日本の映画監督 天才監督・山中貞雄の皮肉な運命 <2>

◆ 出征後、山中の家を訪れた深水藤子

深水藤子250
▲ 深水藤子(右上)
出典:ウエブサイト「昭和モダン好き」=「雑誌記事「深水藤子・吉野朝子・八雲理惠子・大川平八郎・藤原釜足」(1935)」より   http://showamodern.blog.fc2.com/blog-entry-1294.html


 昭和12年8月に山中貞雄が出征した時、彼はすでに京都(日活)を去って上京しPCL(現・東宝)で映画を撮っていた。彼は東京の青山南町に家を借りており、ここには友人で映画監督の滝澤英輔(本名・滝澤憲、名作『雄呂血』などの監督・二川文太郎は彼の兄)と同居のような状態であったが、そんな男所帯に「映画界で働きたい」と山中の従兄弟・加藤泰が押しかけて一緒に住むことになる。
 だが山中はPCL入社第1回作品『人情紙風船』(昭和12=1937年、山中作品としては21本目)を発表してすぐに戦争にとられる。

 かつて山中貞雄監督が召集令状を受け取った時、手が震えて煙草の火がつかなかったという話を聞いていた…(略)…。

 と書いたのは松竹出身の吉村公三郎監督だが、吉村は自分に赤紙が来た時、この山中の話を思い出し、わざと煙草に火を付けて吸ってみた。手が震えて火が付かないなんて事もなく、煙草の味も変わらなかった、と自著『あの人この人』(協同企画出版部)に記している

 山中は赤紙を恐れていた。それは、戦争に行けば自分は死ぬ、と判っていたからではないのか。
 作品論を挟むと長くなるのでやめたいが、『森の石松』など山中貞雄の後期の作品はおしなべて「暗い」との評判で、それを稲垣浩ら鳴滝組の仲間達は心配した。遺作の『人情紙風船』を観れば、生きるのを投げたようなその「暗さ」がいやというほど判るが、それが後に戦死する彼の運命を暗示していた、とはよく言われることである。

 主の山中なき青山の家で、一人留守番をすることになった加藤泰は、日がな一日、山中が置いていった本を読んでいた。すると玄関の方で声がした。

 それでノソノソ玄関に出て行った。パーッとその目に華やかなものが飛びこんだ。小柄な、目のパッチリした丸ポチャの、この世にこんな綺麗な女がいるのかと思うような女がそこに立っていた。その母親らしい年配の婦人がその横に立っていた。「山中さんは……?」とその年配が口をきいた。ぼくは飛び上がって坐って、シドロモドロで、「もう出かけた」という意味のことを口走ったようだった。綺麗で若い方が、その大きな、鈴を張ったような目をしばたたかせ、何か言って急いで、丁寧に腰を折って、二人は去った。 …(略)…。
 そして、ああ、深水藤子だったと気がついた。  (『映画監督 山中貞雄』加藤泰、キネマ旬報社)


                                          <続く>

           *************************

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