ある痛切 - 小津安二郎にドヤされた男 -<第21回>

◆ 誰もが小津を畏敬し、好きになる (7)


東京物語演出中の小津
▲ 『東京物語』(昭和28=1953年・松竹)演出中の小津監督(中央)
出典:「信州とっておき情報」のHPより「小津安二郎記念 蓼科高原映画祭」
http://www.mtlabs.co.jp/shinshu/event/tatemovi.htm


 永井健児が小津監督に、当時、売り出し中の黒澤監督の作品評を喋らされた話は、臈長けた映画監督が若い映画ファンの青臭い感想やナマの意見をウンウンと心やすく聞いてくれた、などというイイ話ではなく、黒澤映画の傾向をすでに掴んでいて、それらの作品が描いている状況や指し示す方向にもうすうす気付いているベテラン監督が、面白がりながら〝解っていて、わざと訊いている〟というような底意地の悪い、もしくは強烈にイジワルな悪ふざけを素人相手にしている、といふうに私は見る。

         解っていて訊く、ってのは相当なワル、嫌みなジジイでっせ。

 そうしたしたたかな、いや悪辣な小津安というのが確実に存在するわけで、その好例としては『東京物語』(昭和28=1953年)の製作中、トイレで当時、助監督だった今村昌平臨終シーンの良否を尋ねた(というか、ほざいた)エピソードが決定的である。撮影中に今平さんは最愛の母を亡くしていた。


 その「東京物語」の撮影中の(昭和)28年10月19日に母・竹節〔たけよ〕を脳溢血で亡くした。…(略)…葬式を済ませ、しばらく休んでから撮影所へ戻ると、「東京物語」は画面に最後の音楽などを入れるダビング作業に入っていた。ちょうど東山千栄子演じる老母が脳溢血で倒れ、死ぬシーンが何度も何度も繰り返し映し出されている。大柄な東山さんに母の面影がだぶった。観ているのがつらくなって、たまらずトイレに立った。
 小便をしながら母を想って目を腫らしていると、隣にやってきた小津さんが

「どうだい、脳溢血で死ぬってのはあんなもんだろう」

と言う。私の泣き顔に自分の映画の迫真の力を確かめて、満足している風であった。
 「はあ、あんなもんです」。やっとの思いでそんな風に答えながら、私はこの世に映画監督ほど非情で恐ろしい人種はいないと思った。
               (『映画は狂気の旅である 私の履歴書』今村昌平、日本経済新聞社)
                                    ※〔〕内、ジャズ野郎。


 後に、その小津よりも〝非情で恐ろしい人種〟になる今村昌平を、親を亡くして失意の淵にいる彼を、さらにドン底に突き落とすような心ない言葉を小津はかけた。コレを呼んだ時は私も父を亡くした直後だったから、小津に対して「殺したろか?! この野郎!」とむやみに頭にきたものだが、それにしても、小津だって助監督の今村が母を亡くしたことくらいは知ってただろう。知っていたから「脳溢血で死ぬってのはあんなもんだろう」と訊いたのだ。
 小津のシンパなら、「それは小津さんの逆説的な優しさだよ」とか「わざとそう言って、逆に今平さんを慰めたんだ」なんてことを言うだろう。でも、正直、私なら例えそうであっても、その場で小津をぶん殴るか、小便くらい引っかけてやっただろう(といっても、実際にはトイレをそそくさと立ち去るぐらいの事しかできないだろうが)。

 しかし--小津はなんでそんなことを言ったんだろう。

 臨終シーンがうまい具合に撮れた高揚感からなのか。

  はたまた--

 落ち込んでる今平助監督をわざと怒らせて、モノ(映画)作りに向かわせようとしたのか。

 その真意は分からないけれど、いずれにしても映画ってのはこんなヤな思いをしてまで撮らなきゃいけないもんなんですかね。 <続く>


『祇園の姉妹』や『浪華悲歌』で日本映画にリアリズムを打ち立て、『西鶴一代女』『雨月物語』などの名作を放った溝口健二の人生を、伊藤大輔・小津安二郎・黒澤明などのライバル監督&スタッフとの確執とともに描いた、
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