松竹の監督系譜-蒲田(大船)調の行方 <その9>

◆ 黒澤に褒められ、橋本忍と出会う

 〝隠れたる天才〟-川島雄三の薫陶を受けた事に続いて、芳太郎にとってもう一つラッキーだったのは 黒澤明 と出会えたことであった。
 松竹所属の監督ではない、他社の監督が大船で映画を撮る際、第1系統からも第2系統からも助監督がまわされたが、そうした時に「キミ、付いてくれるかな」と口が掛かるのはやはり第3系統の助監督だったようだ。
 黒澤は大船で 『醜聞』 (昭和25=1950年) 『白痴』 (昭和26=1951年)と2本撮っているが( 『八月の狂詩曲』 平成3=1991年、を含めると松竹では3本)、芳太郎は『白痴』で助監督に付き、名だたる〝完全主義者〟黒澤の執拗な演出を間近で見ることになる。しかもこの時、助監督としての仕事ぶりを褒められ、黒澤から「日本一の助監督」との(おそらく最高の)褒め言葉もちょうだいしている。黒澤明の脚本家チームの一人、 橋本忍『複眼の映像 私と黒澤明』(文春文庫) の中に書いている。

〔黒澤〕「僕はね、松竹の大船へ行って、『醜聞』『白痴』と、二本映画を撮ったよ。しかし、いいことは何もなかった。ただ、松竹の大船には、野村芳太郎という、日本一の助監督がいたよ」
〔橋本〕「日本一の助監督」
〔黒澤〕「そう、あんなのは、東宝にも、大映にもいない。日本一だよ」


 黒澤作品『白痴』は完成したが、長尺になりすぎて、大船撮影所所長の城戸四郎から黒澤は短縮するように指示される。もちろん、黒澤は短縮したくない。編集で短くする事を「フィルムを切る」というが、城戸と黒澤の間で「切れ」「切らない」の押し問答が繰り替えされていた。

「どうしても切れというなら、フィルムを縦に切れ!」

という黒澤の名言が残っている。
 だからこの時期の黒澤は非常に機嫌が悪かった。
 そんな黒澤邸(橋本忍も来ていた)へ松竹のプロデューサー・小出孝三國連太郎を銀座でスカウトした男、4月16日付【緊急寄稿 三國連太郎 <前篇>】参照)が城戸の伝言を持ってやってくるのだが、その小出と連れ立って野村芳太郎もやってきた。

 …(略)…松竹のプロデューサーの小出孝という人が、城戸さんの意を伝えるため、野村さん……ついさっき話の出ていた日本一の助監督、野村芳太郎さんと一緒にやってきた。
 黒澤さんは城戸さんの代理人のプロデューサーには、冷たく無視して眼を向けないが、野村さんにはニコニコ相好を崩し、早速私に引き合わせた。……
〔黒澤〕「橋本君は大正何年だ?」……
「七年です」
「野村君は?」
「大正八年です」
「同年輩だな、二人とも……これからは君たちの時代が必ず来る。二人とも仲良く、一緒に仕事をしろよな」
                                    (前掲書)


 と言って、橋本忍は黒澤監督から野村芳太郎を紹介されたのだが、この二人は後に監督X脚本家として〝一緒に仕事〟をするどころか、 『八甲田山』 (昭和52=1977年)を共同製作して大ヒットさせ、一時代を作ることになる。〝これからは君たちの時代が必ず来る〟との黒澤の言葉はまさに当たっていた・・・事になる。
 芳太郎と黒澤の交流はその後も続いた。黒澤明もなかな人の好き嫌いの激しい人ではあるが、芳太郎とは気が合ったようだ。

 すると、野村芳太郎は、傍流の第3系統に廻されたおかげで、鬼才・川島雄三の教えを受けるわ、黒澤明と一緒に仕事をして褒められるわ、シナリオ界の大家・橋本忍とも知己を得るわ、といいことずくめであった・・・事になる。

 しかも助監督時代、芳太郎がチーフ助監督となった時には 今村昌平 と出会う。入社試験で大いに大物ぶりを発揮し、早くも曲者ぶりをプンプン匂わせていた今村昌平を川島組に呼び入れて鍛え、今平が川島と共に日活へ去ると、やはりくすぶっていた 山田洋次 を助監督に付けた。山田とシナリオを共作し、現場では映画作りのテニヲハを教えていく・・・といったあたりの事は、当ブログの一番最初の記事 【日本の映画監督-大島渚もまた死す・・・】(1月16日付) でも軽く紹介してありますので、そちらをどうぞ。 〔続く〕


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