ある痛切 - 小津安二郎にドヤされた男 -<第23回>

◆ 誰もが小津を畏敬し、好きになる (9)

楽天楽観
▲ 『楽天楽観 映画監督佐々木康』 佐々木康著、佐々木真・佐々木康子監修、円尾敏郎・横山幸則編集、
ワイズ出版  出典:amazonプライム


 怠惰な小川助監督に抗議する意味で現場をサボッた佐々木康を、小津は呼び戻す。

 三日後、小津監督から呼び出しがかかった。
「佐々木、おれの目は節穴じゃないぞ。小川が、おまえにつらく当たっているのは知ってるし、あいつの欠点もちゃんと見ている。明日から来て働け」
 という小津監督の一言で、私は危機を乗り切った。小津監督が呼び戻してくれなかったら、私のその後の映画人生はなかったと言っても過言ではない。
            (『楽天楽観 映画監督佐々木康』佐々木康・著、佐々木真・佐々木康子監修、
                            円尾敏郎・横山幸則・編集、ワイズ出版)


 これだけ読むと「さすが小津監督だ、怠惰な小川のことをちゃんと知ってて、しっかり仕事をしていた佐々木や深田のことを見ていたんだな」と思えるのだが、でも、では、なぜその時まで小川の性悪な行状を許していたのか? 黙って見ていたのか?

 小津安二郎は映画界入りする前、三重県松坂市の小学校で代用教員として働いていたことがある。つまり先生をしていたわけで、やんちゃ盛りの子供達一人一人と語らい、のびのび育てたようだが、同時に本性丸出しに行動する児童を通して、個々人の個性を見抜いたり、扱いづらい子供をどう導けばいいか、といったことに馴染んだと思われる。
 つまり人を見る目に長けており、その人の人柄から本性(小津流に言えば品性か)をたちまち見抜くような洞察力を持っていたハズである。


 そこで先に書いた私の疑問--〝(小津の)しばしばよく理解できない像〟が出てくる。

 それほどまでに人を見る目を持っていた小津なのに、なんで小川二郎などという不真面目なヘッポコ野郎を助監督として使っていたのか--理解できない像とはコレである。


 映画監督は自分の仕事が円滑に回るようにスタッフには優秀な人材を揃えたがるものである。中でも助監督、そのリーダーとして監督以上に現場を指揮し差配するチーフ助監督(ファースト)には特に優秀な人材を持ってくる。監督自身が撮影前の準備をすることもあるが、実際はそのイメージや絶対に用意してほしい人やアイテムをチーフ助監督に伝え、チーフはその命令をセカンド、サード以下の助監督におろして準備させ、セッティングが出来たら「監督、どーぞ」と受け渡す。
 だからチーフがバカだと現場は回らないわけである。
 もっと言うと、チーフ助監督というものは監督以上にクレバーで要領のいい、人間力のある人物でないと勤まらないわけであり、その映画をいい作品に仕上げたい、とか、撮影を効率よく予算内で納めたい、という場合にはチーフ助監督の優劣にそのすべてがかかってくる。

 そんな事は名監督たる小津安二郎なら百も承知のハズである。なのに、小川みたいなボンクラだめ男をチーフのままにして黙っている。黙って小川が部下の助監督を酷使しているのを黙認していた、というのはどうにも解せないわけである。
 事実、小津は佐々木康に言った上記のコメント--

 おれの目は節穴じゃないぞ。小川が、おまえにつらく当たっているのは知ってるし、あいつの欠点もちゃんと見ている。

--でも判るように、小川の怠惰や性悪ぶりをちゃんと見知っていた。それなのに、なんで黙~~って見てたの? 
 そういう不心得者が自分の組にいると、統制は乱れ、ひいては作品の出来に影響してくること必定なわけだから即刻クビにすべきだろう。小津監督はその頃はまだ大巨匠ってわけじゃなかったが、とはいっても一線級の監督だったのだから小川をすぐに切れたハズである。

 どうして小川の人間性を見抜いていながらクビにもせず、その下で働く佐々木康や深田金之助が泣き泣き仕事しているのを知っていながら、そのままにしていたのか?

 そこに小津のいやらしさ、抜け目のない観察者の目がある、と私は思う。

 つまり、「知ってて見ていた」わけだ。先に書いた、母を亡くした今村助監督に臨終シーンの出来を尋ねた「解っていて訊く」と同じ、それは嫌らしいほどにエゲツない、人使いの手なのではないか、と思うのである。  <続く>


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