ある痛切 - 小津安二郎にドヤされた男 -<第26回>

◆ 小津にドヤされ、立場がなくなった〝その男〟は・・・(1)


 勢い余って、小津安二郎のことばかり書いてしまいました。みなさん、とっくにお忘れのことと思いますが、その小津にドヤされた生駒千里の話に戻ります。

               *************

 そうした清濁併せのむ技量を持ち、自身もそうした清濁併せ持った大人(たいじん)として、また有り体な「聖人君子」といった薄っぺらな良識人的イメージからはみ出し、ただの呑んべぇの独り者として種取り(映画)生活に遊んだ小津安二郎。


小津安二郎監督
▲ 我思う、ゆえに小津あり ・・・ 小津安二郎監督
出典:ウェブサイト「コンポラ」 http://www.compora.com/Art-Gallery/Artists/Ozu-Yasujiro.html


 そんな人望も人徳もある小津監督に、我が講師・生駒千里はドヤされたのである(このバチ当たりめが!)。『人間ぱあてぃ』「許せない男」にある、その場面を再録する。

 私は強いものには必要以上に媚びる例の男の性根を見たと思い、この件を入会早々の監督会に提訴した。事実上の会長で、監督特権を作った当人である小津監督は驚いたようだった。
「お前か!?」
 その男を名ざしして、こういった。

「自分一人が監督になれば良いと思っているとしたら大船の監督も落ちたな。俺なら自分のことより先に後輩のことを考えるがな」

 その男は固くうつむいたまま一言もなかった。赤八会の名には途中退社の一人を含め、八人が赤恥をかきに来たとの意味があるという。会の名を実践した男は自らも監督特権の恩恵を受けることなく、間もなく馘首された。                            (『人間ぱあてぃ』 高橋治、講談社文庫)



 この文章を読む限り、自身が監督に昇格することと引き替えに監督特権(月保証と一年保証=手当)を放棄した〝その男〟に対して、「オマエかーーッ、このヤロウ!」というような大声で叱責する=ドヤす、とか大仰な恫喝はしていない。〝その男〟に向かって、またはその前に座ってじっと目を見ながら、静かに「自分一人が監督になれば良いと思っているとしたら・・・」と穏やかに問いかけている図が想像できる。

                 しかし、これが逆に怖い!

 小津監督は入社当初は撮影部に回されて、重いカメラを担いだり、シンドイ現像場の仕事に耐えてきた人で、その肉体は頑健で肩幅は広く胸板は厚かった。つまり素顔の小津とは彼の撮る映画の世界とは正反対の、ワイルドな、野性味満点の精悍な漢(おとこ)なのである。そうした人が感情的にわめくのではなく、抑えた静かな声で言うのだから、声高に「この野郎!」と恫喝されるよりなんぼか怖いか。
 小津監督から面と向かってこう言われた時、生駒さん、さぞかしビビッただろうなあ、それこそキンタマが縮み上がったんじゃなかろうか(ウフフ…)。

            俺なら自分のことより先に後輩のことを考えるがな。

 という一言にしても、終戦直後の日本への帰還の際、その場で一番エライ監督の身分にありながら「(復員船に乗る順序は)オレは後でいいよ」と言って、本当にそれを実践した小津監督ならでは気配りと思える。

 だから、そんな大人の小津安二郎(や他の大船のベテラン監督達)を、いわば裏切るような姑息なマネをした生駒千里が私は許せないし、そんな人間に教わっていたってことが恥ずかしいのだ。

 そして、そこに私自身の在学中の嫌な記憶 (2016年9月19日付け【-第6回 いたいけな大学生時分の嫌~な記憶(2)】) がダブッてくると、これ以上ないほどの嫌悪感が腹の底から沸いてきた。これはもう致し方ない。<続く>


『祇園の姉妹』や『浪華悲歌』で日本映画にリアリズムを打ち立て、『西鶴一代女』『雨月物語』などの名作を放った溝口健二の人生を、伊藤大輔・小津安二郎・黒澤明などのライバル監督&スタッフとの確執とともに描いた、
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