松竹の監督系譜-蒲田(大船)調の行方 <その10>

◆2派が融合した本流を継ぐ者は・・・?

 この【野村芳亭、知られざる巨人】を最初から読み返してもらうと判ると思いますが、もともと蒲田調(大船調)というのは、アンチ芳亭派の当時の撮影所長・城戸四郎が敷いた松竹映画のカラーだったから、芳亭調と蒲田(大船)調とは本来違うものだった(蒲田調を論じた4月6日付【野村芳亭、知られざる巨人 その17】参照)。

 芳亭さんは出演者に泣く芝居をオーバーにやらせて、それで観客の涙腺を刺激し、また描写そのものも大げさで豪奢で、ちょいとアナクロな感があった。

 それに比べて城戸の目指した蒲田調は、芳亭さんよりもっと目線を下げ「庶民感覚で自然体なドラマ」を、「飾らない生活描写」を、していこうというのが眼目であり、その当初は芳亭流との確たる違いがあった(のでしょうね。当時の芳亭さんの作品を見てないので、各種の映画本からの類推です)。
 城戸は小山内薫門下の島津保次郎、五所平之助らに蒲田調の映画を撮らせ、それが本流となっていく。だから狭義で言えば、小山内派の島津一家(五所、豊田四郎、吉村公三郎、木下惠介、中村登、川頭義郎)あたりが蒲田調の正統中の正統という事になる。とはいえ、小山内派イコール蒲田(大船)調という括りでいいでしょう。

 しかし描く世界はどちらも庶民(生活)だから自然と似てきて、いつの間にか小山内、芳亭の2派とも蒲田調と見なされて、共に蒲田(大船)調と呼ばれるようになっていく。
 つまり松竹十八番の蒲田調というものは、小山内派(城戸)と芳亭派の2つの本流が融合した形といえるのだが、戦後、この本流からこの大船(蒲田)調(以下、大船調)を継ぐ作家というものが出て来なかった。
 せいぜい小山内派の系統に 木下惠介 が出たぐらいで、その後が続かない。松竹の監督系譜 <その4>(5月4日付)を見ていただくと分かるように、木下門下の筆頭は 小林正樹 だが、小林は大船調を継ぐ、継がない、などというチマチマした領分を飛び越えた〝巨匠〟になってしまうので、その継承者の任からは外れる。
 次に木下の継承者となると 川頭義郎 (俳優・川津祐介の兄)ぐらいしかいない。川頭はいかにも大船調的な作家であり、本流を継承したと言えると思うが一家を成すには至らなかった(川頭監督は46歳の若さで逝ったが、その作風はやや小粒で、木下作品のような拡がりを持っていない)。

 松山善三 も大船調と呼べるソフトでデリケートな体質を持っているが、彼は監督デビュー作が松竹ではなく東宝系の 東京映画 であり、そこで撮った 『名もなく貧しく美しく』 (昭和36=1961年)が高評を得、一流監督の仲間入りをする。
 松山は監督の腕よりも先に脚本家として認められており、すでに大家であり売れっ子であった。松竹のみならず東映、東宝作品の脚本をよく書いたが、その流れで東宝で監督する約束ができ、『名もなく~』はそれが実現したもの、と 『日本映画監督全集』(キネマ旬報) にある。この映画化は当初、監督に木下惠介が予定されていた。

…(略)…師の木下の監督を予定していたが最終段階で意見が合わず、以前から東宝で松山が監督する約束があったため、傍系の東京映画で自ら撮ることになったのである。  (前掲書)

 というわけで、このいかにも大船調的な題材は松竹外で日の目を見た。皮肉な話である。
 続いて『ぶらりぶらぶら物語』(昭和37=1962年)や『われ一粒の麦なれど』(昭和39=1964年)といった具合に東宝系で仕事をしてゆく。この時期、松山監督が松竹で撮ったのは、『山河あり』(昭和37=1962年)のたった1本だけだ(後に撮った『母』昭和63=1988年 を含めても、松竹出身の松山監督の松竹作品は2本しかない)。

  つまりこれは大船調の流出である。

 松竹で育った木下学校のエリート助監督・松山善三は、何故、他社で映画を撮り続けることになったのだろう? 〔続く〕

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