ある痛切 - 小津安二郎にドヤされた男 -<第29回>

◆ 松竹大船調の末裔 (2)

北の映像ミュージアム 手紙展示 黒澤監督の手紙 小
▲札幌市の「北の映像ミュージアム(左) http://kitanoeizou.net/」で展示されている黒澤明監督の手紙(右が文面)。地元紙の求めに応じて『白痴』ロケ当時(昭和26年)の思い出や、その後の激変した札幌(手紙が書かれたのは昭和47年)についての心境が5枚にわたってしたためられている。  
★2013年9月撮影。 © ジャズ野郎


 なぜ、札幌の大雪が黒澤監督のせいか、というと、『白痴』に限らず黒澤作品はそのロケ中に、自然災害などのトラブルに見舞われることがやたら多いからだ。 

 デビュー作の『姿三四郎』(昭和18=1943年・東宝)の有名なラストの三四郎と檜垣源之介の決闘シーンではわざと荒天待ちをしてさんざん待った末に、ものすごい嵐がやってきて、すさまじい風が吹いて壮絶なシーンが撮れた、ってのは良い方の例だが、『羅生門』(昭和25=1950年・大映京都)の時は撮影所火災であやうくフィルム(ネガ)がパーになりかけたり、『七人の侍』(昭和29=1954年)や『隠し砦の三悪人』(昭和33=1958年)では天候不良や台風にたたられてほぼ1年がかりの撮影となったり(予算と時間がかかり過ぎると東宝から黒澤プロを作れと要請される)、『蜘蛛巣城』(昭和32=1957年。以上、東宝)では御殿場で曇天待ちして時間と予算を浪費する、といった具合にさんざんだ。

 だから、『白痴』の札幌ロケでの大雪も黒澤組のせいである--というのが私の持論だが(そんなことはどうでもいいのだが)、この『白痴』の時は黒澤さんが敬愛する作家ドストエフスキー原作の映画化ということで粘りに粘った挙げ句、プレッシャーに耐えかねて、途中から演出に悩み出して大変だったようだ。

 そういった時、監督のいらだちってのは、往々にして助監督にぶつけられる。黒澤監督は野村芳太郎以下の助監督たちに演出上の意見を求めたが、松竹大船では監督の意向に沿うことが優先されてただ指示された事を「ハイハイ」と従順にこなすことが求められていた。「あのう、監督、私はこう思うんですけど…」とか「ここはこうしたら、どうですか?」などと意見具申をするなんて事は恐れ多く、そうした態度は出過ぎたマネだとして厳に慎むような、そういった空気があった(この時代、どこの撮影所でも同様だったが)。

 だから黒澤監督が意見を言えと言っても、監督を前にして恐れ多い、といった感じで意見が出なかった。
 するといらついた黒澤監督がカンシャクを起こして、「松竹の助監督は、監督の演出方針について何も発言しない。けしからん!」と言ったそうだが、その大爆発の真っ最中に、生駒さんは勇敢にも荒ぶる黒澤天皇に向かって、

           「それは松竹大船ではできないことなんです」 (※)

と言ったというのだ。これは生駒さんが自ら話したことじゃなく、ちょっと何かで読んだ(今、その出典が確認できないが、おそらく『人は大切なことも忘れてしまうから-松竹大船撮影所物語』マガジンハウス、だと思う)。

 「ほー」と言いたくなるような話で、「生駒さん、意外にやるジャン」とこれを知った時に思ったが、『白痴』完成後、その〝けしからん大船助監督〟の中で黒澤監督が、

      「大船には一人、凄いのがいる。あんなのは東宝にも大映にもいない。日本一だ」

 と言って認め、当時、狛江にあった黒澤邸に呼んで交流したのは野村芳太郎だった。

         そう、天皇に言葉を返した生駒さんではない。    <続く>
 

 2013年6月20日付け【巨匠のムチャブリ-島津保次郎、オヤジの蛮行 <その19>】参照。


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