松竹の監督系譜-蒲田(大船)調の行方 <その8>

◆芳太郎を引き受けた川島雄三という男  

 こうした次第で野村芳太郎は、川島雄三が属していた大船の傍流たる第3系統に追いやられたが、研鑽を積み、大監督になるべく階段を一歩一歩上がっていくのです。
 その川島雄三は当初から所内で〝鬼才〟と呼ばれていたが、助監督時代は師匠の監督を持たなかった。
 何故か--それは川島が、芳太郎とは違った意味で、非常に扱いにくい男だったからである。川島と松竹入社が同じ 池田浩郎(いけだ・こうろう) が当時の川島についてこんな風に語っている。

 川島っていうのは、まあ同期だけど、いろいろと癖があって、「俺の組に来てくれ、ぜひ組付になれ」と誘われるタイプじゃなかった。まあ同期だからしょっちゅうお喋りしたり、いっしょに酒を飲んだりしてたけど、酒を飲むとやたらに威勢がいいけど、日ごろはボソボソボソボソ喋るんだよね。酒飲むととたんに居丈高になって、もう人をクソ味噌に罵倒する。誰かにからかわれると、すぐ知らない人と喧嘩を始める。そういうタイプだったよね。
 …<略 *1>…
〔川島がなかなか監督になれなかった〕というのはやっぱりディレクターシステムで、何々組つまり名声と力量のある組についていないとダメなの。川島雄三はああいう男だし、組付きでなかったでしょ、だから優秀な助監督っていったらおかしいけど、優秀な人はみんなそれぞれ監督と組作って、一種のお見合いなんだよね。…(略)…
 で、川島雄三はどこのお見合いにも属さない…(略)…。
(池田浩郎『人は大切なことも忘れてしまうから-松竹大船撮影所物語』山田太一・斎藤正夫・田中康義・宮川昭司・吉田剛・渡辺浩〔ゆたか〕、マガジンハウス) ※〔〕内、ジャズ野郎註。


 酒を飲んでは暴れる、他人を誹謗中傷する、むやみに喧嘩っぱやい・・・総じてカツドウ屋にはこういう人種は多いのだが、そうした性向が最初から判っていれば、監督としては助監督にそうした男を入れたくない、と思うのが人情である。

 また川島には、終生彼を苦しめた業病〔劣勢遺伝的進行性萎縮症〕があり、戦時には召集されたが1日で帰ってきた。兵役に耐えられない身体だと直ちに判定されたからである。そして戦後は筋肉の萎縮が酷くなっていき、歩行にも不自由をきたす状態に悩まされる。

 しかし松竹大船に入社した時の彼はいたって壮健であって、西河克巳監督によれば、冬山にロケに行って一番スキーが上手かったのは川島だったという。彼は青森出身だからスキー経験があってそれで上手かったのだろうが、つまり当時はまだスキーをやれるだけの身体であったということだ。萎縮症はまだ本格的に発症していなかったことになる。

 だから川島が他の監督からのお呼びが掛からなかったのは、その病気のせいではない。性格的にちょっと頼りない面があり、それが奇異な素行と相まって、所内の信用を得られなかったからである。
 ゆえに川島はどこの組付にもなれずにアブれ、師匠としての監督を持たない一匹狼、いわば無頼(派)の助監督となる。呼ばれれば、どの監督の作品にも付くが、そこには師匠と弟子という密な付き合いはない。よって助監督としていい働きをしても、城戸所長に「アイツは優秀だから1本撮らせてやってください」という監督昇進のプッシュもない。この当時の松竹ではそうしたプッシュ(師匠監督からの推薦)がないと、よっぽど秀でた人材でない限り、一本立ちの監督になれなかった。 しかし--川島雄三は、そのよっぽど秀でた人材、であった。先の池田浩郎のコメントのところで、省略した <*1> には、川島について決定的な事が書かれている。

 ところがその〔助監督を採用する〕試験の結果、大庭秀雄、『君の名は』で有名な大庭秀雄が、川島雄三の試験の答案を持って、当時狩谷太郎が所長だったんだよ、〔その所長のところに来て〕やや興奮して
「隠れたる天才が現れましたよ」と言ったというんだね。だからあの監督登用試験っていうのがなかったら川島雄三は浮かび上がらなかった。      (前掲書) ※〔〕内、ジャズ野郎註。


 松竹大船の第3系統に追いやられた野村芳太郎は、傍流に追いやられたおかげで〝隠れたる天才〟川島の薫陶を受けることができたのであった。   〔続く〕

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