ある痛切 - 小津安二郎にドヤされた男 -<最終回>

◆ 松竹大船調の末裔 (6)

松竹映画のタイトルマーク
▲ 昭和30~50年代頃の松竹映画のオープニングロゴ
出典:「こじブロ」http://blog.livedoor.jp/kojitetsu/archives/50975928.html


 オンボロと言っては言い過ぎかもしれないが、昭和59年当時の〝年老いた〟大船撮影所を見て幻滅した--そんな痛い記憶があるにも関わらず、私はすでになくなった撮影所、松竹大船撮影所の、そのスタイル(カラー)ともいえる大船調を、その幻影を、死ぬまで抱き続ける末裔なのだと思っているのである。こんな笑止なことはない。

 大船調の末裔だ--などと言えば、今回のコラムでその行いや人格にケチをつけてきた(口の悪い)生駒千里あたりに、思いっきり嘲ったドヤ顔をされて、こう言われるだろう。

「オマエが?! 撮影所で働いたこともないオマエがかッ?! フンッ、笑わせるね。何を寝ぼけたことを言ってるんだ!」

 またコバケイ(小林桂三郎)さんにも

「スタジオの匂いを嗅いだこともないキミが、なんて世迷いごとを言うンだい!」

 と、言われるに違いない。そうですよね、まったくその通りです。私は日芸のホコリっぽいスタジオしか知りません。

 この松竹出身のお二人から猛烈な反発と嘲笑を受けるのは、火を見るよりも明らかです。でもまあ、本人がそう思ってンだからしょうがない。


 かつて、撮影所がフル回転していた時代、そこでは前にも書いたように、監督を中心に人脈が作られ人が育った。ステージのホコリを吸い、所内を走りまわって下働きの業務をこなすうちに、いつの間にかその撮影所の手法やスタイル、描く内容、タッチ等が似ていったり、継承されていった。それは、映画作りの中心が撮影所(映画会社)だった頃の、スタジオシステムの美点であったし、レガシー(遺産)でもあった。

 今や、そんなレガシーは消滅して、どこにもないのかもしれない。

 でも、そこで育ち薫陶をうけた人達が撮影所外で講義や講演をしたり、回顧録に類する手記や体験記を出版して、そこでの逸話や物語が流布されていく。それがかすかな微香となって映画ファンや私のような映画を志した学生に移っていった。その微香はホンモノの撮影所やそこでの仕事を知らぬ者にも、確実に〝ある視点〟や〝観点〟(=リファレンス)を与えるほど強烈なドラッグであった。

 私はそのドラッグに冒されてしまったのだろう。
 だから、馬鹿にされ、批判され、笑われることを恐れず、唾されることを覚悟の上で、こう言わなければならない。


         私は松竹大船調の最後の末裔なのだと--。    <完>


小津組の野外ロケ
▲小津組のロケ・スナップ。ロケバスに「OFUNA STUSIO」の文字。中央下、キャメラ左の帽子の紳士が
小津監督。  出典:松竹「小津安二郎110年」 http://www.shochiku.co.jp/ozu/chronology.html
© Shochiku Co.,Ltd. All Rights Reserved.


▲松竹大船撮影所開設50周年記念作品『キネマの天地』(昭和61=1986年)
監督:山田洋次 出典:Youtube  https://youtu.be/W4D1j6LBLPA 


※出典および参考文献
● 『月刊ユリイカ 臨時増刊 総特集 監督・川島雄三 1989年3月(vol.21-4)』 青土社
● 『人間ぱあてぃ』 高橋治、講談社文庫
● 『絢爛たる影絵 小津安二郎』 高橋治、岩波現代文庫
● 『おそめ 伝説の銀座クラブ』 石井妙子、新潮文庫
● 『任侠映画史』 俊藤浩滋、山根貞男、講談社
● 『溝口健二というおのこ』 津村秀夫、芳賀書房
● 『小津安二郎に憑かれた男 美術監督・下河原友雄の生と死』 永井健児、フィルムアート社
● 『小津安二郎物語』 厚田雄春・蓮見重彦、筑摩書房
● 『小津安二郎全発言(1933~1945)』 田中真澄編、泰流社
● 『小津安二郎 戦後語録集成 昭和21(一九四六)年-昭和38(一九六三)年』 田中真澄編、フィルムアート社
● 『松竹大船撮影所前松尾食堂』 山本若菜、中央公論社
● 『松竹大船撮影所覚え書き 小津安二郎監督との日々』 山内静夫、かまくら春秋社
● 『巨匠とチンピラ 小津安二郎との日々』 三上真一郎、文藝春秋
● 『西河克巳映画修業』 西河克巳、権藤晋、ワイズ出版
● 『人物・松竹映画史 蒲田の時代』 升本喜年、平凡社
● 『松竹映画の栄光と崩壊 大船の時代』 升本喜年、平凡社
● 『人は大切なことも忘れてしまうから-松竹大船撮影所物語』 山田太一・斎藤正夫・田中康義・宮川昭司・吉田剛・渡辺浩、マガジンハウス
● 『日本映画傳 映画製作者の記録』 城戸四郎、文藝春秋新社
● 『日本映画を創った男 城戸四郎伝』 小林久三、新人物往来社
● 『雨の日の動物園』 小林久三、キネマ旬報社
● 『映画は狂気の旅である 私の履歴書』 今村昌平、日本経済新聞社
● 『楽天楽観 映画監督佐々木康』 佐々木康・著、佐々木真・佐々木康子監修、円尾敏郎・横山幸則・編集、ワイズ出版
● 『映像を彫る 改訂版 撮影監督 宮川一夫の世界』 渡辺浩、発行・パンドラ、発売・東京書館
● 『映画女優 若尾文子』 四方田犬彦・斉藤綾子/編著、みすず書房
● 『シネマの裏窓 ある活動屋の思い出ばなし』 小川正、恒文社(現在この本は「マッカーサーとチャンバラ ある活動屋の思い出ばなし」に書名が変更)
● 『日本映画監督全集』 キネマ旬報社

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