松竹の監督系譜-蒲田(大船)調の行方 <その3>

◆松竹の監督人脈を形成する2つの流れ  

 松竹映画における監督の系譜には、2つの大きな流れがある。
 大まかに分類すると、小山内薫派野村芳亭派の2派ということになる。
 この【野村芳亭 知られざる巨人】の初めの<その1~3>で触れた、演劇興行会社の松竹が映画を始めた頃の話を思い出していただきたい。
 松竹の総帥・大谷竹次郎は映画製作を始めるにあたり、当時、新劇運動の旗手だった小山内薫にまず声を掛けた。小山内は彼と繋がりのある村田実や、牛原虚彦や島津保次郎といった人材(3人とも後に監督)を集めて映画製作をスタートさせるのですが、この時の小山内組一党が小山内派であって、これが松竹キネマの発足時からあった、正統な流れ=本流なのである。

 この本流が〝芸術的な映画〟を目指すあまり、観念的かつ高踏的な大衆的でない作品を作って、興行的に惨敗し、解散に追いやられた事は先に述べたが(村田実などはすぐに松竹を辞め、もともとやっていた演劇に戻り、日活に入って社会派リアリズムの大監督になる)、その小山内の替わりに蒲田撮影所の差配を任されたのが芳亭さんである。

 よって、小山内薫から映画製作を委譲された芳亭さんが集めた人材、育てた人脈こそが芳亭派ということになる。芳亭派には、将軍さんが京都から呼んだ賀古残夢や池田義信、大久保忠素、重宗務、その助監督である清水宏、小津安二郎、斎藤寅二郎、成瀬巳喜男らの監督達が連なるのだが、それは付いた監督(師匠)が芳亭派であったからそうなっただけであり、師匠の作風を継承したというわけではない。それはアンチ芳亭だった小津や清水が芳亭派にいることを見ても、判ると思う( 明日の<その4>では松竹の監督系図を掲載します! )。

 芳亭派は新派悲劇から時代劇まで何でもこなす娯楽系統であったから、小山内派と比べられ、後々までも 一段低く見られていた という。また2派につくスタッフ達にもそうした差別化はあったようで、例えば小山内派のキャメラマンはA組と呼ばれ、芳亭派の撮影者達はB組と呼ばれた。映画事業のスタート時(大正9=1920年)、松竹では白井信太郎らが渡米し、ハリウッドの大巨匠セシル・B・デミル監督の許でキャメラを担当していた ヘンリー小谷 を招聘しており、この小谷が小山内派のキャメラマン、すなわちA組になる。そしてその小谷の弟子たち(前に名前を出した碧川道夫ら)もA組キャメラマンということになる。B組にも、日本で初めて移動撮影やカットバックという映像技法(編集技法)を使った 長井信一(*1) などの凄腕がいたから、テクニカルな面での遜色はなかった。
 ただ、芳亭派は娯楽的な、当たる映画を撮っていたため、〝芸術的でない〟という一点をもって格下に見られていた、という事のようだ(庶民的な作風がウリの松竹なのに、何故か興行的に当たる映画を作ると撮影所内部で低く見られる、というのは、西河克巳も語っている事だが、お高い、というか、なんというか。エリートぶった自己撞着ではある)。

 格下に見られた芳亭派だが、その実、本流に比肩した流派(第2の本流)として厳然と存在感を持ってはいたのである。  〔続く〕
                             *****
*1 長井信一 長井は芳亭監督の第1作『夕刊売り』を担当しており、芳亭作品も手がけたが、芳亭さんが京都から連れてきた賀古残夢監督や池田義信監督のキャメラマンとして有名。A組(小山内派)の島津保次郎作品も担当した。彼が黎明期の日本映画をいかに刷新したか、については以下の一文がある。

 日本でキャメラマンの技術を初めて認めさせたのは、大正六年『大尉の娘』を撮影した長井信一である。彼は連鎖劇俳優井上正夫と組み、上映時に声色やセリフを必要としない、つまり画像だけに頼った活動写真を作りあげた。舞台の芝居をロングで回していた当時の活動写真の撮り方をやめ、欧米の活動写真を研究し、カット・バック、父と娘の道行きの移動、嫁入りの荷物が行くのを川に写し、移動パンで見ている人たちのカットになるというテクニックなどを、初めて見せてくれた作品である。
       (『映像を掘る 宮川一夫の世界』渡辺浩(ゆたか)、発行パンドラ、発売・現代書館)


 因みに、芳亭監督にも 『大尉の娘』(大正13=1924年) という同じ原作を映画化した作品があるが、上記の『大尉の娘』(大正6=1917年)は役者の井上正夫が監督主演、撮影・長井信一による小林商会作品。芳亭の『大尉の娘』の撮影は芳亭さんと名コンビと言われた小田浜太郎 (4月10日付【 日本の映画監督-〝チョコ平〟五所平之助の有為転変 】 参照)。 昭和10年に日活に移籍し、日活が戦時中の映画会社統合で大映となって長井はそのまま大映所属となり、戦後も昭和32年(1957)まで仕事を続けた。

<  因業なる溝口健二の映画人生と私生活にゆらいだ、
   創造の炎と赤裸々な痴態の実態を描いた

        『 ラストシーンの余韻 』 〔電子書籍版〕、

             アマゾンkindleストアにて発売中!  >






スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

The Food Court ♪

いっぱい食べるキミが好き~ ♪♪♪

SPORTS & CASUALS ♪

いっぱい遊ぶキミが好き~♪♪♪

お役立ちエリア ♪

ナイスな便利グッズ&サービスをご提供!

RSSリンクの表示

ブロとも申請フォーム

Powered By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ

『 ラストシーンの余韻 』 発売中!
映画ライター・高村英次、初の書き下ろし長編 『 ラストシーンの余韻 酒乱と失態、女難と頑迷、監督・溝口健二の狂おしき人生 』

高村英次

Author:高村英次
電子書籍版はアマゾン Kindleストア 及び 楽天ブックスから、紙の書籍版は製本直送.comより発売。直近の各コラムの末尾にある発売告知から販売サイトに遷移、またはポップアップ画面が出ますので、そこで購入できます。 

< プロフィール >
血液型:A型
趣味:サイクリング&ウォーキング&クッキング、デジカメでの写真・動画撮影
好きな場所:札幌ドーム、中島公園、中央図書館、豊平川
好物:コーヒー、ジンギスカン、スープカレー、ラーメン、「ロイズ」のソフトクリーム、「シャトレーゼ」のアイスバー・ピュルテ(塩キャラメル味)、びっくりドンキー、はま寿司、セイコーマート

My Blog Visitors
CAT TIME !
Calendar

Le TAO ♪
春の光だ、マチに飛び出せ! ・・・ ルタオです ♪♪♪
FC2 ブログランキング
FC2 Blog Ranking
[ジャンルランキング]
映画
403位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
邦画
14位
アクセスランキングを見る>>
リンク
最新記事
松尾ジンギスカン ♪
北海道の郷土料理にしてベスト!
カテゴリ
月別アーカイブ
リーズナブルな旅をご案内 ♪
書を捨てよ、旅へ出よう~ ♪
Amazon DVD RANKING
イチバン人気の映画をチェック!
検索フォーム
最新コメント
MAIL BOX
名前はハンドル名でOK、文面は公開しないので、お気軽に!

名前:
メール:
件名:
本文:

最新トラックバック
QRコード
QR