっと軽くなる……。

 「人間って何だっけ?」と今更ながら思わせてくれる、優しい訴求力をこの映画は持っている。
                         〔2月22日ロードショウ/配給:ギャガ〕


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高村英次

Author:高村英次
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