松竹の監督系譜-蒲田(大船)調の行方 <その6>

◆松竹で一番格下に見られた京都勢 <後篇>  

「第3系統だの、第4の集団だのとややっっこしくて、ワケが分ねぇよッ!」というお怒りの声が聞こえてきそうです。書いてるジャズ野郎もパソコンの前で〝ご意見、ごもっとも〟と相槌を打っております。ですが、どーか、もう暫くご辛抱下さい。

 松竹の京都撮影所(下加茂の方)は、女性ファンに大ブームを巻き起こした 林長二郎 が在籍していた時はそれこそ飛ぶ鳥を落とす勢いでしたが、林が東宝に移籍した後は確固たるスターも出ず、伸び悩み、ヒット作にも恵まれなかった。
 なんといっても松竹では 田中絹代 を初めとする邦画界随一の女優陣を擁し、巨匠監督が居並ぶ蒲田(大船)撮影所がメインである。ゆえにその蒲田でちょっと人気にかげりが見えたり、峠を越えたスターや監督は、「京都をテコ入れしたいから」と甘言を弄されて下加茂や京都(太秦)撮影所に飛ばされる、といったことがあった。
 田中絹代との共演が多く、その絹代の恋人(絹代に誘われて、ちょくちょく逢瀬に及んだ)だった蒲田所属の 結城一朗 は、大正13年(1924年11月1日)に蒲田に入り、そこそこ人気も出た〝10年選手〟のスターだったが、昭和9年(1934)の秋頃、当時の蒲田撮影所所長・ 城戸四郎 に呼び出された。結城には薄々、話の見当は付いていた。『お小夜恋姿』 (昭和9年・松竹蒲田、島津保次郎監督)のロケ先の旅館でふと新聞を開いたら、(何の断りもなく)自分が下加茂の時代劇に出る、と書かれてあったからである。

 ある程度の覚悟はできていたが--この映画〔『お小夜恋姿』〕が私の現代劇最後の作品となり、蒲田を去る運命になってしまったわけである。
 重い足どりで、二階の所長室のドアをノックした。キナ臭い顔つきで入ってきた私を見やって、城戸所長さんは微笑みながら、
「まァ、そこへ腰を下ろせ」と言われた。
「どうだ、結城くん、時代劇をやってみないか。お前なら体もあるし、立派に時代劇が勤まるよ」
と私の胸の中を探るように言われた。
「所長さん、勘弁して下さいよ。どうも時代劇という奴は--特にチャンバラというものに全然経験がないし…」と、初めから尻込みするように訴えた。
 しかし、城戸所長さんは穏やかに、
「京都の方から、君をぜひにという話が本社に来ていんるだよ。下加茂撮影所の井上重正所長からも、特別の待遇をするからと言ってきている。とにかく僕からの返事待ちということになっているんだ。もし、うまく行かなかったら、その時はその時で考えることにするから--それに、花岡くんも行っていることだから」
と、私の痛いところを突いてくる。
       (『実録・蒲田行進曲』結城一朗、KKベストブック) 〔〕内、ジャズ野郎註。


〝重い足どり〟とか〝キナ臭い顔つき〟、また「所長さん、勘弁して下さいよ 云々」などの結城の言動には、京都行き(都落ち)がいかに嫌だったか、その悪感情がにじみ出ている。実際、こうやって人気が低下した、または年を取った男女のスター達が何人も京都に送られていったのである。
 京都行きとはいわば〝肩叩き〟であり、〝厄介払い〟であった。
 余談だが、城戸が結城に「それに、花岡くんも行っていることだから」と(結城の)痛いところを突いた花岡(菊子)という女優は結城が面倒を見ていた若手の女優で、後に、結城は彼女と結婚することになるのだが、当時、口さがない撮影所雀たちの間では「二人は恋仲である」という噂が流れていた。その花岡菊子が、下加茂の林長二郎(昭和9年だから林が東宝移籍の前)に呼ばれて蒲田から京都に出向していたので、「ねぇ、だからさ、アンタの好きな花岡もいるんだから、京都に行ってみない」というわけである。
 結局、結城は京都へ行き、その後、蒲田(大船)には戻ってこなかった。

 松竹のこの2つの京都の撮影所は、戦中・戦後に何度か閉鎖と復活(統合)を繰り返し、現在はテレビの 『必殺』 シリーズ『鬼平犯科帳』シリーズ (フジテレビ)を制作している松竹京都(京都映画を松竹が買収)となっている。

 それは、ともかく肝腎の野村芳太郎らはまたもココに出て来ない。もちろん、彼らはこの京都にも属していないのです。彼ら〝第3の男たち〟は、やはり東京は蒲田、戦後の大船にあって、花開く者たちなのです。  〔続く〕

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